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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑰ 【2007/12/31 00:00】
第十七話:オアシスの朝(後編)
>>はじめから >>前回の話

それから数分後に、コガラシは寝室のベッドの上で目を覚ました。その傍らで、キホーテが椅子に座って、彼を眺めていた。その頬に、小さな絆創膏が貼ってあった。

「・・・よう、目え覚ましたか。・・・驚いたで、急に暴れ出すから・・・」

コガラシはハッとした。どうやらキホーテの顔の絆創膏は、コガラシによるものらしい。

「・・・も、申し訳ないでござんす・・・あっし、急に気が動転しちゃって・・・」

「・・・いやいや、別に謝らんでもええがな。誰も怒ってへんし・・・」

レダは、ちょっと驚いてたみたいやけど。そう付け足したが、別にコガラシを咎めるような表情ではなかった。

「一体、何があったん?・・・って聞いときたいところやけど・・・」

怒りも無く、寧ろ慰めるような口調で、彼女は言った。全ては、優しさであった。彼女の溢れるような優しさを、コガラシは既に知っている筈だった。けれども考えてみれば、彼女には自分のことをまだ何も教えていなかった。自分がなぜこの砂漠にやってきたのか、今まで誰と行動を共にしていたのか・・・。

そのときコガラシは、洗いざらいのことをキホーテに話し始めたのだった。自分は素晴らしい魔道士に仕えているのだということ、その魔道士が今、この砂漠の平和を取り戻すためにひとり、一生懸命戦っておられるのだろうということ、そして自分は、その彼の命令に従って、この砂漠の各地の様子を調べて回らなければならないこと・・・それが、彼が言う目的の場所へ辿り着く下ごしらえだとのことだが、その実は全く何もわからないのだということ。そして、気付けば自分の故郷にまで、話は遡っていた・・・ずっとひとりぼっちで、ンゲが助けに来てくれるまでは、自分はただ雨に怯えながら、生きているのか死んでいるのかもわからないまま過ごしていくしかなかったのだということまで・・・。

キホーテは、コガラシが言う言葉一つ一つに、なんの反論もせず、頷きながら聞いていた。そして一通り聞き終わると、なるほどな、そう一言だけ述べた。感動した、というわけではない。悲しかった、というわけでもない。ただ少なくとも、受け入れた、という素直な一言だった。

キホーテは、それでコガラシのことを労わるような言葉は、何も口にはしなかった。彼は、そんな言葉を期待していたのかもしれなかった。お前も、色々苦労してきたんやな・・・と。しかしそれが彼女の口から出てこなかったのは、いささか驚きであった。

「なるほどな・・・お前がこの砂漠のことなぁんも知らんかった理由もわかったし、ひとりでなぁんも決めることができひんこともようわかった・・・せやからって、どないすんねん?お前は今、ここにひとりでいてんねんで?・・・まずその事実は、受け入れなあかんやろ」

少し、相手を咎めるようなきつい言い方ではあったが、事実だ。また涙が零れそうになるのをぐっと堪えながら、コガラシは彼女の言葉を聞いた。

「・・・お前の仕えとる魔道士がどんなやつなんか、何をしようとしとんのか・・・そないなことはよう知らん。せやけど、ちゃんとお前の言う通りの素晴らしい魔道士なら、それなりの考えがあって、お前をひとり飛び回らせたと、そういうことやないんか?お前ひとりで何かせなあかんことがある・・・その何か、教えられてへんやったら、自分で見つけるしかあらへんのや」

自分で、目的を見つける・・・そんなことが、自分にはできるのだろうか。コガラシは思った。そんな彼に、今度は優しく諭すように、キホーテは言葉を続けた。

「・・・ええか、人生いうもんは、自由なんや。何もやってもええんよ・・・他のポケモンに役に立つことをしても、自分だけの利益を求めても・・・ぶっちゃけて言ってしまえば、犯罪を働いて、投獄されて死ぬんも、そいつの自由や・・・けれどもワイらは、色々考えて生きてきた筈やろう。それをするのが好きか嫌いか、最初はそんな単純な選択からや・・・一つ一つ、ワイらは自分で選択して生きてきた筈やろ。さっきお前は、故郷の森で死にかけとったとも言うたな・・・死のうと思えば、死ねた筈や。せやけど今、お前はワイの目の前で、こうやって生きとる・・・それは、お前が死やのうて、生を選択したからやないんか?」

そう言われて、はっとした。本当に死を意識した瞬間があった・・・けれども、自分はそれを選ばなかったのだ。本当にギリギリのところになって、死が怖くなったから・・・しかしそれも、選択のうちであった。

ンゲと生活するようになってから、彼の全てはンゲのものと考えるようになっていた・・・ンゲが全て教えてくれたのだ。他者との関わり方から、世界の見方まで、生きるということそのものを。けれども本当は、そのもっと前から、自分の人生は始まっていたのだ。ひとりで生きていく中でも、自分は知らず知らずのうちに、ありとあらゆる物事に選択を下しながら生きてきたのだということに、気付いたのであった。

「・・・だんだん、わかってきたようやな」

コガラシの表情を見て、ようやく、キホーテは笑みを浮かべた。けれどもそれはまだ、ほんの入り口だ・・・彼女は日干しレンガで出来た部屋の壁に、視線を移した。

作られてから大分経つのだろう、その薄汚れた壁は、ここへ訪れる者たちを、ずっと眺めてきたのだろう・・・ここは小さい診療所ながら、毎年訪れる患者の数は決して少なくないのだと、レオナから聞いた。時には寝室のいくつかを利用して、そこに患者を入院させることもあるのだという・・・ひょっとしたらこの部屋でも、堪えようの無い苦しみを抱えて延々眠り続けた患者がいたのかもしれない。そう考えると、この壁の染みは、そういったポケモンたちの苦しみを刻み込んだものであるような気もしてきたのだった。その苦しみの重さを、このちっぽけなヤミカラスが知るには、まだまだ多くの時間が必要であろう。

「・・・お前はまだ幸せなやっちゃ・・・世の中には、生きとうても生を選べへんような連中が大勢いる・・・お前もこの砂漠の中で見てきた筈や。沢山の兵士たちが、戦場で命を落としていくんを。戦争という時代が、ワイらの選択を制限してしまうこともある・・・哀しいことやで。生か死か、そんな根本的な選択すら、制限されてしまうような世の中は・・・」

コガラシは彼女の横顔が、なにか冷たい、氷のような憂いを帯びていることに気がついた。その目は、今ではない、もっと過去のことを見つめていた。

彼女は視線を壁に置いたまま、ゆっくりと語りだした。それはコガラシの初めて聞く、彼女の過去であった。

「ワイは、戦争で兄貴を失った・・・11年前の、あの日・・・まだ無垢な心を持った、行商になりたての兄貴が、戦いに巻き込まれて、その若い命を散らしていったんや・・・」

いつの間にやら、日はもうとっくに暮れていた。

月の無い、新月の夜の闇が、悲しみのベールとなって、彼女の身を包んでいるかのようだった。


11年前、キホーテはまだ幼い女の子であった。唯一の兄弟である兄とは大分れており、丁度現在のキホーテと、同じぐらいの年齢だったという。とても心優しく、草花がとても大好きな兄だったが、彼はある日、行商の仕事を始めたいと言い出した。

両親は酷く反対した。どうせただ、周りにいる友人たちに唆されているだけだろう、そう言われて。周りの友人も皆ニャースばかりであったが、ニャースならば行商になるべきだと、妙なトレンドのようなものが、当時からあったのである。しかし両親が反対する理由は他にもあった・・・行商とは武器弾薬を運んで、他所の国の戦争に加担する悪い連中だと、彼らは考えていたのである。キホーテも、自然と平和が大好きな筈の兄がそんなことを言い出すのにはとても驚き、その日から兄を軽蔑した目で見るようになっていた。

しかし兄は、それでも夢を捨てなかった。父親からは勘当するとの言い渡しを受けたのだが、それを拒むことなく、すんなりと家を出て行ってしまったのだった。

それから、兄が家に帰ってくることは二度と無かったのだが、それは父親に勘当されたことが原因ではない。物理的に、帰るのが不可能になってしまったのだ。初めて出かけた先の砂漠地帯で、運悪く彼は、他所の国同士の戦争に巻き込まれてしまったのだった。彼の死体が発見されたとき、その体は見るも無残な状態だったと聞く。いわポケモン軍団が放ったのであろうロックブラストの散弾を受け、どう考えても無差別に攻撃したとしか思えない狂戦士のきりさき攻撃の前にずたぼろにされ・・・しかも遺体は家族に引き渡されることはなく、その場で他の戦死者と共に、焼かれて灰になっていったのだという。

唯一帰ってきたのは、彼がそのとき運ぼうとしていた荷物の箱だけだった。その中に入っていたものを見て、彼の両親並びにキホーテは、大泣きに泣いたことを覚えている・・・そこには、彼が生前好きだった草花の苗が、沢山入っていたのだった。

「兄貴は、なんも戦争のために行商の道を選んだんやないんや・・・たまたま時代が、戦争やったってだけのことや。兄貴はただ、他所の国にも草花の苗を運んで、砂漠の中に緑を増やす手伝いがしたかった、ただそれだけのことやったんや・・・」

後からわかったことだ。彼は、武器や鎧など、戦に関わるようなものは一切、運ぶのを拒んでいたとのことだった。しかしそのために、輸送のための安全なルートを指示されていなかったのだという――植物のようなものも物資として勿論重要だが、しかしそれだけでは十分な利益が得られない。ならば、少しでも最短のルートで、量を多く運んで貰う必要があったのだと、それがギルド元締めの言い分であった。その元締めは、戦争が終わった後に裁判にかけられたが、有罪となることはなかった。しかし幸いと言ってもいいものだろうか、裁判が終わった数週間後に彼は病の床に倒れ、今元締めを務めているのはまた別のポケモンである。

「・・・兎も角、ワイの兄貴は死んだ・・・夢半ばにして、果てたんや。ワイは、悔しゅうてしょうがなかった・・・家族から見捨てられ、それでも夢を実現するための仕事に就けたのに、まだ何もしてへんうちに死んでまうなんて・・・一体、兄貴の人生って何やったんやろう・・・悔しゅうて、悔しゅうて、ワイは人生いうものを呪わずにはいられへんかった」

戦争は翌年に終わりを告げた。しかしそれから暫く、彼女はゲンガーに魂を抜かれたように、塞ぎこんだ生活を送っていたのだという。けれども4、5年が経ち、周りの環境も徐々に変っていくと、彼女は失望からは何も生まれないということに気付いたのだった。そのときだった、彼女が、兄が果たせなかった夢を実現するために、行商になろうと思い至ったのは。

戦争が無い、束の間の平和な時代。まだ若干の幼さがあったが、行商になることは大して難しいことではなかった。両親も、反対することはなかったのだそうだ。ただ、女が希望してなるような仕事ではなかったため、同業者は皆男ばかり。そのため、今は少し男っぽい性格になってしまったのではないかと、ある程度は自覚しているのだった。

「・・・なんや、またくだらん話をしてしもうたようやな・・・」

すっかり暗くなった寝室では、ただ一つ、ランプの明かりだけが、ゆらゆらと揺れながら、部屋を照らしていた。コガラシは、何も言葉が出なかった。

「・・・なぁ、コガラシ。世の中は、全部不幸やと思わへんか?」

暫くの沈黙のあと、キホーテは再びコガラシの方を向いて、そう言った。

「ワイが行商になったことで、死んだ兄貴は天国で喜んでくれてるんやないかって、ついこの間までは思うてた・・・せやけど、世の中はまた戦争や。11年前と、何も変ってへん・・・そして、お前にも見せたやろ、ワイの荷物の中味。“するどいツメ”なんか・・・ワイらの身を守ってくれるためにも役に立ったけど、あれは紛れもなく戦争のための武器や。再び戦争になって、ワイは今、昔兄貴が拒んだ仕事を受け持っとる・・・しゃあないやろ、ワイかて生活かかってんねん。キレイごと言って、むざむざ死を選ぶなんてできへん・・・ワイは、兄貴とは違う。せやけど、そしたらワイは何のために生きてるんやろう?これが本当にワイの選んだ道やったんか?って、時々思うことあるよ・・・」

せやけど、せやけどな・・・。言葉を紡ぎながら、頭に兄の顔が浮かぶ。彼が死んだというのも、今思えば選択の一つではなかったのかという気がしてくる。あれが、彼の潔さだったのかもしれない。無垢なまま死んでいけたということが、彼にとっては幸せなことだったのかもしれない。・・・けれど、それでも。

「ワイはこの生き方を選んだ・・・せやから、どんなに不幸に感じてもうても、ワイは今更この生き方を変えるつもりは無いねん・・・ええか、それが選択っちゅうもんや」

「選択・・・」

久々に、コガラシは口を開いた。

彼にとっては、少し重過ぎる話だったかもしれない。けれども、彼は彼なりにそれを必死で理解しようとしているのだった。自分は、自分の過去の話をした。そしてキホーテも、過去の話をしてくれた。それは、本当に相手のことを信用しているからこそ、できることだった。ならば、話して貰った方は、それを受け入れる義務がある。

「まだ・・・不安でござんす。やっぱりあっし、今までずっとンゲ様のおっしゃる通りにしか、生きてこれなかったんでござんす・・・いきなり自分で、なにかを選択することなんてできるものなのか・・・」

・・・しかしそう弱音を吐いてしまうのは、仕方の無いことかもしれない。まだ自分には、それ相応の強さが無いのだ。自分の幼さを、コガラシは強く恥じた。

「選択は、もうしとるやないか」

けれども相手は、そう言って再び、優しく微笑んでくれるのだった。コガラシにとって、キホーテは大人だった。とても足元にも及びそうにない、魔道士と同じような存在であった。

「お前が、ワイらに付いてきて、今この国におること・・・それが、お前の下した、最初の選択なんやないんか?」

単なる直感も、また選択なのであろう。それに従ったことは、決して間違いなんかではなかったのだ。いや、そもそも世の中に間違いなんてものは何も存在しないじゃないか。一つ一つの選択が、全ての答えなのである。間違いがあるとすれば、それは何も選択できず、一歩も進めないままに終わってしまうことだ。

「初めの一歩は、もう既に踏み出せとるんや・・・まずは、そこからなんやないんか?」

ランプの明かりに照らされながら、キホーテの顔は笑っていた。静かに闇を受け入れる、夕日のような優しさだった。そして、それでもまだ答えが出ずに苦い顔をしてしまうコガラシに、彼女は続けた。

「一つだけ、ワイから提案があるんや・・・お前、各地の様子を調べることが、取り敢えず目的や言うたやろ」

「あ、はい・・・その通りでござんすが?」

「ワイの仕事、手伝ってくれへんか?丁度、ロシナンテ以外の助っ人がひとり、必要や思うてたところや」

「あっしが・・・キホーテさんの助っ人!?」

「おぉ、そうや。それやったら、この国の色んなところ、見て回れるで!それに、仕事について心配するようなことはなぁんもあらへん。ちょっと荷物を運ぶの、手伝って貰うぐらいのもんや」

それは、キホーテにしてみれば、オマケみたいなことだった。しかしそのオマケが、どれほどコガラシの心を救ったか。もはや彼女は紛れも無い仲間であると、コガラシは知った。胸のあたりから、何かが込み上げてきた。溢れるほどの、喜びであった。

ありがとうござんす・・・ありがとうござんす。言いながら、不思議なことにコガラシは泣いていた。うれしいのに泣いてしまうなんて・・・けれども同じようなことが、前も一度あった筈だった。そのことを、コガラシは決して忘れはしない。・・・おいおい、さっき言うたばかりやろ、ちゃんと自分で選択すんねんで?キホーテはそう言いながらも、コガラシが心から彼女の提案に乗ってくれたことが、とてもうれしいようだった。

キホーテにとっても、コガラシはなにか特別な存在になろうとしていたのかもしれない・・・いや、もう既にその通りであったのだろう。

レダが素晴らしい報告を持って階下から現れたのは、ちょうどそのときであった。

「やったよ、オニイちゃんたち!バクーダのオニイちゃんが、目を覚ましたよ!」

それを聞いて、部屋にいた二人は、思わず笑ってしまった。どうやら彼は、まだカンチガイしているようである・・・おい、マズイでボウヤ!そないなことロシナンテに言うてもうたら、噴火するで!

本当のことを聞いて驚き、レダが漫画のように天井まで飛び跳ねてしまったのは、さらにその後の話である。


「おーい、さっさと行くでー!」

朝食後、ロシナンテに荷物を積み終えたキホーテが、そう言ってコガラシを呼ぶ。病み上がりなのに早速働かねばならないロシナンテは多少不服な顔をしていたが、もはや慣れっこだったので、何も文句は言わない。何より、口がまだ朝食の食べ残しで塞がっていたので、喋れなかった。

「ま、待っておくんなせぇ~!忘れ物でござんすよ~!!」

コガラシが首に、何かカードのようなものを3枚下げて飛んでくる。それは、レオナのサインの入った、仮のパスポートである。

「取り敢えず、今日だけはこれで仕事ができるそうでござんす。正式なパスポートを発行するには一日かかるそうでござんすから、今晩はまた、病院の方に帰ってくるようにって言われたでござんす」

「ホンマか!?・・・あぁ、今日あたりから、他所で宿取らなあかん思うとったが・・・なんや、レオナには世話になりっぱなしやなぁ」

「いや、その点はこれで・・・」

と、なにやら薄い紙を取り出して、キホーテに差し出す。それには、クラボの実、モモンの実、チーゴの実・・・と、木の実のリストが書かれている。

「げ・・・なんやコレ!?」

「薬を作るために必要な木の実を、お使いで買ってきてほしいとのことでござんす。それから、これも・・・」

もう一枚、紙を取り出す。それには、今晩の夕食の食材リストが書かれていた・・・。

「・・・あのなぁ!ワイらはメイドやないんやで!」

「・・・いやいやご主人、これも泊まらせて貰ってる身・・・ちゃんと恩返しはせねばなるまい・・・」

ようやく朝食を食べ終えたロシナンテが言うが、キホーテはニヤリと悪い笑みを浮かべながら、それにこう返す。

「ほう・・・ほんなら、怪我の治療までしてもろうた上に、他の面子よりぎょうさん飯食うたったお前も、その分ちゃあんと働くんやで・・・」

「・・・は、はうっ!ご主人、私にこれ以上何しろとっ!?」

「そうやなぁ・・・折角じぶん、ワイらよりデカい四本足持ってんやから、それに雑巾はめて部屋ん中歩かせたったら、大分掃除できるやろうなぁ・・・」

「そ、掃除!?そ、それだけは勘弁・・・!」

意外と、汚れることが嫌いなロシナンテである。

「・・・ところでコガラシ、兵士の様態はどうや?」

と、話題を変えると、コガラシは少し暗い表情になった。兵士は、まだ目が覚めないのである。ちゃんと呼吸も正常には戻ってきている筈だし、何も食べていないのだからそろそろ目を覚まさねばならない筈なのだが、一向に起きる気配が無いのだという。

「しゃあないな・・・それ含め、レオナにはまだ世話にならなアカン、いうことかもな」

それ以上深く考えることは、止めにした。今は、自分たちがやるべきことをやるだけだ。

コガラシもロシナンテに跨り、行商一向は仕事に出発した。ロシナンテが走り出すとき、コガラシはひゃあっという悲鳴を上げた。そう言えば、ロシナンテに跨るのはそれが初めてであった。何から何まで、初めてのことづくしである。そんな中で、自分はちゃんとやっていけるのだろうか?不安は尽きることが無い。しかし、これが自分の下した選択である。もはや、引き返すことは無い。

太陽は、今日もぎらぎらと熱い輝きを放ちながら、彼らのことを見送っていた。この砂漠の中、ある土地では、干ばつのために今にも干上がってしまおうとしていた。ある地では、いつもの戦争が繰り広げられていた。ある土地では、裏切りものの暗殺者が、逃げ延びながらも遂に体力が尽き、気絶して、生死の境を彷徨い歩いていた。そしてまたある土地では、ひとりの魔道士が古文書を手に、新たなる目的に向かって突き進もうとしていた。

これからこの砂漠の世界で一体何が起ころうとしているのか、それは砂漠全土を見下ろすその太陽すら、知るはずがないだろう。けれど、太陽は己が体を必死に燃やしながら、その下で生きるもの全ての命を無償で支えようとしているのだ。太陽は未来なんかよりも、過去なんかよりも、現在に生きる全ての生き物を愛しているのだった。

それだけは、紛れも無い事実なのだ。

>>PQⅢ第一話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑯ 【2007/12/30 00:00】
第十六話:オアシスの朝(前編)
>>はじめから >>前回の話

窓の外から、優しい朝日が差し込んできた。どこからともなくやってきた風が、薄く透明なカーテンをゆらす。それと同時に、光のカタチもゆらゆらと揺らめき、まるでダンスでも踊っているかのようだ。

ねぇ、起きて。早く起きて、君も一緒に僕たちと踊ろうよ。そんな声が、小麦色の笑い声を伴って、聞こえてくるかのようだった。

コガラシは目を覚ました。この砂漠に来て、十日目の朝だった。

起きた時、頬に一筋、涙の流れた跡が残っているのに気付いた。なにか、哀しい夢でも見たのだろうか。全く思い出せない。夢とはそういうものだ・・・どんなに哀しい出来事も、どんなに楽しい出来事も、決してそれを現実の世界まで押し出そうとはしない。全て、その中に閉じ込めようとする・・・とても謙虚な性格のものなのだ。

けれども時々うっかりやで、何となくニュアンスのようなものだけを、仕舞い込めずに置き去りにしてしまうことがある・・・我々は時に、そういったものの中に現実を錯覚として見てしまい、思い出し笑いを堪えなかったり、哀しみが押し殺せなかったりするのだろう。

それでも・・・夢は夢だ。現実とはなんら関係が無い・・・その筈だった。

「よう、ネボスケ。ようやく起きたみたいやな」

と、寝室にキホーテが笑顔で飛び込んできた。しかし彼女は、コガラシの顔を見て、急にキョトンとした表情になる。

「・・・なんや、フヌケたような顔して・・・ヘンな夢でも、見とったんか?」

「・・・いや・・・全然思い出せないんでござんすが・・・」

そう言って、窓の外を見る――そこは繁華街で、朝早くから仕込みなどを始める飲食店のおいしい煙や、開店準備中の商店に並ぶきらびやかな装飾品の輝きが、辺りを覆っていた。その中のどこにも、夢の中のニュアンスは残されていなかった。残っているのはただ、頭の中の残像だけなのだ。

「・・・まぁまぁ、そんなん気にせんと、下で朝食できとるで。・・・早う降りてきぃひんかったら、ロシナンテがひとりで全部平らげてまうかもしれへんで!」

そう言われて、コガラシの頭は急に現実に引き戻された。それは困る、今日から一生懸命仕事を始めねばならないのだ。

はいはい、ただいまっ!ただいま降りていくでござんすから、あっしの分、ちゃんと残しておいておくんなせぇっ。・・・おいおい、ワイに言うてもしゃあないやろ。ホレ、顔洗って、とっとと行くで!朝からどたどたと、賑やかな病院であった。

朝日は、そんな彼らに対して微笑みかけるように、オアシスの中のその小さな病院を照らしているのだった。そして、コガラシたちが出て行った、その光の溢れる寝室には、悲しみのニュアンスなど、もうどこにも残されてはいなかった。


「・・・この国で生活するには、パスポートが必要なんですわ」

コガラシたちが訪れたその小さな診療所の医者、レオナからそんな説明を受けたのは、昨日のことだった。

「パスポートぉ!?・・・そんなん、どこで貰えるん・・・?」

「・・・入国の際に、王国の入り口にある役所にて発行される筈なのです・・・そしてそれを受け取らなかったものは、密入国者という扱いになるのですわ」

それを聞いて愕然としてしまうコガラシ一行。ならば、ヘンな地下通路を通って勝手にこの国へ入ってきた彼らは、犯罪者ということになってしまうのだろうか。

「・・・そ、そんなん聞いてへんで!?」

「・・・聞いてない筈がありませんわ!あなたも行商なら、仲間内から教えられませんでしたの!?・・・それに、入国手続きを済ませるためには、入国許可証が必要なんですのよ。そちらの方は、どうしたんですの・・・?」

そう言われて、ハッとするキホーテ。

「・・・そ、そや!オヤジ・・・あいつ、またうっかり忘れとったなぁ!」

「・・・えっ、お父さま・・・?」

キョトンとしてしまうレオナ。それに、噛み付くような勢いで、キホーテは吠えた。

「いや、ワイの父親なんやなくて、ギルドのオヤジや!・・・あいつ、ワイにこないな仕事を押し付けておきながら・・・重要なことはなんも言わんで!・・・あぁっ、もっとしっかり確認ととくべきやったぁああぁっ!」

・・・彼女の話は、こうであった。彼女は元々、故郷の周辺諸国のみを巡回する下っ端の行商として働いていたのだが、国の行商ギルドの元締めからの特務命令により、このオアシスの国への商品の輸送を言付かったのだそうだ。戦乱の世、腕の立つ行商は皆、武器やら食糧やらの輸送のために、砂漠の端から端まで、引っ張りだこ。いい加減人事不足、もといポケ事(ぽけじ)不足のため、下っ端である彼女にまでそんな命令が下されたわけであるが、そのギルドの元締め、酷くうっかりやであるために、度々物資輸送のために派遣する行商たちに、送るべき商品などの渡し忘れをしてしまうことがあるらしい。酷いときは、彼らの食糧や水なども渡しそびれるという始末だ。それによって死に掛けた行商たちは、数知れないという・・・。

「うぉ~っ、・・・そうや、何度も確かめたんや、輸送のための品物、ひとつひとつ!・・・それから、ワイやロシナンテの食糧まで!・・・しかしまさか、肝心な入国許可証の発行を忘れとったとは・・・」

「・・・ちょ、ちょっと!そんなデタラメ、信じられるとでも思ってますの!?」

そんなダメな行商ギルドの元締めなんて聞いたことがない・・・そう思ってレオナが口にした一言であったが、

「・・・デタラメなんかやない!ホンマや!・・・ワイの気も知らんでからに・・・ようそないなこといえるナッ!」

・・・そのキホーテの渾身の罵声に、場は一瞬凍りついてしまった。ともすれば逆ギレにも取れる態度だったが、その場にいたもうひとり、キノココのレダは、心動かされたのか心配そうな目で、レオナにこう訴えるのだった。

「・・・ねぇ、お姉ちゃん、どうにかならないの?このおニイちゃんたち・・・ボクのトモダチなんだよ!」

「・・・と、友達・・・?」

彼にそう言われると、なんとなく返答に詰まってしまうレオナ。

「・・・そうだよ、特にこのヤミカラスのお兄ちゃんなんか、地下で怪物に襲われたとき、ボクのこと捕まえて、空まで飛んでってくれたんだよ!そして、一緒にあの怪物をやっつけたんだ!」

いきなり話題に上ってびっくりしてしまうコガラシ。まあっ、そんなことが・・・そう言って、感心したようなレオナの視線を受けて、なんとなく恥ずかしくなって黒い顔を赤く染めてしまったのだった。

それから暫く、レオナは考えた。それでもまだあやしい部分は多々あるこの連中だが、そもそも昨日突然現れて、仲間の手当てをしてあげたのは、自分だ。しかもその後、詳しい事情は特に聞かず、一晩泊まらせてしまって・・・それで次の日になって、いきなり出て行けと言うのも、よくよく考えれば可愛そうな話ではある。

「・・・わかりましたわ。あたしが、何とかあなた方分のパスポートを、何とか手配してみせますわ」

「・・・ほ、ホンマかあっ!?」

パッと顔を輝かせるキホーテ。・・・しかし、またすぐ怪訝な表情に戻った。

「・・・けど、そないなこと、ホンマにアンタに頼んで、やって貰えることなんか・・・?」

一般の第三者が、そんなことできるのだろうか。そんなに簡単なシステムだったら、無いのと一緒である。そう考えたのだが・・・。

「・・・えぇ、大丈夫ですわ。安心してくださいまし。あたしには、この国の管理者としての権限が、一部許されているんですのよ」

「・・・はあっ!?」

それを聞いて、驚かない方がおかしい話だ。一体、何者!?そう訊ねる前に、レオナは素直に、こう答えたのであった。

「あたしは、小さな診療所を営む医者のひとり・・・けれども外では、お城の重役としての仕事も請け負ってございますのよ」

・・・それは、よくよく考えてみればそれほど驚くべきことではないのかも知れない。国民からの支持の厚い医者が、国の政治にも携っているというのは、他所でもよく聞く話だ。しかし、本当に驚くべきことは、その後の話に続いていた。

「・・・そして同時に、この国のキノガッサ王の息子であるレダさまの育成を預かる、乳母でもございますのよ」

「・・・王の息子!?」

言われて、意味も無くにぱっと笑うレダ。どうやら本人には、なんのことやらわかっていないらしい。

「・・・王の息子って・・・ほんならコイツ・・・いや、このキノココさまは、皇太子ってことなんか!?」

突然の告白に、キホーテはどう接していいやらわからない様子である。

「・・・正確には、次男坊さま・・・つまりは皇太弟ということになるのですが、それでも王位継承者候補であることには変わりありませんわ」

・・・なんだか驚かされる話ばかりで頭がこんがらがりそうになるが・・・しかしよくよく思い返してみれば、道理で昨日からこのニューラの態度、仰々しいと思ったものである。喋り口調といい、こどものレダに「さま」をつけることといい・・・。

それにしても、どうして皇太弟がこのような小さな病院に乳母とふたりで暮らしているのか・・・またまた疑問が湧いてくるところではあるが、今回のところは敢えてそれ以上は何も訊かないことにした。これ以上色々告白されると、それこそ脳みそが異常をきたしそうだと思ったからだ。

「・・・な、なんや・・・取り敢えずコガラシ、よかったみたいやなぁ・・・ワイら、犯罪者扱いされんで済みそうやで」

「・・・キホーテさん、あの子・・・偉い方なんでござんすか?」

コガラシはまだ事情がよく飲み込めてないらしい・・・もはや説明してあげるのも面倒臭そうである。取り敢えず、キホーテはその背中をポンと叩いてやり、安心せぇ、そう一言声をかけたのだった。

・・・そんなわけで、無事行商としてこの国で働くことが許されたキホーテ、並びにロシナンテであったが、問題はまだ残っていた・・・旅の供として付いてきたこのヤミカラス、コガラシと、それから今もまだ病床から目覚めぬ手負いの兵士、サンドパンである。この者たちは、一体どういう扱いにすべきなのだろうか。

「観光客扱い、ってことでええんちゃうん?」

「それが・・・観光客ならば、滞在期間は三日と定められているのでございますの」

レオナの話はこうだった。今は、砂漠一帯戦争状態・・・取り敢えず現在、この国はその被害から守られているものの、いつ日の手が近づいてくるやもわからない。そんな中、被害を最小限度に抑えるため、観光客として入ってくる者に対しては、それなりの制限が課されているのだった。

・・・それにこのご時勢、観光客が入ってくること自体、珍しいのである。そんなオノボリサンが街の中をうろつこうものなら、たちどころにこの街の盗賊たちに目を付けられて、身ぐるみ剥がされて殺さる、なんてことになりかねない。

「・・・勿論個人の責任ですから・・・とやかく言うようなことはしませんけれど。しかしあたし個人の意見として・・・あまりお勧めできませんわね。・・・それに、あのサンドパンさんの治療だって、いつ終わるやわかりませんもの」

「・・・ってことやで、コガラシ。どないすんねん」

コガラシは、しかしキョトンとした表情のまま、何も言えないでいた。どうやら、何か重要な判断を任されているらしいということは、明らかだった。しかしどう振舞うべきか、さっぱり検討がつかないのだ。

キホーテを見、レオナを見、それからレダを見た。・・・しかし誰も、助けてくれそうにはなかった。当たり前だ、いくら信用していた仲間とはいえ、よくよく考えればつい最近知り合ったばかりの仲間なのだ。それよりも、自分の育ての親であるンゲ・・・彼が、今は自分の近くのどこにもいないということに気付いたのだった。

どうすればいいのだろう。ひとりぼっち、直感の赴くままに、ひとりこんなところまで出てきてしまったが、いざ着いてみると、自分は何をすべきが、さっぱりわからなかった。ンゲの力になるためだったろう?その筈だったが、そのやり方なんてのも、何も教わっていないのだ。彼からは、今まで色んなことを教わってきた・・・何を信ずるべきか、どう生きるべきか、本当に様々なことを・・・しかし、ひとりぼっちになったときにどうすべきなのか、そんな肝心なことを教わっていなかったのである。今から訊こうにも、彼は今、ここよりずっと遠いある国にて、ひとり戦っている筈だった。コガラシは急に、世界が自分ひとりだけのように思えてきた。いつしか自分は、幼い日、父も無く母も無く、ひとりっきりで寂しい思いをして生きてきた故郷の暗い森の中へと、逆戻りしていた。

気付いたら、コガラシはわんわん泣いていた。こどものレダもびっくりしてしまうくらいの泣き方だった。どうしたの、お兄ちゃん、どこか痛いの?そう言いながら彼は、何とかコガラシを支えてくれようとした。しかし今のコガラシにはそれも、敵意のあるような行動に思えてしまった。

・・・オイオイ、コガラシ、どないしたん!?泣いてちゃわからんやろ?・・・まぁっ、ちょっと落ち着いてくださいまし!何も心配することはございませんのよ?彼を気遣うそんな言葉も、コガラシの耳にはこう聞こえた。

「何をしようとしているのだ、何のために生きているのだ?わからない、お前のような輩は、まったく無駄な生き物だ!お前なんて、何処へも行けやしない。誰も助けることなんかできない。ひとりぼっちで空しく生きるつまらない生き物よ、お前なんか消えてしまえ!」

酷く孤独で、深い悲しみに包まれた森の中へ、コガラシの精神は深く堕ちていったのだった。深く、深く・・・底なしの井戸のような、闇の中へ。

>>第十七話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑮ 【2007/12/29 00:00】
第十五話:謀略
>>はじめから >>前回の話

「・・・愚か者どもめが!何たる失態を犯してくれたのだ・・・!」

ブニャット王の恐るべき怒りの叫び声の前に、報告に上がった家臣、モウカザルは、まるで自分が叱咤されているような感覚に襲われた――ブニャット王が魔道士ンゲ暗殺のためにブーバー王の国へ送った刺客たちが、その目的を達成できなかった。そればかりか、よりにもよってかの大国の覇者たるブーバー王そのものを傷つけたとあっては、ブニャット王としても尋常でいられるはずがなかった。

刺客のひとりは、国への忠義を忘れたか、いずこかへ逃走中・・・それは放っておくとしても、もうひとりは敵国の手に落ちたという。それをポケ質(ぽけじち)として、かの国は今、ブニャット王の国へ要求を突き付けてきているのであった。

――ブーバー王が傷を負いし日に捕らえたこの者、ブニャット国の刺客であると見受ける。返して欲しくば、このような事態になってしまった貴国の過ちを認め、深く反省した後、再び我が国へ忠誠を誓うその証として、賠償金1,320億ポケを収めよ。さもなくば、翌日より我が国は、貴国を攻め入ることと致す――。

賠償金1,320億ポケとは途方も無い金額だ。その要求に応じることは、ブニャット王の国がブーバー王の国への経済上の植民地となることに等しかった。かといって、ここで戦いに応じるというわけにはいかない。ブニャット王の国は、つい先日、サンドパンの小国に勝利したのみ。それも、魔道士の力を借りて・・・。まだまだ実力の面で、ブーバー王が国の兵力に適うはずがないのだ。

「・・・しかしそれにしても、なぜかの国は、捕らえた間者を我がブニャット王の国の者であることがわかったのでしょうか・・・」

と、大臣ビーダルがポツリとつぶやいた一言に、モウカザルは応えた。

「・・・はっ、恐れながら申し上げまするが・・・かの国は、嘗てこの砂漠の覇権国として君臨していた権力から、他の多くの国全てに、己が国の間者を忍び込ませているとの噂を聞いてゴザりまする・・・それゆえ、かの国にはこの地における全ての情報が、筒抜けとなっておるのでゴザりましょう・・・」

「・・・それは誠カッ!?」

いよいよ、大臣も持病の頭痛がズキズキと出始め、彼は頭を重い岩のように抱え出した。

「・・・誠にございます、左大臣殿」

・・・と、家臣が応えるよりも早く、口を開いた者がいた。それは間に王を挟んで大臣ビーダルの右側に控えていた、右大臣ニャルマーである。左目に貝殻で作った眼帯を嵌めた、その碧眼の役人は、何か面白いものを見るように片方の目で左大臣と家臣を見比べながら、話を続けた。

「やつらの情報力を侮ってはなりません・・・やつらの耳はピクシーのそれのごとく、目はネイティオのそれのごとくと言いまする・・・。よって、左大臣殿もその辺りの娘に無闇にお声をかけて回るようなことをなされば、やつら、奥方様の耳にそのことをバラしに行くやもしれませぬぞ・・・」

「・・・こっ、これ右大臣!今は冗談を言っておるときではなかろう!」

頭痛のせいか、それとも冗談の内容に動揺しているのか、ビーダルは青ざめた顔で叫んだ。しかし当のニャルマーはといえば別に悪びれた様子もなく、今度は家臣のみに向かって、こんな台詞を吐いた。

「しかし貴殿こそ・・・よくそのようなことを知っているのぉ」

「・・・いえ、ただの噂に過ぎませぬので・・・出過ぎたことを申しました」

家臣は何とも申し訳無さそうに、そう言葉を紡いだ。

「・・・いや、別にブーバー王が国の噂について語っておるのではないわ」

が、ニャルマーの台詞に、彼は怪訝な表情を示す。

「私が言いたいのはこういうことだ・・・貴殿、よく家臣の分際で、王がかの国へ刺客を送ったことを知っておったな・・・まさか、それも噂で耳にしたなどという冗談で済ますわけではあるまい・・・」

右大臣のその物言いに、左大臣ビーダルもブニャット王も不思議な顔をしたが、家臣の顔には明らかな動揺の色が窺えたのを、右大臣は見逃さなかった。

「・・・モウカザルよ!貴殿は我が国の家臣には非ず!貴殿こそブーバー王が国より紛れ込んだ間者であろう!」

王も左大臣も驚いてモウカザルの方を向くと、先に炎が灯った尻尾がユラリと動くのがわかった。

「アーッハッハッハ!」

唐突な笑いに、王も左大臣も度肝を抜かれる。そのせいで、兵士たちを呼ぶのを忘れた。

「・・・いやぁ、右大臣ニャルマー殿!あっぱれでゴザル!その通り、拙者こそブーバー王が国より遣わされた、諜報員にゴザル!・・・だが、今更気付いたとてもう遅い!我らが捕らえしかの暗殺者が、貴殿らの国より遣わされた刺客であるという事実、先の会話よりしかと確認つかまつった!」

「・・・なっ、なんと・・・!」

「フフッ、ようやく尻尾を出しおったか・・・」

驚愕の表情と、確信の笑み。それぞれの大臣は、思い思いの顔をしながら、目の前の侵入者と対峙する。そんな中、王はようやく我に返って、城全体に響き渡るような声で叫びだす。

「・・・皆のもの、であえ、であえーっ!敵国よりのスパイであるぞーっ!即刻捕らえよーっ!」

しかし、とき既に遅し。モウカザルは、瞬く間に部屋の窓まで駆け出すと、その美しく高級そうなガラスを惜しげもなく打ち破り、城の外へ飛び出したのであった。この城の王の間は、一階ではなく三階に作られている。そのようなところから飛び降りれば、普通のポケモンならば無事では済まされない。けれども瞬発力の高いモウカザルにとっては、火の輪を潜るよりも簡単な事だった。

・・・尤も、例え火の輪を潜るのに失敗したとして、“ほのおタイプ”であるモウカザルが火傷を負うことはそうそう無かろうが。

「・・・うぬぬ、あれが、かの国のやり方か!」

「今度こそ本当にマズイことになりましたな・・・」

王と左大臣がそうやって口を開きかける頃、ようやくヤルキモノたちが部屋に到着した。彼らはただ、打ち破られた窓を見て、あっけに取られたような顔になるばかりだ。それを見るにつけても、王は怒り心頭に発せられた。

「・・・何をしておる!敵は外ぞ!」

それに、だばだばという愚鈍な効果音が聞こえてきそうな動きで、ヤルキモノたちは外へ出て行った。・・・それがもう無駄であることは、誰の目にも明らかであった。王は、怒りに脂肪の多い体をぶるぶると震わせ、左大臣の頭痛は、かち割れるほどの痛みに達しようとしていた。

「・・・陛下、それに左大臣殿も。落ち着きなさいませ。現状は何も変ってはおりませぬ」

ひとりだけ涼しい顔をしているのは、右大臣である。それを恨めしい顔で睨みながら、左大臣は言った。

「何をのん気なことを申すか!全く変ってしまったではないか!本当は、刺客が我が国の者であることはバレておらなんだのに・・・今はもう180°違うわ!」

「フフッ・・・そう思い込まされていたのと、事実そうであることに、何の違いがございましょうや?心の持ちようとしては、どちらにもなんら隔たりはございますまい・・・」

その台詞に、王はもはや呆れ返ったように口を開く。

「なにを屁理屈こねておるか・・・全く、虚け者めが。家臣皆して、ワタクシを馬鹿にしておるのか?」

「恐れながら・・・王陛下。我々家臣を馬鹿にしておられるのは、陛下の方でございますぞ?」

と、片方の目をギラリと輝かせ、ニャルマーは言った。当然のことながら王はギラリと目を怒らせるが、それでニャルマーがひるむことは無かった。その心は、いつでも冷静沈着。そしてその片方の目は、いつでも曇ることはなかった。

「王陛下・・・私め、一つ気になることがござりまする・・・。先程の間者、我が国の刺客が、誤ってブーバー王を傷つけたのだと申し上げました・・・」

「・・・それがどうしたのだ。スパイごときの申すこと、出任せやもしれぬだろうが・・・」

横から口を挟む左大臣を、ニャルマーはギラリとした目の輝きだけで静ませた。

「いえ、私めは、そうは思いませぬ・・・もし偽りであったならば、あの要求は不当としか思えぬので・・・」

確かに、それもそうだ。賠償金1,320億ポケなんて、敗戦時に課されるような額、そんじょそこらの兵士のひとりを傷つけたぐらいで要求できるものではない。ならば、刺客がブーバー王を傷つけたのは、確かなのだと思うが適切というものである。

「・・・間違いなく、刺客はブーバー王を傷つけてしまった・・・けれども、そうだとすれば、ブーバー王は今、どのような状況だとお察しなさいますや、陛下?」

「・・・ムッ、まさか、重症というほどではなかろうに・・・」

ブニャット王は、暫し考え込んだ。もしそれでかの王が重症とあらば、今かの国はパニックに陥っている筈である。先程のように、ワザワザ敵国に間者を送ってなどいられる場合ではない筈・・・。

・・・いや、よく考えよ。相手は嘗てこの砂漠全土を支配していた大国である。己が国の常識など通用するはずが無い。もし、王が重症を負っているとして、それを隠すために、態々このように相手国へ積極的に攻めているのだというのも、考えられぬ話ではない。

「我々が送った暗殺者・・・スナッチの腕前は、この私めが自信を持って保障致しまする・・・。家無き子として放浪していたところを引き取って以来、充分に厳しい指導と訓練に耐え、育っていきました・・・。実践では今まで、殺し損ねた相手はいない・・・正に殺戮マシーンとして活躍してきたのです。それもその筈、やつの爪には、致死量を遥かに越えた濃度のドラピオンの毒が塗られておるのです・・・」

ドラピオン・・・この砂漠にも多く生息する、大型のサソリ型ポケモンの名である。その名を聞いただけで、王も左大臣もぶるっと身震いをした・・・その毒が、ブーバー王の体を蝕まず、無事でいさせるのかどうか・・・。

「・・・成るほど、ブーバー王は今、窮地か・・・」

「・・・或いは、死にも近い状況やもしれませぬ・・・」

そう言ったニャルマーの目は、今をもってぎらぎらと輝き続けている。そんじょそこらの宝石なんぞよりも、眩く、しかし同時に、多くの悪意が込められた輝きであった。

「・・・だとすれば、今こそかの国を滅ぼす、いい機会にござりまする・・・。作戦は簡単。これより、かの国を挟む二つの大国、すなわち東のニドキング王の国と、西のボスゴドラ王の国へ使いの者を送らせなさいませ。両国総出で、かの国を攻め入るべし、と・・・」

「・・・そうか。これはそれらの国にとってもまたと無い好機・・・さすれば、ものの2、3日の間に、かの国は滅びるであろう・・・。これで、わが国はかの国からの要求を取り消すことができるというもの・・・」

王はようやくその険しい表情を緩めて、そう言った。ニャルマーの作戦は、しかしそれで終わりではなかった。

「それだけにはございませぬ、陛下・・・。東のニドキング王が国と、西のボスゴドラ王が国は、かねてよりハブネークとザングースの仲だと聞いておりますれば・・・かのブーバー王が国を打ち滅ぼした後、必ずや相見えることとなりましょう・・・」

そう、ブーバー王の国が滅びることは、その両国の仲介役として位置していたものが無くなるということでもある。そうなれば、両国の激しい争いの幕が開けることとなるだろう・・・そしてそれは、これまでのどんな戦よりも、巨大なものとなることが予想される。

「・・・も、もしそうなれば、どちらの国が勝利を収めたとしても、兵力完全に疲弊しきることは必須・・・さすれば、我が国がそこへ介入することも可能・・・?」

左大臣は、ようやく頭痛が治まった様子で、ニャルマーの話に食いつくようにして、そう言った。些か都合の良すぎる話であるとも思えたが、しかし可能性は無きにしもあらず。いずれにせよ、これで競争相手国が減るということには間違いないであろう。そのような謀略を打ち出した右大臣ニャルマーの目は、今や左大臣にとっても輝かしくて、畏怖の念さえ湧くほどであった。

ニャルマーは最後に一言、勝ち誇ったようにこう言うのであった。

「戦わずして、勝利を収める・・・それこそが、天下への近道にございまする」

>>第十六話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑭ 【2007/12/28 00:00】
第十四話:預言者
>>はじめから >>前回の話

「あの古文書は・・・アンノーンという文字で書かれている。アンノーンとは、それ自体がポケモンなのだ・・・一字一字、命を宿すいきものなのだ。比喩でも、なんでもなくてな」

驚愕とは、まさにそのような話を聞き入れたときこそすべきであった。長年生きてきて、どこかで噂には聞いていた筈だったが・・・それを単なる噂としておくのと、現実としてはっきりととらえるのでは、こうも隔たりがあるものか。アンノーン文字・・・一つ一つに目玉が付いているかのような奇妙なその文字を、ンゲには訳することができても、そのものがもつ性質は信じることができなかったのだ。

「・・・しかし、何を根拠にそんな・・・まさか、文字が動くとでもおっしゃるのですか」

「・・・その通りだ、貴殿」

再び、王は魔道士を見て、そう言った。

「・・・私も最初は気付かなかった。しかし長年繰り返し読み進めていくうちに、少しずつ内容が変っていくのを知ったのだ・・・。“ある日”、というのが、“何年何月”と書き改められ、“どこぞの何某”というのが、その者の固有の名となり・・・だんだん詳細を伝えるようになる。そして、古い予言が消え、その上に新しい予言が付け足されることもある・・・つまり、予言が更新されていくのだよ」

そんなこと、僅か1年しか読むことが適わなかった魔道士には気付けるはずもない。・・・それにしても、何と王は熱心に読まれたことだろうか。

「・・・更新が起こるのは、月に一度の晩・・・ただし、一体どこが書き換えられ、何が付け足されるかは、無作為的だと思わざるをえん。ある予言は一週間後の詳細を伝え、別の予言は、つい翌日の内容である場合もある・・・かと思えば、ひょっこり一年先の予言が現れたりと・・・全く、気まぐれな預言書だ。なぜそんなことが起こるのか・・・」

「・・・アンノーンたち自身の意志によるものなのでしょうか?」

その答えに、王は首を振った。

「・・・アンノーンに“みらいよち”の力は無い・・・考えられるとすれば、やつらを動かしている力が、他の場所にあるのだろう・・・」

「・・・まさか、古文書を作った者がまだどこかに存在していて、それが予言を行なっていると・・・!?」

ンゲの台詞に、王は満足したような笑みを浮かべた。

「・・・その者が誰か・・・一応心当たりはある。貴殿も、一度は目を通した筈だ・・・古文書の裏に、作った者を表す言葉が綴られている・・・」

その言葉とは・・・?思考を巡らし、魔道士は答えを導いた。確かそこには、こう書かれていた筈だ。

“この予言を行なうは、全て三日月の意志によるものなり”・・・

三日月・・・。魔道士は、窓の外に目をやり、丁度今空を見た。しかしそこには、一昨日の晩のような月は浮いていなかった・・・すっぽりと、影に食べつくされたかのようである。これより三日後、三日月は訪れよう。・・・しかしその月自体が、まさか予言を行なっているとは思えない。ならば、ちゃんと生き物として存在する月が、どこかに存在する筈だ。一体、どのような存在なのか・・・。

「・・・いいか、よく聞け。これはある晩のこと・・・」

王は、再び口を開き、奇妙な物語を語りだした。戦いのときいつも彼が口から吐く炎のようではなく、ほんの小さな蝋燭の灯のような声で・・・。

「・・・これより北へ一晩ほど歩いた先の地で、我が国の間者(かんじゃ)のひとりが、空に何やら光るものを目撃したそうだ・・・。他の国への偵察のために送った者だったが、帰る途中激しい勢いの砂嵐に巻き込まれ、酷く深手を負ったそうでな・・・おまけに、帰る方向も全くわからなくなったと。それで危機に瀕しているときに、光が現れ、そやつの体を包んだのだという・・・。化け物かと思い、間者が怯えるような声で何者かと問うと、光は温かく慈愛に満ちた声で、こう答えたのだそうだ・・・“わらわは、三日月の化身なり・・・”と。間者が気付いた時には、砂嵐は治まり、体の痛みも消え、帰る方角もわかっていたそうだ・・・全く奇跡としか思えぬ話だな」

王はそれを語り終えると、ゆっくりと顔を天井に戻して、目を閉じた。閉じたまま、また魔道士に語りかける。

「・・・勿論、その話と、先程の古文書の作者との因果関係は不明だ・・・だが、二つには共通点がある。三日月の預言者と、三日月の化身・・・そして先程、月に一度古文書が更新される話をしたが、それが起こるのも決まって三日月の晩。そして、間者が“三日月の化身”とやらに会ったのも、三日月の晩とくれば・・・もはや関係を信じずにはいられまい」

「三日月・・・」

静かな声で、魔道士は呟いた。それに王は頷き、言葉を返す。

「・・・貴殿が阻止しようとしている“砂漠の魔獣”の目覚めに関する予言は・・・未だ更新されぬまま。次の三日月の晩、更新されるのに賭けるという手もあるやもしれぬ・・・しかしそれがだめだったならば、もはや手遅れにもなりかねんのだ。ならば、直接預言者の元に訪れ、予言を完全なものにするよう、頼み込むしかあるまい・・・」

・・・確かに、今までのように国から国へと転々とするやり方では、いつ目的に近づけるのかという不安もあった。が、その“三日月”とやらに会えば、全ての謎が解明されるやもしれない。そうでなくとも、きっと何か重要な鍵が掴めるはずだ・・・。

それから、暫くの沈黙が続いた。城の外の、ずっと先の砂漠で、野良犬が吠えるような声が響き渡るのが聞こえた。少し哀しげにも聞こえるその声は、月の無い静かな夜の闇の中へ吸い込まれ、あとは消えていくだけだった。

「・・・明日にでも、また旅立つのであろう、貴殿よ・・・」

やがて口を開きそう訊ねる王に、ンゲはただ、わかりませぬ、と答えた。

「三日月が出るのは、これより三日後・・・それまで、待つ必要がございましょう・・・」

それに王は薄っすらと目を開きつつ、言葉を返す。

「・・・ほう、今しばらくこの地に留まるつもりか・・・?しかしな、貴殿よ。この地には、他には何も貴殿の求めるようなものは残っておらぬぞ」

「・・・確かに、そうやもしれません・・・。しかし、王が・・・」

「・・・なに?もしや私の様態が心配であるから、離れるわけにはいかんなんぞとほざくのではあるまいな?」

その通りだった。しかし王は、それ以上何も魔道士に喋らせようとはしなかった。

「・・・貴殿がいようといまいと、私の怪我の治る早さに違いはないわ!ならば、貴殿は貴殿のすべきことをせよ。それが先決であろう!よいか、旅立てと言ったら旅立つのだ!」

そう言われてもなお、躊躇する魔道士に、王はとうとうこんなことまで叫んでしまった。

「・・・ならば、こうしよう。私が傷を負ったのも、元はと言えば貴殿の責任だ!そんな失態を犯した貴殿を、もはや私の傍に置いておくわけにはいかん・・・追放だ!さっさと出て行け!」

そうまで言われれば、もはや魔道士に言い返す術は何もなかった。ただ、黙って王の間を後にするだけだ。後ろ髪引かれるような思いを、何とかかんとか断ち切りつつ・・・。

しかし、部屋から出て行く寸前、王はまた、魔道士に声をかけた。

「・・・報酬は、ちゃんと用意してある・・・我が側近より受け取られよ。それから、古文書を持っていくことも忘れるではないぞ・・・あれが無ければ、貴殿がこの地を訪れた意味は無いからな・・・今、城の書物庫の中だ。・・・それからもう一つ。古文書の122ページだけは、絶対に読んではならぬぞ・・・いや、別に大したことが書かれているわけではないがな・・・深い意味は、何も無いのだ」

最後の一言は、あまりにも奇妙だった。しかし魔道士は、それについて何も触れることはしないでおいた。ただこの一言だけを言って、部屋を後にしたのだった。

「・・・早く、回復なされませ・・・そして事が全て平穏に終わった際には、またお目にかかりましょうや・・・」

「・・・二度と会うものか!」

王が最後に言い放ったその一言が、彼が魔道士に伝える最後の言葉であった。


魔道士が出て行った後、王はただひとりきりで、ベッドの上に横になっていた。

「・・・もう、魔道士殿は帰られましたかの」

やがて医者のスリーパーがそう言って戸を叩いたが、王は彼を通すことを許さなかった。

「・・・暫く、ひとりにしてくれ」

そう言った彼の目から、はたと零れ落ちたのは、星だったろうか。きらきらと輝きながら地面を目指し、やがてそこに達すれば、弾けるように消えていった。深い、悲しみの星よ。

ああは言ったものの、魔道士は古文書を受け取れば、読むなと言ったページを即座に読むことであろう。どうして最後にあのようなことを言ってしまったのか・・・今にして思えば、悔やまれてならなかった。何も言わなければ、かえって気付かないまま、終わりに出来たかもしれないのだ。

あれを知ったら・・・魔道士は何と思うだろうか。だからワシは、ひとりっきりで戦場に向かうと言ったのだと、溜息交じりに言うのであろうか。しかしそれが無理だったのも、わかってもらえぬものだろうか。あのときは、前へ進むときだったのだ。一度決断したならば、途中でその考えを改めるようなことがあってはならないと・・・そのことを教えてくれたのも、あの魔道士本人なのだ。

・・・例え自分の身に何が起こるかわかっていたとしても。いや、寧ろわかっていたからこそ・・・前に進むしかなかった。覚悟は、していたことなのだ。しかしいざその時を迎えようとなると、こんなにも辛いものなのか。体も、心も。もはや息をするのも苦しいくらいだ・・・。あのアサッシンの爪の先に塗られていた毒は、完全に王の体を蝕もうとしていた。

・・・しかし。それでも自分は、誇りに思える行いをやり遂げたのだという達成感で、胸はいっぱいだった。ずっと尊敬の的だった恩師に、ようやく自分は恩返しをすることができたのだ。どうか・・・無事で生きてください。そして、この地に平和を・・・。口では酷いことを言いました、しかし私は信じているのです・・・。

ずっと、ずっと信じています・・・あなたのことを・・・。

その思いの先にある者は、そのとき。

城の外で、手に古文書を持ったまま、泣いていたのだった。

開いたそのページには、この日、偉大なる王ブーバーが、若くしてその命を失うであろうという予言が、はっきりと記してあった。

>>第十五話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑬ 【2007/12/27 00:00】
第十三話:古文書
>>はじめから >>前回の話

沈んでいくのは、九日目の太陽だった。

いつもと変らない夕日が、いつもと変らない笑みを投げかけている・・・変らない、自然は何も変っていやしない。なのに、時として違った印象を受けてしまうのは、単に自分自身の心境の変化によるものだ・・・。そのことを、魔道士にはもうわかっている筈であった。

あの戦場から、傷を負った王は急いで運ばれた。つい先程まで王の安否を気遣う多くの兵士たちが、王の部屋の前に溢れていた・・・それも、体中砂だらけという汚い格好で。城の中にまで穢れを持ち込むではない、と、彼らを追い返すべく側近のワカシャモたちが飛び回っていたが、側近たちの心にも、彼ら兵士たちの不安は通じていたろう。その目に、兵士たちを叱る厳しさはなかった。まるで宇宙の隅に放り去られたような不安げな目をした兵士たちと、なんら変るところがなかったのだ。

ともかく今は、彼らは城の中庭にて待機することを強いられたのである。魔道士も、ただそこで夕日を眺めているより他に、すべきことはなにも無かった。

「ちくしょう!」

一匹のマグマラシが、悲痛な声でそう叫んだ。

「何でこんなことになっちまったんだ・・・こんなことに」

まるで自分を責めるかのようなその台詞は、これからやってくる夜の闇の中へと投げかけられた。そしてそれに引き寄せられ、やがて空全体へと染渡っていった。

と、魔道士の傍で一つ、騒ぎが起こった。リザードの一匹が固いこぶしを振り上げながら魔道士の元へ寄ってこようとし、それを周りの者が3匹がかりで必死に止めようとしている。

「お前が悪いんだ、お前が・・・!本当は、お前がやられる筈だったんだ!チクショウ!」

・・・馬鹿なことはよせ、この無礼者!我らの英雄に、何という口の聞き方をするのだ!リザードに対しては野次が飛ばされるが、それで彼の勢いが留まるわけではなかった。

「何とか言えよ、ジジィ!・・・お前の存在は元から、俺らの国への災いなんだ!10年前もヘンな予言しやがって・・・それで先代の王は死んだんだ!そうだ、お前が殺したんだ!そうやってまた今度も・・・ブーバー王を殺す気だったんだろう!?」

正気の沙汰ではない。しかし言われた方のンゲとしては、心に深い杭を打ち込められるかのような気分であった。

それから、それに賛同する者がいたのも事実だ。彼らは狂ったように騒ぐリザードに対して冷ややかな視線を送りつつも、魔道士に対しての視線も、決してそれまでの、仲間に送るような温かいものではなかった。信頼というものが、完全に失われているような目だった。

心というものは、空と同じではないか。昼間どんなに温かい光を放っていても、宵闇に沈めばそれは失われる。残光だけが塵のようになって、微かに瞬くのみである。さらに暗雲が垂れこめれば、それすら残りはしない・・・。

魔道士は、何も答えることはできなかった。ただ哀しげなものを瞳に託し、そのリザードを見つめることしかできなかった。リザードの怒りはそうしている間にも益々高まり、尻尾の炎もだんだんと青白く変わっていった。・・・まるで、そこにも深い悲しみが込められているかのように。

「・・・貴様ら、何を騒いでおる!静まらんか!」

そこへ、側近のワカシャモたちが腕組みをし、現れた。場は、一瞬にして静まった。彼らが来たということは、王に何某かの変化が見られたことを意味していた。もはや自責したり、誰かを罵ったりする者は誰もいない。そこにいる全員が、ただ側近たちの次の言葉を不安そうな顔で待っていた。

中でも一番背が高く、とさかの大きなワカシャモが前に進み出た。その表情は、愚かな兵士たちを咎めるような厳しいものだが、その中にはしっかりとした冷静さがあった。

彼は、落ち着きのある深い声で、こう言った。

「王が、お目覚めになられた」

その一言で、その場の全員が、一斉に目を輝き出す。また、わっと騒ぎ出しそうだったが、まだ側近の話は終わってはいなかった。

「それで・・・王より言付かいし事を伝える。魔道士ンゲよ、そなたのみ王の元へ参られよ、と」

その台詞こそ、兵士たちを再び騒がせるものだった。この災いをもたらす者のみに、王がお会いになると・・・?先程怒りに打ち震えていたリザードは、完全に意気消沈してしまったかのようだった。他の賛同者たちも、魔道士に対する態度の一新を迫られたかのようだった。

「わかったな、ンゲ」

自分よりも断然齢が下の、この若き側近に話しかけられ、魔道士は今初めて口を開いた。

「御意にございます」

そして、ようやく輝き始めた一番星のようなそんな台詞を吐いたのだった。


「・・・おぉ、来たか・・・近う」

王の間へ入ると、ベッドより、弱々しげな声が聞こえた。今朝までの活き活きとした若者の声とは、到底思われない。必死に身を起こそうと手を伸ばすが、それはどちらかといえば、宙に舞ったほこりか何かを掴もうとしているような様子であった。

「これ、安静になさらんか、若君」

隣で声をかけ、その手をそっと王の胸の上へ下ろさせたのは、医者である初老のスリーパーだ。魔道士が近付くと彼は、その耳にぼそっと、王の様態を伝える。

「取り敢えず今は、ただお目覚めになられただけじゃ・・・暫く動くことはままならんだろう。・・・こんな言い方をすれば不謹慎と思われるやもしれんが、見事な“きりさく”攻撃じゃよ。間違いなく急所を捕らえておるわ・・・なかなかやり手のアサッシンじゃったな」

「・・・して、治るのか?」

・・・それが、の・・・。魔道士の質問に、医者が答えようとしたそのとき。

「・・・なにをぼそぼそ言うておる・・・魔道士を呼んだのは、この私ぞ?」

苛立たしげな声を上げ、王が魔道士らを睨んだ。その目は、体の具合をはっきりと反映しているかのように酷くやつれ、どろんとしている。

「おぉ・・・お労しゅう、陛下・・・」

恭しく、魔道士は頭を垂れた。それに対しブーバー王は、ふふっ、と、笑い声を上げる。いかにも苦しそうな笑い声を。

「このような傷を、もしも私ではなく貴殿が受けておったら・・・間違いなく即死であったろうな?」

「申し訳ございません・・・陛下」

「・・・なあに、大したことはあらぬわ・・・これしきのことでくたばる、王ではない・・・」

王の台詞は、威厳に満ちているというよりも、どちらかと言えばただ必死に強がっているだけのようにも思えた。

「・・・それよりも、魔道士よ。貴殿にだけ、どうしても伝えねばならぬことがある・・・」

王はそれから、手で宙を掻いて、何かを撥ね退けるような仕草をした。医者のスリーパーは重い腰をよっこいしょと持ち上げ、一旦部屋の外へと出て行った。王の間は、魔道士と王のみになった。

それから暫く、沈黙が続いた。その間、王はゼェゼェと息苦しそうな呼吸を続けていた。・・・ただの切り傷を負っただけの者とは思えない、酷い苦しみようである。よほど傷が深かったのか、或いは―――。

「・・・その前に、訊いておきたい。昨日話した古文書について、貴殿はどれくらいのことを知っておる?」

それは明らかに、この王のほうが、魔道士よりも多くのことを知っている、という言い方であった。当然と言えば当然であろう・・・なにしろ古文書を所有していたのは、11年前にばったりとここを訪れた魔道士ではない。王国の方である。その王国が、古文書について何も知らないとは考えられない話であった。

しかし事実、あの古文書はそれまでだれにも触れられることなく、城の書庫の中でずっと息を潜めていたのである。魔道士ンゲが手に取る、そのときまで。

「・・・ただの伝説の書とは、思われませぬ・・・随分昔に作られた風を呈していながら、近々のことまで、あれには記されておりました。何年、何月の戦で、ある国が滅びる・・・何年、何月の日に、ある土地で数少ないスコールが降る・・・など。ワシにも、詳しいことはわかりませぬ・・・しかし強いて言うならば、あれは・・・」

「・・・そう、あれは預言書だ。紛れも無い・・・未来を映す、書物だ」

王は、魔道士から目を離し、虚空を見つめながらそう言った。まるで、天にいる神か何かに話しかけるかのようだった。

「私もあの書物を読みながら・・・何と馬鹿なことが書かれているのかと思った。しかし予言は、尽くに実現していったのだ・・・ある朝、預言書通りいずこかの土地がスコールに見舞われ、ある日、預言書通りいずこかの国が干ばつ(※)で滅び、そしてある晩、預言書通り私の父が、病で死んだ・・・。そうなればこそ、私もあの古文書を信じずにはいられなかったのだ・・・。しかし、そのような書物がなぜ、貴殿が見つけるまで誰の目にも触れなかったかは、私にもわからない・・・」

言葉を一つ一つ選びながら、王は話を続けた。間に生まれる僅かな空白にも、全て意味が込められているかのようであった。それはまるで、小説家がほんの僅かな句読点の位置にもこだわり、言葉を紡ぐのにも似ていた。

「これは、私の推測でしかないが・・・恐らく、あれは禁断の書なのだ。未来を映す書物を、私以外の誰も見ようとはしなかった・・・父が死ぬ前、一度見せようかとしたことがある。これは必ず、王の仕事の役にも立つと、そう言ったのだが・・・父は、決して目を通すことはなかった。なぜ?・・・答えは簡単だ。例え信じるにせよ、信じないにせよ、誰も自分の死までの物語を、知りたいとは思わないからだ・・・」

恐らく先人も、皆その書物を嫌ったことだろう・・・破壊こそしなかったものの、ずっと誰も目の触れぬところへしまっていたのだ・・・城の書庫の、奥深くへ。

「けれども貴殿は・・・見つけてしまった。いや、あの古文書自体が、貴殿を待っていたのだ。今こそ予言が必要だというとき、そのときにあの古文書は、自分から貴殿のもとへ、現れたのだ」

「成る程・・・そうかもしれませぬな」

比喩的な王の言い方に、魔道士は頷いた。だが・・・、

「・・・貴殿、よもや信じてはおらぬな?」

王はまたふふっと笑って――相変わらず苦しみのこもった笑い方だったが――、話を続けた。驚くべき事実を、その口から語りだしたのだった。

「私は比喩を言っているのではない、ンゲよ。私が『現れた』と言えば現れたのだ、古文書は。・・・なぜならあの書物は、実際に生きておるからだよ」

※干ばつ・・・「旱魃」と表記するのが正式。

>>第十四話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑫ 【2007/12/26 00:00】
第十二話:哀しみの笑み
>>はじめから >>前回の話

砂漠の中を、二匹の毛の生えたポケモンが走っていた。片方は先程の戦場でも目にした、青い目のマグマラシである。否、よく見るとその体は、本物のマグマラシよりも若干小さい。そして前後の足には鋭く尖った爪が生えており、走るその姿勢は、針金でも入れたようにピンとまっすぐだ。

それは、マグマラシに化けたマッスグマであった。

彼は走っていた。ただ死に物狂いで、阿鼻叫喚の戦場から一刻も早く離れようと、砂漠の中を走っていた。しかしそれは何も特別なことではない。いつだって、彼は死に物狂いだ。なぜなら彼には、いつも死が隣り合わせにくっ付いていたのだから。

「スナッチ、巧く嗅ぎ分けたわ!脱出経路はこっちよ!」

その前方にて、彼が後で合流した相棒のグラエナ、ジェシーが叫ぶ。彼女の「かぎわける」能力は常に正確だ。確実に自分たちは、戦場から離れている。

・・・しかし。彼は思った。それでいいのか?まだ自分は、目的が達成できていないというのに・・・。

「だめよ、スナッチ。後ろを振り向いてはだめ」

彼の様子に気付いたか、ジェシーは言う。そうだ・・・今戻るわけにはいかない。戻ればただ、大勢の兵士たちの餌食にされるだけだ。兵士たちの、怒りの矛先に触れるだけ・・・なぜなら自分は、恐ろしい失敗をしでかしてしまったのだから。

あの王を・・・“ほのおポケモン”大国の指導者、ブーバー王を、誤ってこの手にかけてしまったのだから。

予定通り、雇われ魔道士一匹を殺しただけならば、こんなことにはならなかった筈だった。しかし今、何百という兵士たちの怒りは、スナッチ一匹に向けられているようなものだ。敵としてはあまりに大きな存在を、自分は傷つけてしまったのだ。その怒りから、自分は逃げ切ることができるのであろうか?

そして更にまた一つ恐ろしい考えが、頭に浮かんだのである。

「・・・な、なぁ、ジェシー?」

「なに?まだ不安なの、スナッチ?」

彼を気遣うように、ジェシーは声をかける。いつだってそうだった・・・自分が初めて殺しの仕事をやり終えたときから、いや、それ以前、親に捨てられ、浮浪者としてただ街中をうろついていた頃に出逢ってから、いつでも。彼女はいつも、不安なスナッチの心を、その優しい声で鎮めてくれた。

「・・・このまま国に帰れたとして、俺たちは無事でいられんのか・・・?」

「・・・なっ、何を言ってるのよっ!?」

否定しながらも、明らかに彼女の顔からは、動揺が伺えた。

「・・・確かに、あなたは仕事に失敗した・・・そればかりか、今誤って傷つけてはならない一番大きな存在を、手にかけてしまった・・・これが、我が国の王の責任として問われたら、問題なのは確かよ」

「・・・そうだろう、ジェシー!?」

吠えるように、スナッチは叫んだ。

「俺ら・・・国に帰っても殺されちまうだけだ!王は必ず、俺らの存在を抹殺しようとする筈だよ、なぁ、そうだろう!?仕事のできないやつは、捨てられるしかねぇんだ・・・それがあの国のやり方なんだよ!なぁ、ジェシー、逃げよう!どこか遠い場所へ、俺たちだけで逃げよう!」

「・・・黙って!」

突然、ジェシーは足を止め、そう叫んだ。スナッチは急には立ち止まれず、やや彼女を追い越してしまったが、そこから振り返って、彼女と向き合うような体勢を取る。

ジェシーは、怒りを露にした表情で、彼に向かって叫んだ。

「そんな筈ないでしょう!?・・・王は、身寄りの無いあたしたちにでも仕事を与えてくれ、いつもちゃんとそれに見合う報酬を分け与えてくれた・・・本当なら、飢えて、干からびて、雑草のように死んでいく筈だったあたしたちが・・・今までこの不毛の砂漠地帯で、毎日しっかりした食べ物と水を与えられ、生きてこれた。それは全部、王のお蔭でしょう!?」

「・・・あぁ、そうだよ。その通りだ!しかし知ってなきゃいけねぇ・・・それは、ちゃんと仕事をこなせた者にとってのみだ」

甘いよ、ジェシー・・・君は何もわかっちゃいない。まだ怒りに打ち震える彼女に、教えなければいけないことがスナッチにはあった。自分もたった今思い出したばかりで情けないのだが、とても重大な話を。

「お前はサポート役だからわかんねぇのかもしれねぇが・・・もう随分前に、凄腕の暗殺者と謳われたアブソルと、ルクシオのタッグがいたらしくてな。ターゲットに返り討ちにされて殺されたって話だが・・・本当のところ、どうだか知ってるか?」

なぁ、スナッチ。お前、知っているか・・・?それは以前、彼が先輩に教わった話だった。暗殺者から暗殺者へのみ、伝えられる話・・・この仕事に携る者として、知っておくべき心得のような、身も毛も弥立つ話だ。数年前、ターゲットに半ば返り討ちにされつつも、何とか逃げ帰ったアブソルのタッグを待ち受けていたのは、仕事に失敗した彼らを労うような優しい王ではなかった。たった一匹のターゲットを取り逃がすようなくだらない暗殺者など、ウチにはいらん。そう言って容赦なく彼らを死刑台へと送る、残虐な王であった、と。

あの王がそんなに冷酷だとは・・・とても信じられない話だ。しかしそれと同じ状況に自分が立たされた今、彼は身の危険を感じずにはいられなかったのである。ともかくその話を、この無知な相棒に教えてあげなければ・・・。

「・・・知ってるわ」

しかし、彼の相棒はすぐにそう返答した。驚かずにはいられなかった。

「あたしにだって、他の暗殺者とのコネはある・・・それくらい、聞き覚えがあるわ。実際、それを見たって連中も・・・」

「じゃあ、どうして!?」

今度は、スナッチが怒る番だ。どうして知らないフリをしたのか・・・王の本性を、本当は知ってて、それでも逃げないというのか!?

「スナッチ・・・それでもあたしたちは、あの王に沢山の恩義があるの。それなのに、裏切るようなこと、できるわけがないわ。処刑されるんなら、素直にそれに従うつもり・・・」

「・・・どうかしてるぞ!?なぁ、これは裏切りなんかじゃない。正当な自己防衛だ!恩義に報いるためだけに、わざわざ命を捨てるようなことでもないだろう!?」

「・・・じゃあ、一体どこへ逃げるつもりよ!?」

その問いに、スナッチは答えられなかった。どこもかしこも戦争状態のこの砂漠において、一体どこへ逃げ場があるというのか。更に、身軽に動けるよう、今は水も食糧も携帯してはいないのだ。飢えと乾きは、すぐに襲ってくるだろう。

「・・・しかし!」

だが、彼は意見を変えることなどできなかった。確実に殺される道と、ほんの僅かでも生き延びられる可能性のある道ならば、俺は後者を選ぶ・・・どうせ、今までも死とのぎりぎりの境界線の上で生きてきたのだ。今更、むざむざと死ににいくようなことができるか!!

が、それに反して、ジェシーは寂しそうな表情をスナッチへと投げかけるのだった。なんでだ?なんでコイツは俺に付いて来ようとしない・・・恩義が、そんなに大事か!?

と、そのとき二匹の鍛えられた鋭い耳に、追っ手の足音が届いた。

「・・・!もう追ってきやがった!」

「・・・いや、ちょっと待って!」

と、ジェシーの顔色は、スナッチよりも酷く悪い。なにか、余計に恐ろしいものを感じ取ったらしい。

「・・・前よ!やつら、既に前からも来てるわ!先回りされていたのよ!」

「・・・なんだって!?オイ、逃げ道はねぇのか!」

叫んだ後で、スナッチは後悔した。いや、もうあるわけないじゃないか。逃げる場所も、帰る場所も・・・往生際が悪いようだぞ、スナッチ。

「・・・あるわ。二つだけ」

が、ジェシーは答える。二つも・・・!?驚くしかなかったが、彼女の「かぎわける」能力に、狂いはない筈だった。

一体、どっちの方角だ!?そう聞くよりも早く、彼女は続ける。

「・・・東と、西。あたしの右足と、左足の方角よ。片方は、国へと帰る道・・・もう片方は、どこへ続くのかわからないわ。どっちを選ぶの?」

「国に帰る以外の道だ!」

スナッチは即答する。その答えに、ジェシーは何を思ったのか。

フッと、霞のようにすぐに消えてしまいそうな笑みを、彼女は浮かべた。ほんの一瞬の、限りある美しさを持つ笑みを。

そして、哀しみの笑みを。

「左よ。左足の方角に行くの」

ジェシーは、優しい声でそう言った。

「・・・お前は、どっちへ行くつもりだ?」

「・・・右足の方角よ」

はっきりと言い放つ彼女を、もはや引き止めることなど無用だ。

ここが、全ての分かれ道だと、マッスグマは悟った。生きるか、死ぬかの。そして、自分と、この相棒との・・・。

「・・・わかった。あばよ、相棒」

スナッチは、すぐに身を翻し、走り出した。その背中に、相棒の最後の台詞が投げかけられる。震えるような声で発せられた、散りゆく花びらのような台詞が。

「スナッチ・・・振り返っちゃダメよ。決して、振り返っちゃ・・・」

振り返るもんか。振り返れるわけ、無いじゃないか。別れゆく相棒の涙など、見たくなんかないのだ。

そしてこの、涙でぐしゃぐしゃの俺の顔を、お前の最後の瞬間に見せることなど、できるわけ無いじゃないか。

スナッチは走った。いつもと同じ、死と隣り合わせのその道を。いつもとは違い、たった一匹で。


逃げていく途中で、スナッチは背後に、相棒が吠える声を聞いた。

・・・馬鹿な。あいつはあいつで、国へ帰る道を選んだ筈だ!なのにどうして、わざわざ敵に見つかるようなことをする!?

が、答えはその後、敵の動く音を耳にして、直ぐに得られた。一斉に何匹もの足音が、自分ではなく相棒の元へ向いたのがわかったのだ。

・・・そうだ、やっぱり逃げる道なんてどこにもなかったのだ。それをあいつは、自分を囮にすることで、作り出してくれたのだ。・・・ただ、俺だけのために。

湧き上がりそうになる嗚咽を堪えながら、彼は走った。立ち止まることなどできるわけがなかった。

ごめんよ・・・相棒。お前はただ、潔いやつだった・・・俺も同じ道を辿りさえすれば、そんな風に哀しい吠え方をすることもなかったろうに。それに比べて俺なんか・・・ただのクソッタレだった。

いつも守られていた分際で、最後の最後にちっぽけなお前にただ寄り添っていることすらできなかった俺を・・・往生際の悪いこのクソッタレの俺を許してくれ。・・・ごめんよ。

太陽は、いつの間にやら西の空に沈もうとしていた。また、寒い夜がやってくるのだ。昼間の暑さとは真反対の、身も凍るような寒い夜が。

>>第十三話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑪ 【2007/12/25 00:00】
第十一話:師弟
>>はじめから >>前回の話

魔道士が“ほのおポケモン”の王国を訪れた翌日のこと、彼は再び戦場にいた。

彼が今回味方する国の野営地には、マグマラシやリザードなど、屈強な炎の戦士たちが頭を連ねていた。そしてブーバー王も、武将として自らその場に参加している。それは、魔道士が希望する状況ではなかった。戦場に繰り出す前、ンゲは戦場に行くのは自分だけでいいと言い張ったのだった。

「・・・許されぬ用件だ。昨日も言った筈だ、貴殿のように自分だけで何でも片付けようなどと考えれば、いずれどうしようもない失敗を起こす。それに、貴殿は連日の戦い続けで、大分疲れも溜まってきておろう。それに比べ、我が軍が戦を行なったのは一月前。十分、戦えるだけの英気も養われている」

「ワシの体ならば、心配に及びませぬ。ワシには“じこさいせい”という能力が備わっているゆえ・・・しかし心配なのはあなた様と、あなた様の軍にございます。一月も戦っておらぬと言うのならば、もはや戦い方を忘れてしまっているのではありませぬか」

「フッ・・・貴殿よ、それ以上の皮肉は慎んだ方が身のためであるぞ」

このような流れで、魔道士の反論は当然聞き入られなかったのだった。

それにしても・・・己が陣地の面々を見て、魔道士には気になることがあった。皆、着ているのが頑丈な鉄の鎧ではなく、木や皮で出来た軽そうな鎧である点だ。中には、何も身に着けていない者もいる。更に武器については、誰ひとりとして持つ者はいなかった。

だが、それを無用心だと王に訴えれば、直ぐにこんな返事が返ってきた。

「フッ・・・我が軍は、貴殿に負けたサンドパン王国のような失敗はせぬわ。やつらはいつも重装備でいるからこそ、本来の技が繰り出せずに滅びたのだ。もしやつらが本来の力で貴殿に襲い掛かってきたのであれば、ひょっとすると貴殿の攻撃など簡単に振り切られていたかもしれぬぞ?」

成る程、自分らには自分ら本来の戦い方があると、王はちゃんと心得ているのだろう。ご立派になられたものだ、魔道士にはそんな風に、嘗ての教え子の成長を喜ぶ師としての感情が蘇ってきたが、勿論今はそんな場合ではないことは心得ており、口に出すことはなかった。

やがて、遠くの地より鬨の声が響いた。それが、今回戦闘を仕掛けた側である敵の軍が攻めてくる合図であった。だがそれは、予定よりも若干早かった。

「・・・まだ日は完全に昇りきれておらんぞ。やつら、仕来りすら忘れたか」

ブーバー王はそう言って舌打ちした。この砂漠の地には古来より、「日が完全に昇り切る前に争いを行なえば、砂漠の神の怒りを買う」とする宗教的な戒律があるのだが、それも破られるとはつまり、この地が今や完全に混沌状態へと陥ったことを示していた。

「仕方ありますまい、ワシらも戦線に繰り出しましょう」

ンゲはそう言うと、先頭を切って野営地から飛び出した。後に続いて、マグマラシやリザードなども戦いへと出発する。そしてブーバー王も、しんがりとして出て行くべく立ち上がった。

と、そこへ一匹のブビィが王のもとへと駆けてきた。その部下は王に対して跪き、恭しく頭も下げてはいたが、大分取り乱した様子で、言葉も途切れ途切れであった。

「も、申し上げます!わ、我が陣営に、ス、ス、スパイが混じっているとの報告を、先程受けまして・・・!」

「落ち着け!どこの国のスパイだ?我が国の諜報員ならばそれもわかる筈であろう、ちゃんとそれまで申してみよ!」

・・・はっ!ブビィはそう短く返事をしたが、その続きを言うまでには一呼吸の間ほどの時間を要した。その間、最後尾の兵士たちは既に野営地から出て行ってしまっていた。

「・・・ブニャット王の国です!裏切り者の魔道士を殺すべく、我が軍へと侵入したと・・・!」

・・・成る程。戦の混乱に乗じれば、容易く魔道士が殺せるとの算段か。やつらも考えたな・・・。ブーバー王はそう思いながら、ひょっとしたら魔道士に仲間の軍を付けるという自分の作戦も、今回仇をなしたのではないかと悔やんだ。

しかし、戦闘は既に始まっているのだ。そして元より、戦場で命を奪われるか否かは己が責任である。

「・・・報告、ご苦労であった。しかし今は、その対策を講じているときではない」

そう言って、武将ブーバーは戦場への道を踏み出した。人生には、事前に考えねばならぬときと、早急な判断が求められるときがある。それをわきまえることこそ、真の指導者に必要な器量であろう。

今は、前へ進むときだ。また、一度決断したならば、途中でその考えを改めるようなことがあってはならない。そのことも、彼は理解しているのであった。それら全て、嘗て魔道士に教えられたことである。

野営地から出ると、そこには王の愛馬、ギャロップがいた。それに跨り、王は背中に羽織っていたマントを脱ぐと、部下のブビィたちに投げてよこした。

そして今、ギャロップの蹄が大地を蹴る。大国の若武将は、戦場へと駆け出したのであった。


一方、先程出て行った軍の最後尾には、一匹他よりも小柄なマグマラシが紛れ込んでいた。

「・・・おい貴様!前方に遅れをとっているではないか!もっと速度を上げぬか!」

そのマグマラシの後方から、上級クラスのマグマラシが赤い目を怒らせ、叱咤した。

小柄なマグマラシは、「はっ!」という短い返事をし、それに応じるも、目は先輩のように鋭く輝いてはいなかった。それどころか、他のマグマラシが赤い目を持つ一方で、そのマグマラシだけなぜか青い目をしていた。

そして前後の足には、本来のマグマラシには無いような鋭い爪が生えていたのであった。


戦場では、既に戦いが始まっていた。魔道士率いる“ほのおポケモン”軍の相手は、サイホーンら“いわポケモン”軍団である。

「貴様らの炎など、我らが岩の体には火傷とて負わせられぬわ!」

「そう、もはや汝ら“ほのおポケモン”が覇権を握る時代は終わったのよ!これからは我ら“いわポケモン”の時代だ!」

サイホーン兵士らはそう言って果敢に繰り出してくる。その数、先日のサンドパン兵士らを遥かに越えていた。確かにこれが相手ならば、魔道士ひとりの力で押すのは難しいかもしれない。

しかし今回仲間がいるとはいえ、タイプ的には断然不利である。一体、どうやって戦おうというのか。

「ぐぎゃあっ!」

と、最初に悲鳴を上げたのはなんと、敵方の兵士だった。ドスンという派手な音を立てて横転するサイホーンの前には、鋭い爪でその体を砕いたリザードがいた。

「“メタルクロー”・・・岩をも貫くこの爪の味、思い知ったか!炎だけが我らの攻撃手段ではないわ!」

そして、マグマラシらは煙幕を噴出す。その中へうっかり飛び込んでしまい、前後の見境が付かなくなったサイホーンに、横から強烈なタックル攻撃を浴びせる。前に突進するのを基本とするサイホーンにとっては、この横からの攻撃には不慣れなため、尽く倒されていった。

「・・・ぐうっ、小癪な!」

しかしやられっ放しのサイホーンではない。その場で一斉に足踏みを始めたかと思うと、強烈な地震を起こし始めた。辺りはあっという間に、“ほのおポケモン”らの悲鳴で包まれる・・・!

・・・かと思いきや、誰もその地震に巻き込まれた者はいなかった。皆、魔道士のサイコパワーの力で宙に浮いたからである。

「おヌシら・・・手間をかけさせおって。これだからワシは、仲間など必要無いと言ったのだ!」

魔道士は文句を言いながらも、一旦仲間を下ろすと直ぐに攻撃へと移った。彼の放つサイコキネシスによって、大勢の敵兵が後方へと弾き飛ばされる!

「・・・ぐぅっ、流石“戦場の神”、魔道士ンゲ!噂に違わぬ攻撃だ・・・。しかし、それで我らを倒せるとは思うなよ!」

残った敵兵たちが、一斉に吠え始めた。負け惜しみかと思われたが、そうではなかった。サイホーン達の後ろからいくつもの巨大な影がズンズンと近付いてくる。“いわポケモン”軍団の後軍としてやってきたのは、緑色の鎧のような体で、頭から背中にかけて刺のようなトサカを持つポケモン、バンギラスである。

「・・・ぬぅ、ようやくホネのある敵のお出ましというわけかの・・・」

魔道士の長く立派な髭が、ユラユラと揺れ始める。仲間たちの間からはどよめきが溢れ、皆一斉に目を覆う。バンギラスがこちらへと近付いてくるにつれ、風が吹き出したのだ。そしてあっという間に、辺りは砂嵐で包まれたのだった。

「どうだ、我らのこの“すなおこし”で前も見えまい!もっとも、例え見えたとして“あくタイプ”でもある我々の体は、魔道士のサイコパワーなんぞ受け付けんがな!」

いや、それどころの話ではなかった。砂嵐のせいで、数々の“ほのおポケモン”たちが体ごと吹き飛ばされてゆく。先程まで味方軍有利に動いていた戦線は、一気に逆転しようとしていた。

しかし、そのときようやく味方の後軍も到着する。彼らは体の熱を一気に放出して熱風を作り出すと、バンギラスらによって作り出された砂嵐を押しのけた。隠れていた真昼の太陽が再び顔を出し、さんさんと大地を照らし始める。

「“にほんばれ”か!・・・なかなかやるではないか」

だが、敵兵の余裕の含まれた台詞はそれだけで、後に続くことはなかった。

「“サイコカッター”!」

魔道士のその叫びと共に放たれた念力の刃物が、バンギラスらの体を切りつけたのである。

「・・・ば、馬鹿な!“あくタイプ”の我らがエスパー攻撃を受ける筈が・・・!」

が、まともに攻撃を食らって倒れ掛かったバンギラスのうちの一匹は、いつもとは違って赤く燃えるフーディンの目を見た。“ミラクルアイ”・・・例え相手が“あくタイプ”であろうとサイコエネルギーを送ることの出来るという、最高の魔道士だけが持ちえる能力である。

「く、そ・・・魔道士め・・・」

戦場の魔道士(Illust:アルト)

一匹、また一匹と、堂々と立ちはだかっていたバンギラスたちの壁が崩れ出す。

「ま、まだだ!まだ負けてはおらんぞ!最後の一匹になるまで戦うのだ!」

と、そこへ敵の大将、ドサイドンが現れた。しかし、魔道士にはもはや結果が見えていた。くるりと後ろを向くと、敵兵からその身を離してゆく。

「ひ、卑怯者!逃げるか、魔道士め!」

そのとき、ギャロップに跨ったブーバー王が戦場へ躍り出る。こちらもようやく、主役のご登場であった。

「大将ドサイドン・・・我が軍はまだまだ、貴殿らのような掟破りの卑怯者の王国には、覇権を譲る気はないぞ」

「わ、我らの作戦を卑怯だと!?我らが王国を侮辱する気か、小僧!」

小僧・・・王に向かってそのような口を聞くとは。言われたから言い返す、という発想であろうが、その考えはあまりにも稚拙だと、ブーバー王は思った。所詮、この程度の国か。

「・・・ならば、帰って貴殿らの王に伝えよ。私はこの場で決着をつけようなどとくだらん発想は持ってはおらぬ。謝罪し、再び和平を結ぶというのであればそれに従うつもりだ。しかし、もしまだ戦が足りぬというのなら、私のように王自ら戦場へ赴き、そこで私に首を刈られるべし、とな」

「・・・ば、馬鹿にしおってーっ!皆の者、あんなコワッパ王など、馬から引き摺り下ろしてしまえ!」

・・・愚かな。ブーバー王はもはや何も言わず、大きく息を吸い込むと、口から灼熱の炎を吐き出した。その威力、いくら相手が岩の体を持つポケモン達であっても、平気な顔はしていられまい。あっという間に“ほのおのうず”に飲み込まれ、身動きが取れなくなってしまった。

「さぁ、もはや謝罪の余地は無くなった。あとは、我らに歯向かった貴殿ら自身を責めるのだな!」

み、見逃してくださいませ、ブーバー王様!お、俺らが悪かったーっ!・・・今頃になって、敵兵らは謝り出したが、もう遅い。かくして、闘いの幕は閉じた。

彼ら敵兵は捕虜となり、彼らの城も、明日攻め入れられることだろう。・・・こうして、また一つ国が無くなった。何とも空しいものだと、魔道士は思った。

やがて、事を終えたブーバー王が、ギャロップの背中から降りて魔道士へと近付き、こう言った。

「流石、我が師・・・ご立派な戦いであった」

「そんな、なんとも恐れ多きお言葉・・・」

「はは、今はそう畏まらんでもよい!・・・それより、貴殿が無事で安心したぞ」

そう言って無邪気に笑う王の顔は、11年前魔道士が目にしたものと、なんら変らないように思えた。まだまだ彼は、戦の憂いというものを知らぬようだ。

「無事でございますとも。いくら老体とはいえ、あのような連中に負ける魔道士ンゲではございませぬ」

「・・・いや、そうではないのだ。実は――」

と、そのとき一匹のマグマラシが、魔道士の背後から飛び掛ってきた。その目は青く、前足には鋭い爪が生えている。そしてその爪が、魔道士の体を切り裂く・・・!

・・・否。魔道士は、己が目を疑った。

今自分の目の前に倒れているのは、王だ。自分が嘗て教育を施し、今は立派に一つの国を治める存在となった、ブーバー王である。

・・・なぜ?わからない。しかしその老人の胸は、言いようのない哀しみに包まれていた。

「陛下!しっかりなさりませ、陛下!」

何が起きているのか、わからない。一体、どうしてこんなことになってしまったんだ。

ただはっきりしているのは、それが決して自分の望む結果ではなかったと、そういうことだけであった。

>>第十二話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑩ 【2007/12/24 00:00】
第十話:医者
>>はじめから >>前回の話

コガラシは仲間の一匹がゆっくりと倒れていく姿を目の当たりにしていた。

実際には、それはほんの一瞬の出来事だったが、コガラシの目にはまるでスローモーションでもかけたような緩慢な動きに見て取れた。

それを見ながら、コガラシは何かを叫んでいた。あまりにも気が動転していて、自分でも何を言っているかわからなかったが、薄暗い地下道の壁に反響して再びコガラシのもとに返ってきたのは、倒れた仲間を呼ぶ台詞であった。

「・・・サンドパンさん!」

そう、倒れたのは兵士サンドパンだった。高さ3メートルもの大オクタンから、キホーテに向けて砲撃が発射されたとき、兵士は突然キホーテの前へ飛び出したのである。

お蔭でキホーテは難を免れたものの、サンドパンは大オクタンの攻撃を正面からまともに受ける結果となった。しかも、じめんタイプのサンドパンが苦手とする水の砲撃、“オクタンほう”だ。ダメージは、昼間のカバルドンらの攻撃の比にはならないだろう。

キホーテの目の前で、サンドパンはバタンという大きな音をたて、仰向けに倒れた。すぐにキホーテは駆け寄ったが、兵士のその目が開くことはなかった。

「・・・お、おい、兵士!?なしてや・・・なしてお前が倒れるん!?」

「・・・主人、早く私の背中に乗るのだ!」

と、ようやくキホーテらの元まで辿り着いたロシナンテが叫ぶ。しかしそのときには大オクタンは体を大きく膨らませ、既に二撃目の発射準備をしている。

「・・・コガラシ兄ちゃん!早くボクを大オクタンのオメメの前に連れてって!」

と、突然コガラシの足に掴まれて空を飛んでいるレダが叫んだ。いきなり何を言い出すかと驚いたが、今はその由を訊ねる余裕さえ無い。今にも砲撃を発射せんとしているオクタンの目玉の前へ、コガラシはバッと飛び出した。

突然視界に現れた邪魔者を、大オクタンはギラリと睨む。その巨大な目玉を前にして、しかしまだ幼いレダは怯むということを知らなかった。

「これでも食らえっ!」

そう叫ぶとレダは、頭の先を目玉にグッと向けて、そこから大量の胞子を噴射した!

「ウオォォォオォォォォォオ!!??」

レダの“しびれごな”を大量に目に受けた痛みで、大オクタンは身をよがらせ苦しみ出す。

「でかしたぞ、ボウヤ!さあ、早く逃げよう、主人!」

暴れる大オクタンの何本もの触手が、水面を叩くことによる多量の水しぶきを身に受けてびしょびしょになりながらも、キホーテと手負いのサンドパンを背中に乗せたロシナンテは、出口に向けて一気に走り出した。

駆ける、駆ける。後方にオクタンの姿が見えなくなるまで、地底湖が途切れるまで、ロシナンテは力を振り絞った。息は途切れ途切れになり、今日一日休まず歩き通しだったせいで大分疲れも溜まっている。しかし自分には守らねばならぬ仲間がいるのだという強い意志が、彼女を動かした。もう二度と振り落とすものか。その目は、ようやく彼女らしく綺麗で清々しい色に戻っていた。

誰でも一時の恐怖に、身を縮ませるときはあるものだ。しかしいつまでも縮こまったままならば、それまでの自分というものは永遠に失われてしまう。克服して初めて、取り戻せる自分というものがある。

そしてロシナンテも、どうやらそれを取り返すことができたようだった。大オクタンのウオォォォという咆哮は、もう大分遠くから聞こえてくる。恐怖は、去ったのだった。

直に、コガラシもその背中に追いついた。その足に掴まれたまま、レダが叫ぶ。

「もうじき出口だよ!扉が見えてくるはず!」

扉・・・扉・・・。あった、この道の先、鉄のような扉が。

「・・・鍵はかかっていないと思うけど・・・ちょっとカタいんだ。気をつけて!」

「なんの、お安い御用だ!主人、しっかり掴まっていろ!」

最後の一仕事だ。一気に“とっしん”してキメてやる!ロシナンテはそう思った。

が。

バンッ!

「・・・えっ?」

思いのほか、扉は勢い良く開いた。

・・・考えてもみれば、硬いといってもそれは幼いレダの感覚によるものである。そんなものバクーダが思いっきり“とっしん”をしかけたら、開いて当然。それどころか、ちょうつがいが外れ、扉は無残にも吹き飛んでしまった。

そして、勢いの治まりきれなかったロシナンテは、そのまま壁にぶつかる。

ドン!

「ぐえっ」

潰れたカエルのような声を上げるロシナンテ。コガラシは、慌ててその後ろまで駆け寄ってきた。

「・・・だ、だ、大丈夫でござんすかっ!?」

と、何も答えられないロシナンテの代わりに口を開いた者がいる。

「ッテテッ・・・大丈夫なわけないやろ!なにしとんねん、この馬鹿ロシナンテ!」

ゴンッと、ロシナンテの頭に拳骨が飛んできた。結構痛かったが、お蔭で安心した。・・・よかった、主人は無事だ、と。

主人に忠実なバクーダの使命は、取り敢えず果たされたようであった。ただ本人は、頭にまた新しいコブを作って、そのままぐったりと床にのびてしまったのだが。

あぁ、ロシナンテ。それでこそお前は、キホーテの忠実なる下部であるよ・・・。

「・・・それにしても、何処やココ?」

自分もロシナンテの後頭部にぶつかって頭に大きなコブを作ったキホーテが、それを摩りながら言う。

「レオナお姉ちゃん家の地下室だよ!」

レダは嬉しそうなその答えに、コガラシとキホーテはぎょっとしてしまった。まさか家の中に出てくるなんて、思いもよらなかったからだ。

「・・・じゃ、じゃあ上におんのか?その、レオナお姉ちゃんとやらが・・・」

ニッコリ微笑んで肯定の意を示すレダ・・・不法侵入もいいところだ。これはちょっと気マズイ展開になってきた。

「・・・誰?誰かいるんですの!?」

と、突然の聞きなれない声に、キホーテたちはビクンッと肩を震わす。噂をすればなんとやら・・・丁度いいタイミングで本人様のお出ましのようである。

「・・・あ、あっしら、決して怪しいものとかそんなんじゃあござんせんよっ!!」

「そ、そや!ただ迷子になって、たまたまこんなところに出てきてもうただけで・・・」

本人が現れる前からしどろもどろの言い訳を始めるキホーテたち。しかし部屋の階段の向こうから現れたポケモンは、手に何か武器のようなものを構えている。

・・・鉄砲、いや、テッポウオの稚魚だ。

稚魚だけに本来の半分程度の大きさしかないが、腹筋が発達していて100メートル先にも届く勢いの銃撃を発射させるというテッポウオ、凶器としては充分なものだった。

「動かないで!動くと、撃ちますわよ!」

ヒィッ!そんな悲鳴すら飲み込んで、両手を上に上げるキホーテ。銃を向けられたらそうしなければならないのか、よくわからなかったが、コガラシもそれに習って翼を上へ広げた。しかしレダは楽しそうに声を上げる。

「レオナお姉ちゃん!」

・・・えっ、これがレオナお姉ちゃん?今物騒な物をあっしらに突きつけているこの方が、“優しいお医者さん”のレオナお姉ちゃんなんでござんすか!?思わずそんなことを訊きたくもなったが、黙って翼を上げたままのコガラシ・・・。一難去ってまた一難、コドラの巣を抜けガバイトの巣に入る、とはこのことである。あぁ、さっきチャンスだと思ったのは、ただの勘違いだったのだろうか。

しかしよく見てみると、その物騒な物を持つポケモンは、見た目はそう怖しくもなかった。釣り上がった目と鋭い鉤爪がそのポケモン本来のものだが、“レオナお姉ちゃん”の爪はそう鋭くもなかったし、目だってキホーテに比べたらずっと女の子らしい、可愛い目をしている。

ニューラ・・・普通は雪山で見かける筈のそのポケモンまでがこの国にいる、ということには大いに驚いたが、今はそんなこと言っている場合ではない。

「・・・やめてよ、レオナお姉ちゃん!おニイちゃんたち、悪いやつらじゃないよ!」

と、レダがそう言うも、ニューラは手にしたテッポウオを下ろそうとはしない。

「・・・レダさま!この方々にそう言えと命じられているのですわねっ!?お可愛そうに、捕まってしまわれて・・・でも、このレオナ、命に代えてでもお助けしますわっ!」

・・・何だか台詞が仰々しいのが気になるが、取り敢えずはっきりとわかるのは、どうやらニューラは、キホーテたちがレダを人質・・・もとい、ポケ質(ぽけじち)に取っているものと勘違いしているらしい・・・。

「・・・違うよ、そんなんじゃないよ!おニイちゃんたち、ボクにキャンディくれたんだよ!」

「・・・まぁっ、キャンディなんかで買収するなんて・・・卑劣にもほどがありますわっ!」

・・・それを言われたら否定できないのが、キホーテたちの悲しいところである・・・。

「ま、まぁ、ちょい待ちぃや!ワイら、別にこのボウヤをポケ質に取ってなんかおらへんて!ワイらが、たまたま国の外で吊り橋渡れへんで困っとったところで会うたもんやから・・・ちょい地下通路教えてもろうただけや!」

「・・・まぁっ、秘密の地下通路を一体どうやってレダ様から聞き出したのかしら!?」

「・・・って、怒るなや。こっちにも事情があんねん。ホレッ!」

と、キホーテは壁の方でのびているロシナンテと未だぐったりしたままのサンドパンを顎で示した。それを見ると、流石に医者であるレオナは心が動かされたのだろうか、張り詰め尖らせていた表情を、不安な様子に歪める。

「・・・まぁっ、こんなに怪我して・・・」

「カネはちゃんと出すし、このボウヤに危害を加えるようなことは何もせえへん!やから、そいつら治療したってくれや・・・頼むで」

ここは、下手に出た方が得策だとキホーテは判断した。相手も、やはり医者。負傷者となれば放っておけない質らしい。テッポウオを下げると、彼女は振り返って階段の奥へ戻っていった。キホーテとコガラシは顔を見合わせる。取り敢えず、手はもう下ろしてもいいらしい。

レオナが再び階段を降りてくると、その手にはもう武器は無かった。代わりに、かぎづめが何か布のような柔らかいもので覆われている。患者を傷つけないための措置だ。その手で、まずサンドパンの肩を優しく持ち上げた。

「・・・あなた方も手伝ってくださいな!」

慌てて、キホーテとコガラシもその下を支える。

そして、ゆっくりと階段の上まで負傷した兵士を運んでいった。上に辿り着くと、そこはもう診療所のようだった。どんな大柄なポケモンでも充分寝かせられそうな大きめのベッドが二台、そのうちの一台にサンドパンを寝かせる。

「・・・取り敢えず、怪我の酷いこの方を先に治療いたしますわ。下のバクーダさんはその後で、地下で直接治療致します・・・あの方は運ぶのが大変ですから」

そう言ったのは、さっきまでテッポウオを構えていた物騒なニューラではなかった。立派な医者としての彼女がそこにいた。

しかし最後に、こう付け加えることは忘れなかった。

「・・・勘違いしないでほしいですわ。あたし、まだあなた方を悪者ではないと信用したわけではありませんから・・・ちょっとでも妙なマネを致しましたら、警察を呼びますわよ!」

・・・一先ずは助かったものの、信用を得ることはまた、難しい問題のようである・・・。

「・・・心配すんなや、コガラシ。巧くいかへんこともある。ま、そのうち好転すんのを祈ろうや」

と、不安そうな顔色のコガラシの肩をポンと叩き、キホーテが言う。

・・・元はと言えばあなたが悪いんじゃござんせんか?そんな言葉も出かけたが、もはやコガラシには彼女を責める気は無かった。自分自身どうしようもなく疲れていたというのもある。今日は本当、散々な目に合ったものだ。いくつもの恐怖を乗り越えてきた。自分がちっぽけな存在だということも、改めて気付かされるようなことばかりであった。

けれども、それら全てを乗り越えてきた今の自分がある。結果、失いかけていた自分もちゃんと戻ってきた。それは決して、ハズレくじなんかではないだろうとも思った。寧ろ、チャンスだった。やはりその通りだった。

これからもまだまだ超えなければならない困難が沢山待ち受けているだろう。一体いくつあるのか見当もつかないが、少なくとも今は、ちゃんと自分を取り戻す術を知っている。今の自分がいる限り、これからの自分も大丈夫だ。と、それを知る上でも大きな収穫だったと思う。

そして後ろの方では、また何が愉しいのか、レダがぴょんぴょん飛び跳ねている。怯えを知らない子ども。自分には、まだそういった部分も残っているのを、コガラシは知っている。

これから何が起こるかわからないというのに、そんなものに対してはかえって、恐怖よりもワクワクの方が強かったりする。それもまた、確かな事実だったのだから。

>>第十一話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑨ 【2007/12/23 00:00】
第九話:地底湖
>>はじめから >>前回の話

すっかり日も落ちて暗くなった頃、コガラシの一行はようやく目的の王国へ続く跳ね橋の前へと辿り着いた。

跳ね橋・・・そう、砂漠の中にあるのに何とも奇妙なことと思われるやもしれぬが、城壁で高く守られた王国の周りはぐるりと堀で囲まれており、そして堀の中は充分な水で満たされていたのだった。

「・・・こら、驚いたわ。砂漠一のオアシスやとは聞いとったが・・・こないに水を持て余しとるとは」

「それに、今までずっと砂漠だったのに、こんなふうに突然オアシスとは・・・何だか不自然極まりないようにも思えるな」

ロシナンテの言う通り、ここの地面はさっきまでとは違い、苔むした土へと変っていた。なのに振り返れば、30メートルほど手前はもう柔らかい砂の砂漠が広がっているのである。布に広がりかけた染みが、途中で切り取られでもしたかのようだ。しかし切り取られたのは、砂漠の方であったろうか、それともオアシスの方であったのだろうか。

「・・・それより、吊り橋が上がってるでござんすねぇ・・・」

と、コガラシが自分だけ現実的なことを言った。それに対し、キホーテたちはハァ~と長く大きな溜息をついた。

「・・・だから主人、私はあそこで野宿しようといったのだ!結果、同じだったではないか!」

「だぁっ、うるさいなぁ、ロシナンテ!同じ野宿や言うても、あっちですんのとこっちですんのとでは違うやろ!こっちは水もあるようやし・・・」

「そんな問題ではない!・・・ホラ、私の蹄を見ないか!歩き通しで擦り切れすぎて、もうボロボロ・・・」

「それこそ、あっちで休んどっても同じやったやろう!」

・・・い、意外に仲悪かったんでござんすね、この二匹・・・。女どもの言い争いを見て、冷や汗するコガラシだった。

「・・・け、けどお二方、あっしがあの城壁を飛び越えて、中の門番さんに吊橋を降ろしてもらうよう頼むってのはどうでござんしょうか?」

仲間割れを止めるついで、コガラシはそんな提案をするも、キホーテはいい返事を返さなかった。

「・・・あんのなぁ~、それができたらわざわざこんなんやって国守る意味無いやろ?もしあの城壁に向かって飛んでいったら、じぶんどないなるか、ちょい見てみぃ」

そう言って地面に落ちていた小石を拾うと、それを思いっきり城壁へ投げつけるキホーテ。すると、なんということか小石が堀の上を舞った瞬間、堀から突然水が噴出してきて、小石を弾いたのだった。

「・・・な、なんかいるんでござんすかっ、水の中に!?」

「・・・そういうワケや。ま、こんだけの水あんのやから、中に何かいる思うた方が自然いうこっちゃ。・・・よかったなぁ、コガラシ。先に知っとって」

・・・た、確かに。危うくイタイ目を見るところであった。

しかし、折角ここまで来て野宿というのは何ともやるせない。ロシナンテの背中の上で寝ているサンドパンも、大事無いとはいえ、負傷者は負傷者。早いところ病院へ連れて行きたいものだ。・・・何処からか、入れないものだろうか。

一方で、キホーテたちはもう寝る準備に入っていた。ロシナンテの温かい体をテント代わりにして、さっさとお腹の下に潜り込むキホーテ。機敏である。

「おーい、コガラシも早う入らんかい!」

彼女が呼ぶ間も、コガラシはまだ城壁を見つめていた。ロシナンテなんぞは、もう寝息を立てているのに・・・。

と、そのとき何かがコガラシの背後からぶつかってきた。驚いて振り向くと、そこにはひっくり返って足をバタつかせる丸い生き物がいた。その体は、土色とでも言うべき色で、所々緑色の斑点のようなものがある。

「・・・キノココ?」

そう、自分が嘗て住んでいた森の中にも生息していたポケモンだから、すぐに気付いた。しかし、そんな森のポケモンがなぜこんな砂漠にいるのか?

「・・・お、起こしてっ、起こしてよぅっ!」

そう言われて、コガラシは慌ててそのキノココを起こしてやる。キノココには手が無いので、ひっくり返ると自分で起き上がるのが困難なのだ。

「・・・コガラシ、じぶんまた何見つけたん?」

気付くと、キホーテも彼らの傍まで来ていた。彼女もこの砂漠に似つかわしくないポケモンを見て、怪訝な顔をする。

「・・・なんやお前、どっから来たん?」

当然の質問に、しかしキノココは答える代わりにこう言った。

「・・・し、知らないポケモンとは喋っちゃいけないって、お姉ちゃんが・・・」

「・・・ほぅ、お利口なボウヤやなぁ」

・・・と、キホーテはチョッキのポケットから何かを取り出した。キャンディだ。それを見るとキノココは、とたんに目を輝かせる。

「・・・質問に答えてくれたら、これあげたろーと思ったんやけどなぁ・・・」

・・・子どもをからかうなんて。呆れたコガラシは、すぐ止めさせようとしたが、先にキノココの方がキホーテに飛びついてしまった。それが意外な力で、バタンと押し倒されるキホーテ。

「こ、答えるよ!ボク、レダっていうんだ!そこの王国から出てきてて、今から帰るところなの!」

「わ、わかったから、ワイの体からどけや!」

そう呻くキホーテを他所に、コガラシはこのキノココ、レダが言った重要な言葉を聞き逃しはしなかった。

そこの王国から出てきた・・・ならばこの王国は、キノココが住めるほど水が豊かだということなのだろう。それも驚くべきだが、より重要なのは後の方。今から帰るところだと、レダは言った。つまり、帰れる道があるということだ。

「ホントでござんすか!?レダさん、あっしらににも教えてください、その帰る道というのを!」

しかしそのコガラシの台詞に、怯えたような顔をするレダ。

「・・・し、知らないポケモンに秘密の地下通路を教えちゃいけないって、お姉ちゃんが・・・」

「・・・残念やなぁ、あめ玉もう一個やろうと思うたんになぁ・・・」

「教えるっ!教えるからちょーだいっ!」

・・・なんという買収。コガラシは少し良心が咎められる思いだったが、この際成り行きに任せようと思った。

そう言えば、魔道士も教えてくれたものだ。世の中には縁というものがあると。人生、どんなところにチャンスが転がっているやもわからぬのだ。もしかしたらいい結果になるかもしれない、そう思ったら思い切って飛び込んでみるのも、一つの決断だと・・・。まぁ、初めて聞いたときには、あの冷静な魔道士らしからぬ発言だとも思えたが。

それにしても・・・。コガラシは思った。キホーテには、なんと買収する行為が似合っているのか、と。

ひょっとしたら行商ではなく、本当はどこぞの悪党だったりするんではないかと、本気で思うコガラシであった・・・。


キノココのレダが案内する地下通路を歩きながら、コガラシは辺りを忙しなくきょろきょろ見回っていた。一体なんなのだ、この地下通路は。城の周りに川のような広い堀が流れていたことにも驚かされたが、まるで洞窟のように広いこの地下通路には、道の横にこれまた広い湖のようなものが広がっている。これほどの地下水が砂漠の下にあるとは驚きだった。

一方で、その後ろからのそのそ付いてくるロシナンテは、折角寝ていたところを無理矢理起こされ、湿気の多い道を歩かされているのがかなり不愉快な様子・・・地底湖など何の興味も沸かない様子だ。

「・・・ところでボウヤ、こないな夜中に、あそこで何しとったんや?」

と、そんな不機嫌なバクーダの上に乗っているキホーテが、先頭に立ってちょこちょこ歩いているレダに訊ねる。

「エヘヘッ、ヒミツだよ、ヒミツ!」

と、なにやら愉しそうにレダは言う。いちいちヒミツの多いコだ。また飴で買収したろーか、そうも思ったが、別に大して興味も無いことだったのでやめておいた。どうせ、良からぬイタズラでもしていたのだろう。

・・・それにしても。さっき貰った飴がよほど嬉しかったのか、レダはさっきから嬉しそうにスキップしながら歩いている。そのうちまた何度かコケそうになって、その度に、すぐ後ろを歩くコガラシに支えられている。全く、子どもというのは見ていて危なっかしいな・・・。そう思ったのはロシナンテである。彼女もメスとして、母性本能をくすぐられるものがあるだろう。

「おニイちゃんたちこそ、どうしてこの国に来たの?」

と、今度はレダが訊ねる番であった。「おニイちゃんたち」・・・やはり最初のコガラシ同様、勘違いしているのだろう。そして、まさか自分もオスだと思われていやしないかと、ロシナンテはまたむっとした表情に戻った。

キホーテは勘違いされたことをさして気にもしなかったが、答えた台詞はこうだった。

「・・・ワイらもお前のこと知らんのに、なして答えなあかんねん?」

彼女のちょっとしたイジワルに、レダは振り返って驚いたような顔をしてみせる。全く、大人げない・・・コガラシは呆れたが、その後のレダの反応は興味深いものだった。

「・・・ふーん、答えられないってことは、なんか悪いコトしに来たってこと?」

「・・・あ、あほう!んなわけあるかいな!」

・・・子どもだと見くびっていたら、妙な理屈を言うものである。当然否定したわけだが、レダは立ち止まって、面白そうにこちらを見ている・・・。これだから子どもは。完全に、キホーテの負けであった。

「べ、別にボウヤが考えとるような面白いことはあらへんで?ワイと、このバクーダのロシナンテは、旅の行商。今からこの国に品物を送る用事やったんや。それから、そこのヤミカラスのコガラシと、後ろで寝とるサンドパンは、ただの連れや。特にサンドパンの方には、ちょい怪我があんねん。それで、病院連れてったろうと思うて・・・」

「えーっ、怪我しちゃってるの!?ボクはてっきり、ただのお寝坊さんで、眠ってるだけなのかと思ったよ!」

・・・その言葉に、コガラシとキホーテの二匹はプッと噴出してしまった。なかなか素直なことを言うコである。まぁ、半分は間違っちゃいない。

「・・・でも、良かったねー、おニイちゃんたち。そしたら、丁度これからボクら、レオナお姉ちゃんのところに向かってるところだから、レオナお姉ちゃんに治療してもらったらいいよ!」

「・・・あのなー、お前・・・気持ちは嬉しいが、いくら姉ちゃんでもそない簡単に治療できるわけ・・・」

と、キホーテが言うと、レダは突然、怒ったように顔をぷうっと膨らませて言った。

「できるもん!だって、レオナお姉ちゃんお医者さんなんだよ!とっても優しいお医者さんだよ!」

・・・なんと。それは願っても無いことだった。やはりンゲの言葉は正しかった、これはチャンスだったのだと、コガラシは確信した。

「・・・はっ、しまった!早く帰らないと・・・レオナお姉ちゃんに怒られちゃう!」

と、レダは再び前を向いて歩き出した。ママではなく、お姉ちゃんに怒られるのが心配なのだろうか。それがちょっと不思議でもあったが、いい偶然に巡り合えて、コガラシらも一層足が軽くなった。だんだんと、道も上向きになっていく。出口は、もうそろそろなのだろうか。

と、そう思った矢先のことである。

・・・ウオォォォォォォォォ・・・。

「・・・んっ、今何か変な音聴こえなかったでござんすか?」

「・・・はぁ?ロシナンテの腹の音ちゃうか?」

「・・・し、失礼な!」

と、また。

ウオオォォォォォォォォォォォォッ!!!

急に、地底湖が激しく波打ち始める。音は、水の中からだ。

ザッパーン!

大きな音を立てて、水の中からなにやら巨大な生き物が姿を現した。その高さたるや、身長2メートル近いバクーダをも優に凌いでいる。それは、体が真っ赤で、まるで噴射口のような形の口を持つポケモンであった。

「・・・オ、オクタン!?」

「・・・ええっ、オクタンってこんなに大きかったんでござんすかっ!?」

コガラシの記憶が確かならば、オクタンは90センチほどの高さしかないとンゲは言っていた。まさか、あの魔道士がウソを教える筈は無い。しかし目の前の現実をどう受け止めていいものやら、コガラシにはさっぱりわからなかった。

「・・・だ、大オクタンだよっ!この地底湖の守り神なの・・・普段は奥底で眠っていて、殆ど水面に出てくることはないのに・・・」

「・・・じゃあ、なして今になって出てきたんやぁ!?」

そんなもの、レダにも答えられるわけがなかった。とにかく、身長3メートル程もあろうかという大オクタンは、怒っているかのようにコガラシらを睨みつけ、噴射口で狙いを定めている。・・・あのカバルドンの群れに出くわしたときと同じく、友好的でないことは確かのようだ。

「い、急いで逃げるんや!」

キホーテの声で、ロシナンテは慌てて駆け出した。幸い、道は一本。一気に坂を駆け上がれば、何とか逃げ切れる筈である。コガラシも、レダを足で掴んでバッと飛び上がった。

大オクタンは次々に“オクタンほう”を発射する。その威力たるや、地下通路の壁にも大きく穴を穿つほど。当たれば無事では済まされまい。逃げる、逃げる!もはやロシナンテは、さっきまで不機嫌だったことなど完全に忘れてしまっていた。ただ走るのみである。

と、急に背中が軽くなったのを感じた。構うことなく進もうとしたところで、主人に呼び止められる。

「アカン!ロシナンテ、戻れ!」

声は頭の後ろではなく、もっと遠くから聞こえた。慌てて振り向くと、何とキホーテは後方の地面の上に倒れている。まさか、鞍から落としてしまったのか!?あってはならないことだ・・・いくら慌てていたとは言え、主人を落としてしまうなんて・・・!

引き返そうとしたが、ふと大オクタンの姿が視界に写って、足が竦んだ。大オクタンは、確実にキホーテに狙いを定めている。

彼女は思った。今から引き返しても、主人はもう助からない。でも自分は、走ればまだ逃げ切れる筈だ。・・・いや、何を馬鹿なことを考えている。いくら乱暴者でも、いくら仲が悪くても、キホーテは私の主人だ。今まで一緒にやってきた仲じゃないか。

けれど、足が動かない。今までキホーテのことを守ってきた自分が、初めて恐怖を感じている。この化け物オクタンからは、守れる筈が無い。

・・・違う、だからこそ、守らねばならないんじゃないのか。それこそが、私の仕事なんだ。動け、私の足!助けるんだ、主人を!

ロシナンテは、足を踏み出した。キホーテに向かって。大切な主人を守るべく、大きく!

だが。

そのとき同時に、大オクタンの口から、砲撃は発射されたのであった。

>>第十話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑧ 【2007/12/22 00:00】
第八話:砂漠の魔獣
>>はじめから >>前回の話

この砂漠に来て、八日目の日が沈む・・・。

魔道士ンゲはその赤々とした夕日を、今日訪れた、また別の王国の城の窓から眺めていた。

自然というものは、なんと美しいのであろうか。時にそれは、どんな建造物や絵画にも劣らぬ美しさを放つ。・・・尤も、多くの建造物はその自然そのものを模写したものであるのだが。

ただ、どんなに美しくても、それは永遠ということはできない。今自分が見ている夕日の輝きも、直に夜という名の闇に食われ、消えてしまう運命にある。

けれど、だからこそ・・・。ほんの一瞬の美しさであるからこそ素晴らしく、何度も見たいものであるのだと、彼はちゃんと心得ていたのだった。

「魔道士ンゲよ、待たせたな」

と、背後から彼を呼ぶ声が聞こえた。魔道士は振り返り、それに恭しく頭を下げる。

「とんでもございません・・・ブーバー王」

その台詞に、クスリと笑みを浮かべる王の顔は、まだ幼さの残るものだった。彼が戴冠の儀式を済ませたのは、まだほんの1年ほど前。先代の王ブーバーンが突然の病に倒れた後のことだ。まだ青年と呼ぶにも少しばかり齢の足りぬその王は、しかし充分、聡明博識で、国の民からの信頼も厚かった。

「“ブーバー王”か。お前からそのような名で呼ばれるのは初めてだな」

「・・・以前は、王はまだ幼きブビィでございましたので。しかし今やあなた様も立派な王。このような堅苦しい挨拶をせねばならぬこと、大変申し訳なく思いますが、必然のことにございます」

全く無愛想に、魔道士は言った。少し渋い顔をして、王も応じる。

「・・・そうだな、お前はもう俺様の家庭教師ではないのだ。俺様も、嘗ての恩師ではなく王国に訪れたひとりの魔道士として、お前と向き合うこととしよう」

客人をもてなすための部屋の長いテーブルの、上座に王は腰掛ける。と、自分も腰掛けようとする前に、魔道士は再び口を開いた。

「・・・陛下。そのように、“俺様”や“お前”などという呼称の使用は、王としてやや不適切かと・・・」

「・・・わかった、わかった。“貴殿”、“私”の正面の席に腰掛けたまえ」

ようやくそれに応じ、腰掛ける魔道士。・・・やれやれ、年をとると一言多くなるものだろうか。口にはせず、王はそう思った。

11年前、王子である自分の家庭教師として、ンゲはこの国を訪れていた。彼からは礼儀作法は勿論のこと、社会のこと、自然のことなど、実に様々な分野の学問を教えて貰ったものだ。流石、先代のブーバーン王。素晴らしいポケモンを国に向かえなさる。教え子たる自分自身も時々そう思ったものだったが、勿論この素晴らしすぎるポケモンが、ただ自分の家庭教師としてのみ国へ訪れたのではないということは、彼もよく心得ていた。

ともかく魔道士は、その嘗ての恩義から、これ以上に無いほどのもてなしを受けていた。昨日のブニャット王の城のように謁見の間にて跪かせられることもなく、客人の間に通された魔道士の目の前には今、豪華な料理の数々が揃えてあった。

だが、魔道士はそれらの料理に一切手を付けようとしない。出されたものを戴かないとは客人の態度としていかがなものかと思われるが、ブーバー王は、しかし魔道士を諌めることもなく、こう会話を切り出した。

「・・・して、貴殿が再びこの地へ訪れた理由、申してみよ」

はっ。短く返事をした後、魔道士は少しの間を置いて、語りだした。

「この国の戦に、雇われ魔道士として加勢したく思いまして・・・」

「・・・その台詞、流石にもう言い飽きたのではないか?」

感発入れず、王は返した。そして目の前にあるソーダ水を一口すすると、続ける。

「昨日の戦でサンドパンの王国が、ブニャット王の王国の軍隊によって滅ぼされたとの報告を受けた・・・。しかし俺様の国のスパイが見たところによれば、戦場にはブニャット王の国の兵士など一匹たりともいなかったという。だがそこでサンドパンの兵士共は、まるで強風が吹きつけてきたのかのように突然宙に吹き飛ばされ、自滅の道を歩んだのだと。それだけじゃない、その二日前も、五日前も!二、三日置きで同じことが起こっておるのだ。・・・ンゲ、お前の仕業であろう?昔お前がこの国の戦に加担していたときの戦い方と、全く同じではないか!」

勝ち誇ったように言う王を相手に、魔道士は何も答えなかった。ただ王からじっと視線を逸らさず、やはり食べ物も飲み物も一切口にしない。一向に冷静な魔道士の態度に、王は僅かばかり眉を吊り上げるような表情をしてみせたが、もう一度ソーダ水をすすると、こう続けた。

「・・・貴殿、何を考えておる。そのように国から国へと転々と取り入るとは・・・」

「・・・それが、根無し草たるワシの生き方にございます」

厳かに、魔道士は答えた。それに対し、王はフッと笑みを浮かべ、言う。

「・・・成る程、貴殿らしい答えだ。まぁヨシとしよう。しかし、他に目的があるのではないか?さもなければ、あのブニャットの“毛むくじゃら”王国から命を狙われるような危険を冒してまでこのようなことはしまい」

どうしてそれを?魔道士がそう口にする前に、王はまたソーダ水を飲み、答えた。

「俺様の家臣が報告してくれた。お前がこの国へ入国した直後、何匹か他所の国のポケモンが紛れ込んだと。マッスグマにグラエナ、どちらも毛の生えたポケモン共だ」

・・・思ったより早かったな。そう思い、ンゲは今初めてソーダ水を口にした。久々に飲む炭酸の味は、しかし大して美味くもなかった。

「まぁ、落ち着け。この城にいる限りは安心だ。・・・だが、この俺様に取り入ろうというのなら、正直に答えよ。お前の本当の目的を」

そう言われ、渋々口を開こうとする魔道士。が、王は自分からそれを制し、言った。

「まぁ、待て。つまらない言い訳なら聞きたくはない。俺様には、大体察しはついている。だから、これから俺様が言う言葉に聞き覚えがあるかどうか、YesかNoで答えよ。わかったな」

王は、再び水を口にする。そしてグラスをテーブルの上に静かに置くと、その口から呪文のような言葉を紡ぎ出した。

「“大地生まれしとき、それは魔獣が吠えしとき。その咆哮の後、土が地表を覆い、魔獣はその下で長年の眠りへと臥す”」

魔道士は、その表情に驚愕を浮かべた。もはや、Yesと答えるまでもなかった。

「・・・これは、我が王国に保管されていたという古文書の一部だ。昔、貴殿が熱心に解読してくれたという、な」

「・・・どこまで、ご存知なのですか」

予想以上だ、この王の博識は・・・。

「・・・さぁな。しかし私は幼少時代、師として、魔道士として、貴殿のことをそれなりに慕っていたつもりだ。貴殿の生き様、そして目的を知るための努力も惜しまなかった。そして、知りえたのだ。11年前から僅か1年しか経たぬあの日に、貴殿があのような予言をしたせいでこの国から追われ、にも関わらず今になって舞い戻ってきては、国から国へと転々と渡り歩いている、その理由を」

10年前の、魔道士の予言・・・それは当時、ブーバーン国にとって恐るべきものだった。“これから9年後過ぎた後、王ブーバーンは病の床に倒れるだろう。そしてこの国を含む砂漠の地の全ては、混沌で包まれるだろう・・・”

「・・・予言は当たった。先代のブーバーン王は倒れ、私がその後を継ぐこととなった。そしてそれと共に、9年前に貴殿が我が国を勝利へと導いて終結した戦争も、再び勃発してしまった。我が家臣の中には、あれは貴殿の呪いだと言うものもいるくらいだ。今日貴殿を城へ迎える際も、追い返すべきだと強く反対されたものだ」

魔道士は再びグラスの水を飲む。王の言葉を、ただ聞くに徹していた。

「・・・しかしあの予言は、ただの“みらいよち”ではなかったのだな。古文書を読み進めるにつれ、それが伝説に即したものであることを、私は知りえた。即ち、“土の上に生まれたある一国の王が死すとき、土の上は混沌が支配する。そのとき再び魔獣目覚め、土を枯らし、世界は砂漠と化すなり”・・・と」

もはや、魔道士は沈黙するのみだった。王は最も重要な情報も、その脳の内に掴んでいたのだった。

「さらに予言は詳細へと進むが、それによれば、魔獣が目覚めるのは丁度この年。戦で乱れたこの砂漠の、いずれかの国の地下深くより出でるのだと。そして、それを防ぐためには、その国が何処かを探し出し、そこで魔獣への祈りを捧げなければならぬとも。また、その祈りを捧げねばならぬ者は、“この地で最も気高き王”であるのだということも!・・・貴殿の目的は、戦乱に乗じてその両方を探ることにあったのだ、そうであろう!?」

魔道士は、もう水すら口にしなかった。いや、いつの間にやらグラスは既に空っぽになっていたのだった。ただ、皿の上に盛られる豪勢な食事だけが、決して手を付けられることなく、静かに瑞々しさを失っていくのだった。

「以上・・・相違無いようだな。」

王は言い、グラスの中の最後の一口を飲み干した。彼の前の料理も、少しも手を付けられないままだった。

「一つだけ、お前に質問したい。なぜお前は、真っ先にこの国を訪れなかったのだ?・・・なにも、俺様がその“最も気高き王”であるなどと思っているわけではない。しかし最初にこの国に取り入るなら、しっかりした後ろ盾もできよう。それから他の国へ入る際も、スパイとして行動すればよいのだ。それとも、一度お前を追放したこの国を、信用できないと申すか?」

「・・・いえ、ワシはただ、王にそのように世話になることはできまいと思った次第にございます」

しかしその答えこそ、王の逆鱗に触れるものであった。

「なぜだ!なぜお前はいつもそうやって、他の助けを借りようとはせんのだ!?どうして差し伸べる手を払いのけるようなことをする!?自分一匹で何でもできるとでも思っておるのか!?」

大声で怒鳴る王の傍ら、召使のブビィが慌てて王のもとへソーダ水の入った瓶を運んできた。それが注がれると、王は一口でそれを飲み干し、再び聡明な表情に戻って、魔道士に言う。

「・・・10年前、私が貴殿を慕っていたのは本当だ。しかし飽くまで、魔道士として、師としてのみ。一匹のポケモンとしては、貴殿のようなもの信用するに値しなかった。・・・毎度毎度そのように、他に無愛想な貴殿の態度が、私は嫌いなのだ!」

そこで、王は席を立った。そして去り際に、こう言ったのだった。

「貴殿、誰か一匹でも、信用するポケモンがおるのか?もしそうならば、その者、大事にせねばならんぞ・・・」

そして、明日の働きを期待しておるという言葉も、その後忘れずに付け加えて。

召使のブビィは慌てて魔道士のもとへと寄り、彼を寝室へと案内した。客用の寝室には、柔らかそうなベッドや簡易シャワーなどが置いてあり、何不自由なく過ごせそうだ。確かにこの国へ最初に訪れていれば、自分のマントも上等なままだったろうし、コガラシにも自分の作った不器用な麻巻きではなく、もっと丈夫な日除け服が与えられたかもしれない。

そんな寝室も、出口の戸を開ければそこに見張り役のポケモンがいることを、魔道士は感じていた。彼がこの城の王を信用せぬように、王もまた、魔道士を信用していないのであった。

しかし、彼は知っていた。信用という言葉の脆さを。嘗て彼を信用し、軍師として重用していた先代のブーバーン王も、彼の不吉な予言のために、いとも簡単にその信用を破り捨てたのだった。それは自然と同じ、永遠のものなんかではない。

けれど、コガラシだけは・・・あのちっぽけなヤミカラスだけにとっては、いつまでも味方でありたいと、そう願うのであった。

>>第九話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑦ 【2007/12/21 00:00】
第七話:四つの星
>>はじめから >>前回の話

“するどいつめ”を抱えながら、行商キホーテはその身を荒れ狂う砂嵐の中に曝していた。砂粒が身を打ち付け、強風が彼女を吹き飛ばさんと襲いかかる。しかし、彼女は決してそれに屈することはなかった。

砂粒から顔を片方の手で庇いながら、うっすらと目を開く。彼女が向いていた先に、目的地である砂漠一の王国がある筈だった。今はその道を、カバルドンの群れが完全に塞いでいる。

そのカバルドンらは、彼女から見て左手の方角に進行方向を向けていた。その先には、兵士サンドパンが立っていた。つまり、キホーテから見れば左斜め前に位置する。彼は、体力を削がれ肩で荒い呼吸を繰り返しながら、その場でじっと動こうとはせず、岩のように立っていた。今は、まだ動くべきではない。先程のように高速で転がっていけるのは、体力の問題からしてあと一度限り。それでうまくカバルドンのボスを仕留められねば、あとは敗北が待つのみである。

キホーテの仕事は、そんな彼を勝たせるための武器を運ぶことだった。けれど、無事届けられるものだろうか。キホーテが兵士のもとへ向かおうとしている間にも、カバルドンの群れはじりじりと兵士に迫っている。動きは緩慢だったが、砂嵐によって進行が困難なキホーテに比べたら倍の速度だ。地道に前進したところで、追いつけないのは目に見えていた。

しかしここで、彼女は身につけていた赤いチョッキの右ポケットから、木の実を一つ取り出す。カムラの実――食べれば一時的に身軽になり、少しだけ早く動けるようになる木の実だ。これも貴重な商売道具の一つだったが、背に腹は変えられまい。

木の実を口に放り込み、奥歯でガリリと噛み砕く。強烈な甘さと酸っぱさの中に、少し苦さが隠れた複雑な味だ。しかしその味が喉元を過ぎると、とたんに効き目が出てきた。足が軽くなったように、サクサクと動く。よし、これでカバルドンよりも先に、兵士のもとへ行ける・・・!

が、そのとき黒のカバルドンが吠えた。ハッとして振り向くと、敵はこちらへと顔を向けていた。しまった、もう気付かれたか!砂嵐の中でも目ざといカバルドンのボスは、再び吠えるとすぐに手下の一匹をこちらへ向かわせた。だがキホーテは、今度は左ポケットに手を入れ、紫色の不思議な玉を取り出した。“けむりだま”だ。カバルドンに気付かれた際、唯一身を隠すための手段であった。

けれど、その道具が活躍することは無かった。キホーテに向かっていたカバルドンは、途中でその動きを止め、体を小刻みに震わせていた。いやな予感がした。“ナマズンの身震い”というやつだ。そして、それは大概的中するものである。カバルドンの、いくつかの大きな穴のある背中が急に盛り上がり始め、そこから勢いよく風が吹き出されたのだった。

グオォォォッ!!!!

砂嵐の勢いは一気に激しさを増した。風が、獣の唸り声を上げてキホーテに掴みかかる!その攻撃には耐えられる筈が無かった。キホーテの体は綿毛のように、風に乗って吹き飛ばされていった。

自分は、甘かったのか?風に舞いながら、キホーテは思った。所詮、自分には無理なことだったというのか?結局、大人しく無抵抗に襲われるのを待っていたのと結果は同じだったというのか?そんな否定的な思いが、次々にキホーテの心の底から湧きあがってきた。けれど、彼女の意志はそれらに簡単に絡み取られて動けなくなるほど、弱くは無かった。・・・悔しい、このままで終わることなんて出来ない。このまま、負けを認めるわけにはいかない!

だが、吹きすさぶ砂嵐の前では、彼女のその鉄の意志でさえも無力だ。やがて彼女の体は、数時間前のコガラシのように、地面に落ちた。体が砂に埋もれる。ただ、上半身だけは何とか地面から抜け出せた。

そのとき心なしか、砂嵐が先程と同じくらいか、それ以下まで弱まっているような気がした。むしろ、止んでいるのではないか?だが、今確認すべきはそれではなく、自分が手にしているものだ。・・・よかった、“するどいつめ”は無事だ。“けむりだま”はどこかへ飛んでいってしまったようだが、今更それを残念がっている場合ではない。

そうしたなら、今自分がどこにいるかが問題だった。慌てて顔を上げる。と、目の前に高い岩のようなものがあるのにようやく気付いた。それが、砂嵐を遮ってくれていたのだ。

しかし岩と思ったそれは、こちらをくるりと振り返ると、キホーテと目を合わせた。それを見て、キホーテは息が止まりそうな思いがした。

兵士サンドパンだった。

なんという幸運かと思った。今、彼女は目的の場所へ辿り着いたのだった。無駄などではなかった。何も、無駄なことなんてなかったのだ。

キホーテは何も言えず、ただ慌てて手に持っていた武器を兵士へ差し出した。兵士もそれを無言で受け取る。彼には、感情などある筈が無かった。ただ戦うための兵士なのだ。しかしキホーテから武器を受け取ったとき、彼はその目を僅かに細めた。キホーテにはそれが、何となく微笑んだような気がした。あぁ、これで安心だ。そう思わせる優しさが、そこにあるような気がした。

けれど、彼の元へと向かうカバルドンの群れは、もう目前まで迫ってきていた。今度は体力も削がれているし、先程のように簡単に追い抜くことなどできないかもしれない。

だがそのとき、先頭のカバルドンの頭に、何か玉のようなものが落ちてきた。それはカバルドンに当たると同時に破裂し、中から煙を噴出した。砂嵐にも吹き飛ばされることのない魔法の煙に、カバルドンの群れは視界を眩まされ、混乱しているようにそれぞれ乱れた動きを始めた。まさか、こんなところで“けむりだま”が役に立つたとは。

あとは、兵士の出番であった。“けむりだま”の煙に包まれたカバルドンの群れを尻目に、彼は一気にボスの元へと転がり出した。ボスは周りに残っていた手下らを必死に集めようとするが、その行動は兵士の最高速度の突撃の前には全く意味をなさなかった。

もしもそのとき、彼女が周りに守って貰おうとするよりも、自分で身を守ろうとする手段を取ったならば、結果は違っていたかもしれない。しかし結果というものは、いつも自分で道を切り開こうとする者に優先的に与えられるものだ。

再び兵士がカバルドンのボスの前に飛び出したそのとき。彼の持つ“するどいつめ”は、敵の急所を捉えた。

ガアアアァァァァアアァアア!!!!

断末魔の悲鳴が響く。

そして、カバルドンのボスはその場に崩れた。

兵士は、戦いに勝利したのだった。

やがて砂嵐は収まり、夕暮れの太陽に赤く染まっていく空が顔を出した。後に残されたカバルドンの手下たちは、グオォ、グオォと叫び声を上げていたが、頭領が倒された今、もはや彼らに戦う意志などなかった。彼らのうちの何頭かが目を閉じて動かなくなったカバルドンを抱え、先頭の者が夕日の沈む東の方角へと群れを引き連れて歩いていった。

去っていきながら、カバルドンたちはまた何度も吠えていた。その声は、夕日に赤く染まる西の空にも高く響き渡っていった。

「キホーテさーん!」

コガラシとロシナンテが、未だ下半身が地面に埋まっているキホーテのもとへと駆け寄ってきた。

「大丈夫でござんすか!?ケガは!?」

ロシナンテに引っ張り出してもらいながら、キホーテは、あぁ大丈夫や、と答えた。その声は決して戦いの前のように元気には聞こえなかったが、そのあと彼女の口から漏れた溜息は、ようやく難が去ったことによる安堵感を表していた。

「・・・ところで、あいつは!?兵士は無事か!?」

しかし急に、また切羽詰った様子になる。コロコロと表情豊かな方だ、コガラシはそう思った。

「大丈夫でござんすよ、ホラ、ちゃんとあそこに立って・・・」

だがコガラシが兵士を指差した丁度そのとき、兵士は前のめりにバタリと倒れた。

・・・。

「・・・だ、大丈夫か!?おい、しっかりせぇ!!」

と、慌ててキホーテが駆け出す。尋常でない速さだった。ひょっとしたらカムラの実の効果がまだ続いているのかもしれない。

が、兵士の様子を知ったキホーテは、呆れたようにこう言ったのだった。

「なーんや・・・また、寝とるだけかいな」

それに、コガラシはクックックと笑った。ロシナンテも、バクーダらしくガバガバと笑った。そしてキホーテも、ようやく元気を取り戻したように、アハハハハと楽しげに笑っていた。

ほんのついさっき出来た旅の仲間たちは、いつの間にやら確かな信頼に結び付けられていた。ひょっとしたらそれこそが、カバルドンの群れとの戦いにおいて、彼らを勝利へと導いた第一の要因であったのかもしれない。

「・・・さぁ、もう日が暮れてまうで!もう少しや、頑張って王国まで辿り着くで!」

やがて、キホーテがそう言った。それに対してロシナンテが、今の戦いで疲れたから今晩はここで野宿しようと抗議したが、それでまた主人からポカリと殴られ、四個目のコブを作ってしまう。あほう、じぶん何もしてへんかったやろう、と。

まぁまぁ、あっしらを砂嵐から守る盾になってくれたじゃござんせんか、そう言ったコガラシの頭もまた、ポカリ。一々うるさいわ、兎も角早う行かんと、またさっきのような連中に襲われてまうかもしれへんやろ。いやいや、それはわかるでござんすが、何もロシナンテさんを殴らなくても・・・ポカリ。

・・・やれやれ、もう本調子なのか、この行商は。なんとも心強いことである。

そして、彼ら一行は再び歩き出した。目的の場所へ向けて。

東の空には既にいくつかの星が、きらきらと美しい輝きを放っていた。一つ、二つ、三つ、四つ・・・。

空の四つと、地上の四匹は、どちらも同じ。太陽に照らされて輝く、仲間であった。

>>第八話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑥ 【2007/12/20 00:00】
第六話:砂漠の戦士
>>はじめから >>前回の話

ズシン、ズシン・・・柔らかな砂漠の大地をも揺るがす、恐ろしげな足音が響いてくる。嵐の中、ぎらぎらと輝く赤い目は、「友好的」などという言葉からはあまりにもかけ離れていた。

カバルドン・・・砂漠に生息するポケモンの中で、最も危険とされるもののひとつである。体内に砂を溜め込み、背中に数箇所ある巨大な穴や鼻の穴などからそれを一気に吹き上げ、いつどんなときでも砂嵐を起こす。そして、縄張りへの侵入者を攻撃するのである。コガラシたちは今まさに、彼らの起こす砂嵐の真っ只中にいたのであった。

取り敢えず今のところ、砂嵐を防いでくれる「じめんタイプ」のバクーダ、ロシナンテの下にいるから無事であるものの、狂気のモンスターたちは既にコガラシたちの目前まで迫ってきていた。

先程どこかに落とされたというサンドパンの兵士の行方が知れない上に、自分たちの身にも危機が迫っていたとは。そしてこの砂嵐、出て行って戦うにはあまりに不利だ。もはや、一思いに襲われるのを待つばかりなのか・・・。

と、そのときだった。

シャキィィィィィィィィィン!

何かを切り裂く刃物のような音が、嵐の中から響き渡る。同時にカバルドンの一匹が、痛みに呻くような咆哮を発した。しかし嵐の中のどこから聞こえるかわからないその音を、コガラシは疑った。

「・・・お、おい!見てみぃ、アレ!」

キホーテが指差す方向に目を向ける。聞き間違いなどではなかった。そこには確かに、苦痛に体を激しく揺らすカバルドンの一匹と、その前に二本の足で屹立する何者かの影が見て取れた。よくよく目を凝らす。しかしそれで一瞬見えたその姿を、コガラシはまたしても信じきれなかった。

「サンドパン・・・さん?」

まさか、行方不明になったとばかり思っていたあの兵士が、今カバルドンに立ち向かっているというのか?

「そうか、あいつ、何処かに落としたわけやなかったんか!戦闘に備えて、自ら目覚めとったんやな!・・・流石、兵士やで!」

キホーテは一先ず安堵し、そう言った。

しかし兵士は、それから続けての攻撃ができないでいるばかりか逃げることもままならず、四方八方を徐々に別のカバルドンに囲まれようとしていた。やはり、まだ本調子ではないのだ。

「グォガァァアアァ!」

カバルドンの一匹が、その巨大な口を大きく開き、兵士を襲った。ほっとしていたキホーテの気持ちはドミノ倒しの如く一気に崩れ去り、コガラシも思わず悲鳴を上げそうになった。しかし兵士は後方へ下がり、何とかそれをかわす。

が、お蔭で後方に控えていた別のカバルドンに、まともにタックル攻撃を食らってしまう羽目になった。砂嵐の中を、ちっぽけな兵士の体が舞い跳ぶ。コガラシは、もう見ていられなかった。

助けに行かねば。例えこの砂嵐が自分にとって不利であっても、そうしなければ今度こそ兵士の命は無いだろう。そう思った。しかし、コガラシの翼は恐怖で小刻みにプルプル震え、飛び立っていくのを必死で拒んでいるかに思えた。なんて自分はちっぽけで情け無いのだろう。これほどまでに、自分の弱さを恥じたことは今までなかった。

ただ幸い、兵士はまだ無事のようである。よろめきながらも何とか立ち上がり、カバルドンの群れに再び対峙する。けれどまたあのような攻撃を食らえば、もう立ち上がれる保障は皆無であろう。なにせ、その体を覆っていた鉄の鎧も今やひび割れて、兵士の体を守る役割など疾うに放棄してしまっているのだ。

と、キホーテは何やら真剣な眼差しでカバルドンの群れを見つめていた。彼女は彼女で、また別のことを考えている様子だ。・・・この統率の取れた敵の動き・・・必ず一匹、頭領がいる筈や。そいつを叩けば、もしや・・・。

急に、彼女は目を輝かせ、こう叫んだ。

「見てみぃ!他のカバルドン、皆茶色の体やのに・・・一匹だけ、黒いのがおるで!アイツを叩けば、群れを潰せるかもしれへん!」

「ほ、本当でござんすか!?」

コガラシは驚いてキホーテを振り返った。その表情は、確信に満ちているとは言い難かったのだが・・・。

「あぁ、恐らく・・・。黒のカバルドンは、メスのカバルドン。それが一匹だけあの群れの中にいるっちゅうことは、何か意味がある筈や」

「メス・・・そうか、成る程!」

と、確信に満ちた声で叫んだコガラシに、キホーテは不信の目を向けた。

「・・・じぶん、なして今そないに納得したん?」

ギクリとして、コガラシは頭を庇う。ほんの数時間前にキホーテから殴られた箇所が、まだ少し腫れているようだった・・・このコブをまた増やすわけにはいくまい。

「・・・まぁ、ええわ。兎も角、どないかしてあいつだけでも倒せへんやろうか・・・」

再び一羽と一匹は、砂嵐の中に視線を戻した。黒のカバルドンは群れの一番奥に控え、その周りを他の茶色のカバルドンたちが囲んでいる。そう見ると、益々黒のカバルドンが、ボスとして守られているように思えてきた。あれを、どうやって倒す?

ふと、コガラシは思った。それができるのは、自分しかいないじゃないか!

そう決意した瞬間、コガラシはロシナンテの体の下から這い出し、バッと嵐の中に飛び上がった。キホーテが止める間もない勢いで。翼は、もう怯えてなどいなかった。それは今や鋼のように硬くなり、羽ばたくごとに、体に掴みかかろうと何度も手を伸ばしてくる強風の腕を一本一本切り裂く。それを維持したまま長時間飛び続けることはできないが、黒いガバルドンの元まで辿り着くにはそれで充分だった。

今、敵の真上まで来たコガラシは鋼の翼を振りかざして急降下する。嵐などにかき消されないような、あらん限りの声で叫びながら。

「カバルドンのボス!覚悟するでござんす!!」

が、そうはいくかとばかりに、黒のカバルドンはコガラシ目掛けて、背中の穴から勢いよく砂を吹き上げた。コガラシは振りかざしていた翼を慌てて体の前で交差させて守りの姿勢を取るが、とても防ぎきれるような攻撃ではない。

・・・ズバーッ!

大量の砂が、コガラシの体を飲み込む。そして彼の体を上空へと巻き上げた後、再び砂漠の砂の上に打ち付けたのであった。

不幸中の幸い。その落下地点はまた、ロシナンテのすぐ傍であった。キホーテは慌てて彼を保護したが、そのあと傷負いの身であるに関わらず、彼の頭をポカリと叩いた。これで、五つ目のトサカが出来る結果になった。

「・・・い、痛っ!な、何するでござんす・・・」

「・・・アホっ、それはこっちの台詞や!無茶しよってからに!」

だが、コガラシのその勇敢な行動は無駄にはならなかった。彼を傍らで視察していたお蔭で標的を理解したサンドパンの兵士は、ひび割れた鎧をバッと脱ぎ捨てると、体を丸め、まるで刺の鉄球のような姿になった。そしてそのまま、高速で回転しながらカバルドンのボスへと突き進んでいく。

無論、先程までの緩やかな動きが演技だったわけではない。相変わらず本調子ではないし、また、敵の数を計算し、その分の体力を調整する必要があったのだが、敵の数を一匹に絞った今、今出せる最高のスピードで動けるようになったのだった。そうすると彼は、まるで“水を得たヒンバス”。手下のカバルドンを抜いてボスのところへ辿り着くことなど、容易であった。

戦うための機械、兵士サンドパンが、今、メスのカバルドン目の前へと飛び出す。その瞬間体を元に戻すと、硬い爪を使って敵を正面から切り裂いた!

ズン・・・!

しかし、響いてきた音は酷く鈍いものだった。敵は、まだ平気な顔をしていた。そのカバルドンの外郭は、どうやら他のやつよりも頑丈にできているらしい。流石、カバルドンのボス・・・。

「グアゴォオオォォォォ!」

反撃をしようと、黒のカバルドンが兵士に迫りくる!だがサンドパンは、カバルドンに詰め寄ったのと同じスピードでそれをかわし、後退するのに成功した。ダメージは受けなかったものの、しかし大分息が上がっている。やはり、体力の消耗が激しいようだ。果たして、やつにもう一度詰め寄ることができるか。できても、あと一回が限度であろう。

と、それを見ながらキホーテは言った。

「やはり・・・兵士があのカバルドンに攻撃したとき、周りのカバルドンは動かへんかった・・・全て頭領の指示任せでしか動かへんゆうことや。案外、アイツらアタマ悪いんかも・・・」

「そ、そんなこと言ってる場合じゃござんせんよ、キホーテさん・・・」

先程受けたダメージに呻きながらコガラシが言う。ああ、わかっとるがな。キホーテはそう返しながら、何を思ったのか、手に持っていた荷袋を漁り始めた。

あれでもない、これでもない・・・。袋の中からは、様々な道具が見え隠れした。きらきら光る石のようなもの、何かの王冠のようなもの、いくつかのお香・・・ニャースが一匹で抱えるには大きすぎるぐらいの荷袋ではあったが、一体その中に、どうやったらそれだけのものが収納できるのか。

「・・・あった!」

と、キホーテが叫んだとき、その手にはサンドパンのものより一際長く、鋭い爪のようなものが握られていた。

「それは一体・・・?」

と、コガラシが訊ねるまでもなかった。

「“するどいつめ”や!」

・・・見たまんまの答えが返ってきたからだった。

しかし、これをサンドパンに持たせれば、今度こそあのカバルドンの鋼鉄の外郭に傷を与えられるかもしれない。

「・・・あっし、それ、持っていくでござんす!」

が、キホーテはそう言ったコガラシを制し、こう言った。

「お前はもう無理せんでえぇ。調度品扱うんはワイの仕事や。任せときぃ!」

しかしそれでもなお、コガラシは不安だった。彼女を危険な目にあわせていいものか、そう思ったからである。

それが、彼が初めてメスを守るべきオスというものの本能を感じた瞬間だったのかもしれない。だがこの行商キホーテは、世間一般が考えるメスのようにしおらしく振舞うなどということはしなかった。彼女は、今度はコガラシの目をしっかり見て、言った。

「・・・それに、ワイ、さっき自分の荷物ばっか守っとったこと、お前に怒られたやろ?その、名誉挽回をさせてほしいんや」

コガラシはハッとした。彼女の目からは今、強い意志が見てとれた。

その彼女の姿勢を、何と形容したらいいだろう。最初は、優しさだと思っていた。しかしどうやら、そんな柔らかいものではなさそうだ。もっと硬い何か・・・。コガラシは、もはやそれを止めることなどできなかった。

“するどいつめ”を持ち、ロシナンテの体から這い出すキホーテ。砂嵐が、その体に覆いかぶさる。彼女は咄嗟に片方の手で目を庇った。

「しゅ、主人!無茶を!」

ロシナンテが叫ぶも、彼女は手だけをバッと後ろに突き出し、それを制した。その後姿は、もはや行商のそれにはとても思えなかった。

砂漠の戦士―――コガラシの目には、そう映っていたのだった。

>>第七話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~⑤ 【2007/12/19 00:00】
第五話:道を阻む者たち
>>はじめから >>前回の話

行商ニャースの見事な処置により、瀕死のサンドパン“SAD06”は息を吹き返した。その直前、彼は激しく咳き込み、口から沢山の砂粒を吐いた。どうやら、それが気管に詰まっていたことが、息ができなくなったことの原因らしかった。

「じめんタイプ」のくせに砂にやられるとは、情け無いやつ。そう言ってニャースは笑ったが、彼女も兵士が一命を取り留めたことを喜んでいるようだった。

兵士は、しかしその後も目を覚ます様子はなく、依然として苦しんだ顔をしていた。体に目立った外傷があるわけではなかったが、これまでの戦いにおける疲労が、まだその身に重くのしかかっているのだろう。

するとニャースは、こんな提案をした。

「しょうがないな、ワイらが病院まで運んでったるわ。ロシナンテのコブの間に、こいつ乗せたったらええ」

彼女のその台詞に、コガラシは改めて感激せずにはいられなかった。なんと優しい行商だろう、まるで魔道士ンゲのようだ・・・と。

・・・ただ、さっきみたいに少々乱暴な部分もあるのが玉にキズだが。

しかしこのどこまでも広がる砂漠、近くに病院などあるのだろうか。訊ねると、彼女はコガラシの後方を指差した。それは、兵士を見つける前にコガラシが向かおうとしていた、未知の方向だ。

「このすぐ先に、王国があるんや。でっかいオアシスの都やで~。この砂漠一と言うても過言やないやろうな。ワイも丁度、今からそこに商品を送りに行く用事があってな・・・」

それを聞き、コガラシはまるで体に電撃が走るような感覚を味わった。

胸の鼓動が、ドクンドクンと耳にまで届く。なぜ自分はこんなに興奮しているのだろう。

何となく、彼は感じたのだ。ニャ-スの言うその王国が、これまで見てきたどの国よりも一番、重要なものであることを。もしかしたらそこが、ンゲが言っていた“目的の場所”なのではあるまいかと・・・。

「あっしも、付いていってようござんすか!?」

つい先程、兵士の助けを請うた時の勢いで、コガラシは言った。それに驚いた顔をしてニャースは、

「べ、別にええけど、その代わり・・・」

「その代わり、何でござんすか!?あっし、何でもするでござんすよ!」

コガラシの勢いに押されて、ニャースは何度かパクパクと口を動かしたが、慌ててごくんと唾を飲み込むと、こう言った。

「・・・いや、ただロシナンテの背中、積み荷もあるし、定員オーバーやから・・・お前だけ自分の足で付いて来るんやでって、言おう思うただけや」

・・・。

急に顔を真っ赤にしてしまうコガラシ。ヘンに勢いづいてしまったことを、何やら恥ずかしく思ってしまったであった・・・。

かくして、ヤミカラス、サンドパン、ニャース、バクーダの、1羽と2匹と1頭の旅は始まったのである。


「キホーテさん、王国へは、あとどれくらいで着くんでござんすか?」

バクーダの進行を空から追いかけながら、コガラシは訊ねた。“キホーテ”というのは、行商ニャースの名だ。

「そうやなぁ・・・ワイも実は、行くのこれが初めてなんやけど・・・」

名前も何となくオスっぽい感じのする、このメスのニャースは、気さくに何でも答えた。その行商独特の訛りのある言葉は、度々コガラシの心を和ませた。

「初めてって・・・さっき、“でっかい国やで”って、自分の故郷のように語ってたじゃあござんせんか」

「ハハハ、そいつは同業者からのウケウリってやつや。“ペラップのオウムがえし”とも言うけど」

それにしてもキホーテの話には、心躍らされた。林立する木々、街の真ん中には巨大な噴水があり、色とりどりの屋根を持つ建物が軒を連ねる。そして国を統治する王の城は、豪華絢爛という言葉が正に相応しく、まるで一つの巨大な宝石のようなのだという。この不毛の砂漠の中に、果たしてそんな国が実在するのだろうか。

「まぁ、もう数分歩いたら、ってとこやろう思うけどな・・・って、コガラシ、じぶん空から見えんねんから、なんか前方にあるの、わからへんか?」

と、さっきの質問に答えると共に、キホーテは訊ねる。しかしそれに対するコガラシの返答は、Yesではなかった。

「それが、さっきから視界が悪くなってるんでござんすが・・・なにやら霧が出てきたようで」

「霧?あほか!砂漠に霧なんか出るわけないやろ!ホンマに何も知らんのやなぁ・・・」

「・・・じゃあ、何なんでござんすか?アレは・・・」

「おう、アレはな、霧やなくて砂嵐ってやつや・・・って、えーっっっっっっ!!!!!」

突然叫ぶキホーテ。今初めて、事の大変さを知ったようである。

「・・・ど、どうしたんでござんすか!?」

「あかん、あかんて!あれに巻き込まれたら、大変なことになる!砂嵐や!わからんのんかぁ!?」

砂嵐・・・そう言われれば、聞いたことのある言葉だ。砂漠の中で急な突風が起こり、サラサラした地面の砂粒を空に巻き上げるのだという。それに巻き込まれれば、視界が悪くなる、目に砂が入る、喉が痛くなる、などと様々に不都合なことになるらしい・・・いや、キホーテの慌て様と、実際の砂嵐を見れば、それどころの話ではないように思えてきた。とにかく、逃げなければマズそうだ。

が、そう思った時には既に手遅れである。

「・・・グワッ!」

コガラシの体は、その悲鳴ごと荒れ狂う砂嵐の中に飲み込まれていた。物凄い勢いだ。嵐の中では、彼の体はたった一枚の羽となんら変らなかった。右へ、左へ、そして一気に上昇、一気に下降を繰り返す。コガラシは、まるで自分の体が赤ん坊に操られるおもちゃになってしまったような気分を味わった。

そして、やがて飽きて捨てられたように、ポイと砂漠の地面に叩きつけられたのだった。

「コガラシ!こっちや!ロシナンテの下に隠れるんや!」

柔らかい地面に突っ込んで、体が半分埋まってしまったコガラシだったが、嵐の中微かに聞こえるキホーテの声を何とか聞き取ると、声が聞こえた方向まで、どうにかこうにか這うようにして向かっていった。

バクーダのロシナンテは、思いのほかすぐ傍にいた。彼女の体の下まで逃げ延びると、そこまで嵐の勢いが届くことはなかった。

「ロシナンテは“じめんタイプ”。コイツの影に隠れていれば、ワイらは安心や」

隣にいたキホーテが言った。しかしその表情は、自分らが無事であったにも関わらず、どことなく暗い。

「・・・ご主人、品物には大事無かったか?」

と、上からロシナンテが声をかける。それにキホーテは、積み荷以外で抱えていた荷袋の中身を見ながら、力なくこう答えた。

「・・・ああ、なんとか。必死で守ったからな・・・吹き飛ばされずに済んだわ」

荷物も無事らしい。だったら、一体が不安なのだろう。

と、コガラシは仲間が一匹足りないことに気付いた。

「・・・サンドパンさんはどうしたんでござんすか!?」

その台詞にキホーテは、項垂れてこう答える。

「・・・それが、どっかに落としてきてしもうたようで・・・」

それを聞き、コガラシの表情は憤然となった。落としてきた?この、荒れ狂う砂嵐の中で!?

「た、助けようとは思うたんや!・・・せやけどその前から、既にどこにも姿があらへんで・・・」

「そんな!あなたが、荷物ばかり必死に守っていたのが原因でござんしょ!?」

「・・・コガラシ、主人を責めるな!」

と、ロシナンテが主人に代わって弁解する。

「品物は、行商にとって命の次に大事なもの・・・主人はただ、行商として当たり前のものを守っただけだ」

・・・命の次に大事?ならば、名も無き兵士サンドパンの命は、命として認められないというのだろうか・・・。コガラシは再びそうやって行商に食って掛かろうとしたが、何とか思いとどまった。所詮、自分たちはただの「ついで」だ。それまで守る責務は、彼女たちには無い。

「・・・それに一応言っておくが、あの兵士も“じめんタイプ”・・・きっと、この嵐でも平気な筈だ」

ロシナンテのその言葉が気休めにしかならないことは、下の二人には気付いていた。先程喉に砂を詰まらせて窒息していた兵士が、平気なものか。もはや笑い話では済まされなかった。

「・・・あっし、探してくるでござんす!」

出し抜けに、コガラシが言う。キホーテは目をドーミラーのように丸くし、項垂れていた顔を彼へと向けて叫んだ。

「あかん、あかんて!コガラシまでこの中で行方不明になったら、どないすんねや!」

・・・確かに、そうなる可能性は大だ。先程いとも簡単に吹き飛ばされたばかりである。けれども、このまま黙って見捨てるわけにもいかない。だったら、どうすればいいのだろう・・・。

この板ばさみの状況に、コガラシは顔を険しく歪ませた。砂嵐はそんな彼をあざ笑うかのように、勢いよく吹きすさぶ。悪魔のような自然災害だ。

そして、彼らに降りかかる災厄は、それだけではなかったのである。

グオオォォォォォォ・・・。

恐ろしい獣の咆哮のような音が、嵐の中から響き渡った。それも、一つではない。まるでお互いを呼び合うかのように、何度も何度も響く・・・。

「な、何でござんすか、これは・・・」

コガラシがそう訊ねるも、キホーテは既に殆ど正気を失ったような顔をして、わなわなと体を震わせていた。

しかし何とか絞り出すような声で、彼女は今の状況を答えたのであった。

「・・・あかん、あかんて!カバルドンの群れや!ワイら、カバルドンの群れに囲まれたんや!」

>>第六話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~④ 【2007/12/18 00:00】
第四話:行商
>>はじめから >>前回の話

コガラシが瀕死のサンドパンを目の前に、あれこれ思いを巡らせていたとき。前方からなにやら巨大な影が、のそのそと近付いてきていた。バクーダだ。

「おーい、そないなところで何してんねん、お前らー」

聞こえた声はその大きな体に似つかわしくない、甲高くて小さな声だった。

いや、その声の主はバクーダではない。よく見るとバクーダの首の後ろの辺りに鞍が付いており、そこに小さなポケモンが乗っている。ニャースだ。そのニャースが、声を発したのだった。

ニャースは、頭にターバンのような布を巻き、体に赤いチョッキを身につけている。何とも奇妙な姿だが、もしかしてこれが、以前ンゲが教えてくれた“行商”というやつだろうか。

しかし、今はそんなことどうでもよかった。相手の身分云々を問う前に、コガラシはこう叫んでいた。

「お願いでござんす、助けておくんなせぇ!ここに、瀕死の兵士がいるんでござんす!」

ニャースはその台詞にキョトンとしたが、すぐに目の前で体が半分埋まっているサンドパンの姿を認めると、こう言った。

「・・・そいつ、昨日滅ぼされたサンドパン王国の兵士やないんか?そんなん助けて、どないするつもりや」

その台詞に、コガラシはハッとした。よく考えてもみれば確かに、コガラシにこんな兵士を助けてやる義理は何も無い筈だった。

けれどまだ、何とか生きているのである。それも、あの戦場からなんとかここまで逃げ延びてきて。その命をこんなところで失わせるのは、あまりにも不憫だと思ったのだった。

それが同情心というものだと、コガラシはまだ知らなかったのだが。

「お願いでござんす!」

再び、コガラシは頼みを乞うた。このちっぽけなヤミカラスには、他にどうすることもできなかった。

「・・・わかったわかった、ほんなら、ちょっと待っときいや」

と、幸運なことに、ニャースは頼みを聞き入れることにしたようだ。鞍の付いたバクーダの背中からひょいと飛び降りると、サンドパンの前に進み出た。

「・・・あかん、息してへんな」

行商は兵士の口の辺りに耳を近づけると、そう言った。その台詞は、冷静さを欠いてはいなかった。彼は、まだ半分地面に埋まったままの兵士の前までバクーダを呼ぶと、こう命じた。

「“ロシナンテ”、こいつの片手を口に銜えて、体を全部地面から引きずりだすんや」

バクーダのロシナンテは一声バウッと唸ると、素直にそれに従った。兵士の体は、いとも簡単にすっぽりと地面から抜けた。そして、仰向けになって横たわった彼の体から鎧を脱がすと、裸になったその胸に、ニャースは耳を近づける。どうやら鼓動を聞いているらしいことは、コガラシにもわかった。

しかし、その後の行動にコガラシは驚いた。行商は突然、兵士の胸を、上からパーにした手で圧迫し出したのである。

「ちょ、ちょっと!瀕死の相手に向かって、何するんでござんすか!?」

「はぁ?何って・・・心臓マッサージしとんねん」

マッサージ?自分が飛び疲れて翼が痛む時などに、よく魔道士が付け根の辺りを揉み解し、痛みを和らげてくれたものだが、それと同じ行為だろうか。とてもそうは思えなかったが、そもそも心臓なんてものは、体の外から揉むことなどできない。勝手が違うのだろうと、コガラシは解釈することにした。

けれども、そのあと再び兵士の顔に耳を近づけて呼吸の有無を確認したニャースは、次にあろうことか、その口に自分の口を合わせたのだった。

「こ、今度はオス同士で接吻でござんすか!?」

「・・・ちょっ、黙らんかい!うっとうしいがな!」

・・・怒られてしまった。

と、その横でバクーダが、この無知なヤミカラスにぼそっと耳打ちした。

「これはポケモン工呼吸(ぽけもんこうこきゅう)というやつだ。息をしていないサンドパンに、口移しで空気を送っているのだ」

更に、こう付け加えた。

「それに、私の主人はオスではない。メスだ」

それが、今までで一番驚いた。雰囲気から何となく、ニャースがオスであると決め付けかかっていたのだが・・・。

その様子を見て、ロシナンテはふふふと笑う。

「まぁ、そう驚くな。ニャースは、外見的にはオスもメスも一緒だからな。私も、本人に聞くまで確信が持てなかったのだ・・・まぁ、メスだとは思っていたがな」

どうやら、コガラシの知らないことは、世の中にまだ色々あるらしい。

「・・・ところで、あなたはオスでござんすか、それともメスでござんすか?」

と、ついでに訊ねておく。すると、ロシナンテの顔にはみるみる険しくなっていき、火山の噴火口のように高く突き出た背中のコブからは、煙のようなものが噴出し始めた。・・・どうやら、マズイことになったようだ。

「・・・私の、この立派なコブが目に入らないのか?ヤミカラスよ・・・」

「あ、あわわわ・・・そ、そうでござんすよね。その雄雄しさは、オスでござんすよね!」

かつてないほどの危機をその身に感じ、慌てて言い繕うコガラシ。その結果は・・・。

「たわけっ!コブが高い方がメスだ!」

遂にロシナンテが大きく体を震わせ、コブからはマグマを激しく噴出する直前の、恐ろしげな音が響き始めた。万事休す・・・!

・・・かと思いきや。

ゴツン!

その直後、砂漠に響き渡った乾いた音が、一瞬にして全ての騒ぎを鎮めてしまった。

ついでにもう一つ。

ばこん!

「やかましいわ、お前ら!こちとら瀕死の患者抱えてんねんから、静かにせんかい!」

ロシナンテの頭には、三つ目のコブが。そして、コガラシの頭には、四つ目のトサカが出来ていた。

乙女は強し。今回コガラシが学んだ一番大切なことは、それだったろう・・・。

>>第五話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~③ 【2007/12/17 00:00】
第三話:旅の行く末
>>はじめから >>前回の話

魔道士の旅の目的を知るものはいない。魔道士の中には、強さを求め修行へと赴く者、行商に混じって金儲けをする者、見聞を広めるために諸国を旅する者など様々いるが、その真の目的というものは大概、秘密とされているものだ。

平和をもたらすためと偽り二国の間を行き来し、その裏で戦争を起こす切欠を作り、両国を破滅へ導いた悪の魔道士もいた。また、自分は目的など何も無い、つまらない旅人だと語りながら、荒れ果てた大地に木の実を植え続け、見事そこへ森を復活させるに至った立派な魔道士もいた。

それゆえ魔道士というものは、尊敬されることもあれば恐れられることもある、不思議な存在である。その行いによって「悪魔」と呼ばれることもあれば、「賢者」と呼ばれることもある。

さて、この物語の最初に登場したフーディン、ンゲは、そのどちらにも属することのない謎の存在であった。というのは、前書きにて「多くの戦場でその名を轟かせた凄腕の魔道士」という風に彼のことを記したが、それは味方となった者にとって彼は英雄であるが、敵方にとっては逆に、憎むべき相手であるということを意味するからである。

けれど多くの戦いにおいては、彼が最終的に戦いを終結させ、平和をもたらす役を担ったということが伝えられており、それを信じて彼のことを賢者として讃える者は、事実少なくは無かった。

また、これはあまり知られてはいないが、彼はまた、ある森で暴君として君臨していたムクホークを改心させ、森に平和をもたらす一役を担ったこともあるのだという。そのことを知れば、ンゲが賢者であると慕うものはもっと多くなり、やがて彼の武勲(いさおし)を詩に謡う者も現れよう。

だが、今回のこの砂漠の旅は果たして平和へのためのものなのか、連れのヤミカラスにもわかるものではなかった。今まで魔道士から各地の様子を調べるという仕事を任され、砂漠の中を飛び回ってきたのだが、今回の戦争はただ2国間の争いに留まらない。それを全て治めることなど、たった一匹の初老のフーディンに務まるのだろうか。

それに今のところ、ンゲは各国を転々とし、それぞれの戦争に加担している。それによって自分たちが食いつなぐための利益を得ることも必要だろうが、平和を求めるのであれば戦争を止めさせることこそ先決なのではないかとも思う。

しかしときに、魔道士はコガラシに、ヒントのようなことも告げるのであった。自分は、ある目的の場所へ向かおうとしているのだと。そして今行なっていることこそが、その目的を達成するための下ごしらえだ、と。

その目的の場所とは一体どこなのだろうか。彼の得意とするテレポートを使ってすら、辿り着けないような場所なのであろうか。尤もテレポートというものは、長距離をも一瞬で移動のできる優れた能力であるが、移動手段としては不完全な部分もある。そのことについては、また後で触れる機会もあることだろう。

何はともあれ、コガラシはンゲを信用し、従うにとどまった。ンゲのことを信用していたからである。幼き日、彼は故郷の森にたった一羽で寂しく暮らしていた。そんな彼の元へ立ち寄り、希望を与え、連れ出してくれたのがンゲだった。

だから今、彼の全てはンゲのものだった。ンゲが行くところ、どこまでも付いていこうと彼は心に決めていたのである。


ンゲがブニャットの王の元から逃げ出し、命を狙われるようになった日から一晩明けた朝のこと。コガラシは再びンゲと別れ、単身、次のオアシスの街を求めて飛行を続けていた。彼の体と頭には今、淡い黄色をした麻の布が巻かれていた。日よけ服だ。この灼熱の砂漠において、体の黒いヤミカラスが空を飛べば、その体はすぐに熱を吸収し、焼け死んでしまう。それを防ぐためにと、魔道士が作ってくれたものだった。

極々簡素なもので、最初のものは僅か三日でボロボロになってしまったが、魔道士は各地で木の実入れの袋などを手に入れる度、それらをばらして何度も新しいものを作ってくれた。今朝も目覚めたとき、コガラシの枕元には、昨日の袋で作ってもらった新しい服が置かれていた。

自分のマントは既に埃だらけなのに、ワシのことはどうでもいい、何よりおヌシを大事にしたいのだと言って・・・。それが尚更、仕事を必ず全うしようという彼の決意を更に強くするのだった。“ドゲチックのおんがえし”にも見紛う、立派な献身的姿勢である。

それにしても、なんとこの砂漠は広いのだろうか。魔道士もこの間、「噂には聞いていたが、これほどまでとは思わなかった」と語っていた。

ふと、ひょっとしたらこの砂漠には終わりが無いのではないか、という思いがコガラシの脳裏に湧き上がった。自分もある噂を耳にしたことがある。砂漠というものは現在、広がっているのだと。それも、都会に住むポケモンたちが次々に森の木を伐採したり、野生のポケモンが増えすぎて貴重な草木を食い荒らしたりしているのが原因となって・・・。

考えれば恐ろしくてならない話だった。自分の故郷へも、都会から森林を伐採しに来る者らがいた。彼らは、切りすぎてはいないだろうか。もしかしたら既に何も無くなってしまっていて、この砂漠に飲み込まれていやしないか、とも思った。

・・・いや、そんな筈は無い。そうなる前に、我が魔道士様がなんとか手を打って下さる筈だ。或いは、今こそ、それを防ぐための働きを今行なっていらっしゃるのかもしれない。それならば尚のこと。自分は仕事を果たさねば。コガラシは大きな決意を胸に抱き、少し空を飛ぶスピードを上げようとした。

と、その筈が次の瞬間、逆に、羽ばたくのを止めてしまった。その理由は、眼下に何か光るものを見つけたのである。光り物に目が無いヤミカラスは、急に我を忘れたように、その元へと降下していた。さっきの決意はどこへやら・・・。

しかし地面に降り立ち、その光り物の正体を知った瞬間、彼は何だかガッカリしてしまった。鉄でできた、盾のようなものである。きっと戦争に敗れた兵士が落としたものだろうが、盾なんて自分には重くて、手に入れようがないではないか。

が、見つけたものはそれだけではなかった。傍の地面から、何か鋭いものがにょきっと突き出していたのである。それは最初、刺のようにも見えたのだが・・・。

「違う、これは・・・手!?」

そう、鋭く長い爪が生えた、何かのポケモンの手が、地面から突き出しているのであった。恐らくこれも、その兵士のものだろう。

しかしこれは、切り落とされたのか?それとも、体はこの下に埋まっているのであろうか・・・。コガラシはそれが気になって、何だか真相を確かめたくなった。恐怖よりも好奇心の方が勝ったのである。そうと決まれば、彼は嘴を使って、地面を掘り始めていた。

砂漠の砂は柔らかい。すぐに手の付け根が現れた。そして、鉄の鎧の付いた胴体も。また、そのポケモンの正体もすぐにわかった。背中から生える沢山の刺が見えたからだ。サンドパンだ。

昨日、ンゲとの戦いに敗れた兵士たちもサンドパンだったが・・・やつらの仲間だろうか?だとすれば、なぜ一匹だけでこんなところに埋まっているのだろう。もう既に、ブニャット王国の兵士らによって捕らえられ、全員捕虜にされたのではなかったのか。

それとも、一匹だけで何とかかんとか、ここまで逃げ伸びてきたのだろうか・・・。

と、次の瞬間。急に目の前のサンドパンの手が動き、コガラシを襲った。ギャッという鋭い悲鳴を上げながらも、コガラシはなんとか、すんでのところでそれをかわす。まさか、生きているとは思わなかった。

コガラシはすぐさまそのサンドパンの傍から飛びのき、身構えた。が、サンドパンはまだ半分体を地面に埋めたまま、ピクリとも動かなかった。やはり、瀕死の状態であることは間違い無いらしい。

コガラシは戦意を鎮め、サンドパンの元へと近付いた。その体は死んだようにぐったりとしてはいたが、目はうっすらと開き、閉じ、また開き・・・を繰り返していた。

「・・・助けてほしいんでござんすか?」

コガラシは訊ねる。何となく、そんな気がしたからだ。サンドパンは、しかし何も言わなかった。何も言いはしなかったが、ただ目の開閉は続けていた。

「・・・あなたの、名前は?」

再び訊ねる。何がしかの情報が欲しかった。するとサンドパンは、やはり何も喋りはしなかったが、ゆっくりと手を動かし、傍に転がっている鉄の盾を指した。

コガラシはそれを、よく調べてみた。裏に、何かの文字が彫られているのを発見した。それが恐らく、兵士の名なのだろう。だが、それを読み取ると、コガラシはぎょっとした。

「“SAD06”・・・」

まるで名前とは思えない。ただの番号ではないか。

そうか。コガラシはすぐに察した。このサンドパンが属していた国では、兵士はただ戦闘するためのマシン・・・名前も、このようにただ番号だけで表されるに留まっていたのだ。何と気の毒なことか。コガラシは思った。

自分の慕う魔道士ンゲは、嘗て、彼に名前というものの大切さを教えてくれた。全てのものに名前がある。名前というものが、世界を世界たらしめているのだ、と。そして元々名前の無かった彼に“コガラシ”という名を与えてくれたのも、ンゲだった。

しかしこのサンドパンのように、ただの番号を名として与えられたとしたらどうだろう。まるでその存在を、炎のように赤々と燃える力強い命の一つを、大勢のうちのたった一つ、そこらじゅうに転がった石ころの一つとして数え上げているようなものではないか。かの国は、名前というものをどれ程蔑んで見ていたのだろうか。それを思えば、コガラシは吐き気すら覚えるほどだった。

と、そのとき。サンドパン“SAD06”は、伸ばしていた手をぐったりと下に下ろしてしまった。開閉を続けていた目も、閉じたまま動かなくなった。慌てて近付いてみる。なんと、息をしていない。

早く何とかして助けなければ、手遅れになってしまう。かといって、どうすべきか。身長僅か0.5mで体重2.1kgのちっぽけな自分に、1.0m・29.5kgのサンドパンを掴んで飛んでいくことなど、到底できそうには思えない。このまま、見殺しにするしかないのだろうか。

コガラシは今、この砂漠に訪れて初めて、絶望というものを味わっていた。太陽は今、砂漠の丁度真上に位置していた。それはコガラシたちの行く末を照らすようで、恐らく何も知りはしないのだろう。

太陽にはただ、彼らを見守ることしかできないのであった。

>>第四話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~② 【2007/12/16 00:00】
第二話:杖の灯
>>はじめから

よく澄んだ星空の広がる夜。昼の気温と一転して急激に寒くなるこの厳しい夜の砂漠で、月だけは昼間の太陽の面影を残しながら、優しく地上を照らしていた。

そこに、一匹のフーディンが歩を進める。右手にはイチイの杖を持ち、その小さな背には、随分砂埃を被った、あまり上等とも呼べないマントが羽織ってあった。一見初老の浮浪者のようでもあるが、よく見れば、その湧き上がる威厳から彼が並みの存在ではないことが誰でもわかる筈である。

その魔道士は、目の前にテントの群れを見つけると、歩を止めた。この砂漠をフライゴンに乗って渡る行商ニャースたちが、途中で砂嵐に遭った際などに避難するための場所である。今晩はこの場を借りることとしよう。魔道士ンゲは、そう思ってテントへ近付いた。

丁度そのとき、背後から鳥が降り立ってくるときの羽音が聞こえた。ンゲが振り向くと、そこに立っていたのは漆黒の翼を持つポケモン、ヤミカラスであった。

「おお、おかえり、コガラシ」

ンゲは、この砂漠における唯一の仲間であるそのヤミカラスの名を呼んだ。

「この度のお働き、誠にお疲れ様でござんした、ンゲ様」

「はっはっは、そんな堅苦しい挨拶はしなくていいよ。さぁ、お前も中に入りなさい」

顔に柔和な笑みを浮かべながら、ンゲはテントの中へ、コガラシを招き入れた。

中に誰もいない、狭く、真っ暗なテントの中。砂の上にござが敷いてあるだけの、かなり簡素なつくりだ。しかし砂嵐に耐えうるだけの強度はある。

そのござの上に、魔道士は腰を下ろす。後から来て、テントの入り口を閉めた連れも、そこにゆったりと腰を落ち着けた。

ンゲの持つイチイの杖に、魔法の明かりが灯る。それは蝋燭のような小さな明かりだが、それよりも確かな温もりが、そこには感じられるようだった。

「さあ、それじゃあメシとしようか」

魔道士は、腰に下げていた麻の袋の中から、ナナシやらオレンやらの木の実を取り出した。イチイの杖の光を受け、どれも美味しそうにきらきらと輝いている。流石、王室の果物。

「・・・あんなことがあったが、報酬は先に戴いていて、よかったな」

そう言いながらニコリと笑って、ンゲは自分の連れに食料を投げてよこした。コガラシは嘴で上手に木の実をキャッチすると、実に美味そうにもぐもぐと平らげた。

「・・・しっかし、よくぞあのデブ王の誘惑に耐えられたものでござんす」

もう二つ目の果実を催促しながら、彼は言った。

「口が悪いぞ、コガラシ。今回の報酬はあくまでブニャット王からのものだということを忘れんようにな」

二つ目の果実をコガラシに投げたあとで、自分も一つ目の木の実を取り出しながら、ンゲはコガラシを戒めるそんな台詞を紡ぐ。それは厳しい忠告というよりも、父が子を躾けるのに似ていた。

不思議な二匹だ。見るものが見れば、単なる仲間同士よりももっと強い絆を、そこに感じ取るに違いない。

しかし父親のような表情を、一旦魔道士らしいそれへと戻すと、ンゲはこう続けた。

「・・・だが、ただの雇われ魔道士に城を与えようなどとは・・・そうまでして、ワシの力を留まらせておきたかったのだろうか」

「この砂漠では、どの王国も生き残るために必死でござんすからね・・・戦に勝って、少しでも多くのオアシスの領地を手に入れることが、ここで暮らす者たちの生きる術・・・ンゲ様が加勢した戦もの含め、今日見てきただけで3箇所もの区域で戦が繰り広げられてござんした・・・」

コガラシのその台詞に、ンゲはフッと笑う。可笑しいのではない。むしろ、呆れているのだ。

「このような厳しい環境で生きていくためには、オアシスの小国同士による協力こそ必要だろうに。何とも愚かで、醜い生き様であろう・・・」

シャリ。木の実をひと齧りし、魔道士は続ける。

「・・・まぁ、ワシのように戦に加勢した者が、とやかく物を言えるようなことではないか」

「そんなことを言って。確かに聴いたでござんすよ。ンゲ様が、あのデブ王を盗賊だとか、悪趣味だとか言うのを」

クックック。ヤミカラス特有の笑い声を後に付け加えて、コガラシはそんな台詞を吐いた。そんな彼に、魔道士は目だけを向けて反論する。

「・・・言っておらんぞ、そんなことは。やつらが勘違いしたまでのこと」

「じゃあ、どうしてそんな風に勘違いさせるような無駄な台詞を・・・?」

と、コガラシの言葉に、魔道士はフッと笑う。今度は、本当に愉快そうな笑い方だった。

「確かに無駄な台詞よ。やれやれ、歳をとるとつい口数が多くなってしまうものでの」

「笑い事では済まされないでござんすよ。お蔭で王を怒らし、追っ手がいつ来るやもわからない・・・」

「いや、追っ手が来るのは、何もワシが口を滑らしたのだけが原因でもないぞ」

ようやく一つ目の果物を食べ干して、魔道士は言った。連れは、果実を食べる動きを止めて、キョトンとしている。

「・・・やつら、ワシが自分らのものにならんと知って、恐くなったのよ。もしワシが他所の国に雇われたのなら、脅威となるからな」

「・・・じゃあ、もしかしたら命を狙われる危険性も・・・」

「もしかしなくても、そういったことは充分にあり得る」

急に食欲が無くなったようにして、コガラシは視線を落とした。一方で、ンゲは二つ目の果実に手を伸ばす。恐ろしいことを言った割には、全く危機感が無い様子だ。

「・・・恐いか、コガラシ」

再びフッ、と笑って、彼は言った。コガラシは少したじろいだ様子を見せながらも、食事を再開した。

「・・・いや、ちょっと驚いただけでござんすよ・・・」

そんな連れに優しい視線を送りながら、魔道士も食事を続けた。

「安心しろ、もう少し進めば、ワシの目的の場所へ辿り着ける。さすれば直に、この砂漠から抜けられるだろうよ・・・」

もう少し進めば・・・。

もう少しとは、あと何日、何ヶ月であろうか?コガラシは最初この砂漠地帯に足を踏み入れたとき、すぐに抜けるよ、とンゲに言われたのに、気付いたらもう七日目である。そう言えばここへ来る前は、ンゲのマントももっと上等な風にしていた。七日間もの長い時間が、彼のマントをこんなにもみすぼらしくしてしまったのであった。この調子では自分の漆黒の羽も、直に、ぼろぼろでみすぼらしいものになってしまうのだろう。

・・・まぁ、いいや。コガラシは思った。何も、急ぐ理由もないのだ。

イチイの杖の明かりが消え、静かな闇に包まれた。魔道士の寝転がる隣に座り、ヤミカラスはスヤスヤと寝息を立てた。彼は、今夜もまた夢を見るだろう。とんでもない悪夢かもしれない。しかし、例えどんなに恐ろしいものであったとしても、彼の隣にいる偉大なる魔道士が、彼のことを守ってくれるに違いない。

ンゲの傍にいるだけで自分は幸せなんだと、そのちっぽけなヤミカラスは思っていたのだった。

>>第三話
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Pokemon QuestⅡ:砂漠の魔獣~The Great Sunshine~① 【2007/12/15 00:00】
>>PQⅠから読む

プロローグ:戦場の魔道士

地響きが轟いた。

ある砂漠の地にて。辺りが見えなくなるほどの砂煙を巻き上げながら、おびただしい数のサンドパンたちが、その屈強な体に重厚な鉄の鎧や兜を身に着け、荒々しい雄たけびと共に駆けていった。

戦争だ。

彼らの目には、雨粒ほどの僅かな優しささえ無かった。あるのはただ、鋼の剣のような、鋭い殺意だけ。彼らはもはや、生きる兵器であった。
サンドパン兵士(Illust:Gasutoso)
戦うことが、彼らの呼吸。そして敵を倒すことが、彼らの存在証明であった。このような連中の攻撃を食らえば、どんな部隊だって、一溜りもあるまい。

しかし、次の瞬間。

その憶測が、まるでくだらない冗談のようになってしまう出来事が起きた。

とたんにサンドパンたちの体は、フワリと宙に浮いた。かと思うと、まるで正面から巨大な衝撃波を受けたように、後方へと弾かれるように勢いよく飛ばされていったのである。

地響きは鳴り止んだ。屈強な戦士たちは立ち上がることもできず、その場でウンウン唸っている他なかった。

戦いの幕は、一瞬にして降りてしまった。

そして、戦意を奪われた戦士たちが倒れる場所の数百メートルばかり先、その戦いを終わらせた一匹のポケモンが立っていた。

彼の背は大して高くもなく、その顔は初老で、既に皺が出始めていた。

しかし彼こそが、多くの戦場でその名を轟かせた凄腕の魔道士フーディンである。

その名は、“ンゲ”といった。


第一話:逃亡

「この度は、大儀であったぞ、“ムゲ”」

王ブニャットの謁見の間にて。戦いの後そこへ呼び出されたンゲは、王に向かって恭しく頭を下げた。

「…“ムゲ”ではなく、“ンゲ”にございます、陛下…」

横から入った大臣ビーダルの訂正に、不機嫌な顔をしながら、王ブニャットはこう言い放った。

「…ええい、どっちでもいいではないか。異国の言葉は、発音が難しいのだ」

・・・ははっ。快い短い返事と共に大臣は王に頭を下げながらも、渋い表情を隠しきれないでいた。いくら王とは言えど、かの魔道士に対して「どうでもいい」などという口の聞き方があろうか?

魔道士を怒らせると、決して喜ばしいことにはならない。かつて、大臣ビーダルより太っているのではないかと王に言われて腹を立てた魔道士ブーピッグがいたが、彼はその仕返しに大臣に呪いをかけ、いくら食事をしても空腹が治らない体にしてしまったことがあった。

あのときは、自分の妻の宝物であった真珠の首飾りを魔道士に贈ることで、その呪いは解いてもらえたのだが、大臣の体には今でも若干呪いが残っているような節があり、ときどき急に空腹感に襲われてどうしようもなくなるときがある。また、当時首飾りを手に入れる際に起きた喧嘩が原因で、妻とは未だに口を聞いてもらえていない。

またその他にも、王の失言によって魔道士達の怒りを買うことは多々あり、その度に大臣はその身にとばっちりを受けてきたのである。いくら図太い神経の持ち主で知られるビーダルとはいえ、それらの経験が彼の性格を酷く捻じ曲げてしまったということは、言うまでもない。

が、今回のこの魔道士ンゲは、名前を呼び間違えられたことなど全く気にした様子もなかった。まぁ、彼にとってはよくあることなのかもしれない。それにしてもその表情は、笑うでもなく、呆れるでもなく、何の感情も読み取ることができない。

・・・食えないやつ。大臣は、誰にも聴こえないように軽く舌打ちした。

「・・・ところで、“ヌゲ”よ」

また名を呼び違えながら、王は言葉を続けた。

「そなたに、今回ワタクシは素晴らしい褒美を用意した。・・・どうだ、受け取ってくれるか?」

褒美!その言葉を聞いて喜ばない者がいようか。

反応を見ようと、大臣の注目はンゲに注がれた。だが、相変わらず無表情のまま、ンゲはこう答えた。

「・・・褒美の内容にもよりますな」

失礼なやつだ!大臣ビーダルはだんだんこの魔道士の様子にイライラしてきた。けれど、褒美の内容を聞けば、どんな腹黒いやつだって目の色変えて飛びついてくるに違いない。そんな確信があった。さあ、聴いて驚け。王が貴様ひとりのためにどんな素晴らしい褒美を用意しているのか!?

やがて、王はニヤリと笑って、こう言い放った。

「この度そなたが倒した小国の城・・・それをそなたに与えようぞ!」

さあ、どうだ!?城をやると言われて急にだらしなく目の色を変える大魔道士の表情を、大臣は期待した。

しかし次の瞬間、その期待は完全に裏切られることになる。

「そのようなものであれば、受け取るわけにはいきません」

「・・・なにを馬鹿な!?」

大臣は遂に感情をむき出しにしてそう叫んだ。

「城であるぞ!王はそなたに、この度我らが属国としたその地を治める権利を、そなたにくれてやろうとおっしゃっておるのだぞ!それがいかに喜ぶべきことか、お前にはわからんと申すか!」

それに対し、ンゲはポーカーフェイスのまま、こう返答した。

「ワシは街から街へ、国から国へと渡り歩く流浪人・・・そのような者が、一つの場所に根を下ろすことなどできましょうや?その上それを統治せよなどという仕事は、いかに多くの戦場を潜り抜けてきたワシにも務まりますまい。それに・・・」

「・・・貴様!この褒美を、どれだけ多くの家臣たちが欲しがっているのかわかって言っているのか!?」

自分もそんな家臣のひとりであったビーダルは、なおもわめき散らした。

「この、おっ・・・!!!」

愚か者めが!そんな台詞が出かかったとき、大臣は急に我に返って、口を閉じた。魔道士を怒らせないようにと努めなければいけないときに、自分の方が腹を立てては元も子も無いではないか。

「・・・しっ、失礼!」

慌てて彼は王に頭をさげた。けれど、王はそんなものよりも、ンゲが続けようとした台詞の方が気になる様子で、彼の神経質な家臣には目もくれず、こう言った。

「・・・それに、何だ?言うてみよ」

「ははっ」

一呼吸置き、ンゲは続けた。

「・・・それに、ですな。いくらこの度の戦争でブニャット王のものになったとは言え、かの小国は元々、かの国の王の物。そのようなものを我が手中に収めようなどとは、まるで盗賊のような所業にございますまいか?」

「・・・なんだと?」

その言葉に、王の顔は怒りで赤く染まった。それに反比例するように、大臣の顔はどんどん青ざめてゆく。・・・マズイ、これは彼にとっても由々しき事態だ。

「他の国を侵略したワタクシに向かって言っているのか、その言葉は!?ワタクシを盗賊呼ばわりするつもりか!?」

「・・・いえ、決してそのような。ただ、ワシにそのような趣味はないと言いたいのでございまして・・・」

「ならば、ワタクシが悪趣味とでも申すか!?」

ンゲが下手に言い繕おうとしたことが、逆に火に油を注ぐ結果となった。ポケモンの世界ではこれを、“ヒードランのもらい火”とも言うが、正にそのヒードランが噴煙を噴出す如くに怒りを露にした王は、城中に響き渡るような大きな声でこう叫んだ。

「皆のもの、遠慮はいらん!この無礼な魔道士をひっ捕らえよ!」

とたんにンゲは、周りを何匹もの兵士ヤルキモノたちに取り囲まれることとなった。

が、それでもンゲは表情を変えない。まるでこの魔道士が、冷静である以外の術は持たぬといった風で。

「仕方ありませんな・・・」

次の瞬間、ンゲの姿は煙のように消え去った。

「・・・テレポートか!おい、まだそれ程遠くへは行っていない筈だ、追え!追うのだ!」

王ブニャットのヒステリックな叫び声に、ヤルキモノたちは一斉に謁見の間を飛び出していった。また王も、腹立たしそうに体を震わせながら、玉座から立ち上がって己が部屋へと引っ込んでいった。後には、また困ったことになったと、痛む頭を抱えてオロオロするばかりの大臣ビーダルだけが後に残された。

いや、その様子を外から眺めていた鳥ポケモンが一羽いる。漆黒の、闇のような翼を持つ者、ヤミカラスであった。

彼は一部始終を見終えると、クックックッと笑い、その場を後に、月の輝く夜空へ飛んでいった。

>>第二話
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