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Pokemon QuestⅢ:砂漠の魔獣2~The Mystic Moonray~⑰ 【2008/04/28 21:34】
第十七話:三日月の化身(中編)
>>はじめから >>前回の話

ンゲがロコンに案内されて辿り着いたのは、赤いレンガで立てられた、洋館のような建物であった。屋根は煤けており、壁も苔むして、たいそう古い感じではあったが、里の端の方に位置するそれは、堂々とした佇まいで、まるでこの里全てを見渡しているように思えた。

「ここが、里長の館です」

ロコンが言う台詞は、ンゲには大体察しがついていた。また、その里長たる者が、いかなるポケモンであるのかも。

ロコンは再び後足だけで立ち上がり、前足で洋館の扉を開くと、ンゲに中に入るよう促した。ンゲはそれに頷き、一歩を踏み出す。彼にはもう、迷いは無かった。確かに、不審な気持ちも無かったわけではない。なぜこのように、自分の知らぬ者たちに、ワシは導かれているのであろうか。考えてもみれば、まだ敵とも味方ともわからぬ者たちだ。ワシはそれに、こう、のこのこと付いてきてしまったのだ。

それも、“三日月の化身”に縁のある者たちだ、預言の力によって誘われていると考えれば、納得もいく気がする。ただそれにつけても、自分の意思とは裏腹に、己の道が定められてしまうというのは、あまり気分の良いものではない。

しかしながら、人生どんなところにチャンスが転がっているやもわからぬのだ。もしかしたらいい結果になるかもしれない、そう思ったら思い切って飛び込んでみるのも一つの決断だと、そうコガラシに教えたのも、ンゲ本人である。そう、彼にとってはこれも自分の下した判断なのだ。ならば、もはや迷うべきものは何も無かった。

ンゲは、洋館の内部へと進み出た。エントランスはちょっとしたホールのようになっており、天井は高く、ユリの花を模ったようなランプが五つも付いた、洒落た感じの照明器具が吊るされていた。光源となっているものは勿論、魔道の力だろうが、それは外の街灯よりも明るく、温かな輝きであった。壁には様々な絵画が飾ってあったが、描かれているのは、ロコンの絵が殆どで、その他は全て静物画である。ロコンの絵画を見ると、そこに描かれているロコンたちは、実に様々な服を着ていた。ンゲをここまで連れてきたロコンが着ているエプロン姿の絵画もあったが、それは一枚だけだ。

そして、描かれているロコンの齢も、実に様々だった。生まれたばかりのロコン、よちよち歩きのロコン、野原を無邪気に駆け回る子どものロコン・・・そして、煌びやかなドレスに身を包み、すっかり大人に成長した様子のロコン。それはまるで、その絵のモデルとなったロコンの成長を、記録としておさめているような気がした。

モデルとなっているのは、ワシをここまで連れてきた、このロコンじゃろうか。ンゲは思ったが、わざわざ本人に尋ねるようなことはなかった。ンゲは、元々寡黙な老人なのである。

「この階段の上が、応接室になっています」

そんな寡黙な相手に対しても、相変わらず元気な声で、ロコンはンゲを案内しようと階段を駆け上がった。それに続いて老人も、緩やかなカーブを描くその階段を登る。上へ辿り着くと、両開きの石の扉が現れた。ロコンは前足で扉を奥に押すと、扉は重々しく、ぎぃぃぃぃっ、という古く軋んだ音を立てて開いた。

そして、扉の向こうでは、幅広のテーブルの奥のソファの上で、ンゲの思った通りのポケモン、キュウコンが、ちょこんと座っていた。

「ようこそ、大魔道士。あたしが、この里の長、メランクサだよ」

砂漠で自分を助けてくれたあの黄金の魔道士を前にして、ンゲは恭しく礼をする。

「お招きいただき、とても光栄です、メランクサ殿。私、名をンゲと申します」

「ははっ、なんだい。そんなに急に改まることないさ。長といっても、単に歳を喰ってるだけのこと。王様ほど偉くはないよ」

相変わらずの口調で、彼女は言う。そして、傍に寄るよう、ンゲを手招きした。

「ささ、手前の椅子に腰掛けるといい。道中、疲れたことだろう。かやめ、お客さんにお茶を出しておやり」

メランクサの言葉にロコンは、かしこまりました、と言うと、扉の外へ駆け出した。石の扉は、開いたままだった。

「・・・おい、かやめ!扉を開けたままだよ!」

しかし、その声は本人には届かない。その状況に、メランクサの前の席に腰掛けようとしていたンゲは、再び立ち上がり、扉を閉めてやった。

「ははっ、可愛い娘じゃないか」

と、顔に僅かばかりの笑みを浮かべ、ンゲは言う。メランクサは苦笑しながら、しかしこう言った。

「かやめは、あたしの娘じゃないよ。ただの使用人さ」

それは、予想外の答えであった。ただの使用人・・・ならば、あのエントランスホールに飾ってあった絵画は?あれらは、あのロコンを描いたものではないのか?

少し疑問は残ったが、ンゲはただ、そうか、と言うに止まった。別に、大した問題ではないだろう。今は、それよりも大事な話がある筈である。

ンゲは、メランクサの前の椅子の上に、ゆったりと腰掛けた。持っていた杖は、横に立てかけて置いた。メランクサは、そんなンゲの動作を、赤く輝く目で見つめていた。その目は、まるでルビーの宝石のような輝きを持っている。見つめ返せば、そこへ吸い込まれてしまうのではないかと思うほど、透き通った美しい目であった。

ンゲは、改めてメランクサの容姿を見た。黄金の輝きを持つその姿は大そう艶やかで、若々しささえ感じられるようであったが、キュコンの毛が黄金ということは、それはそのキュウコンが、かなりの高齢であることを示している。恐らく彼女は、初老である自分よりも、遥かに長い年月をこれまで過ごしてきた筈だ。

彼女であれば、きっと“三日月の化身”以外にも、様々な知識を持っているに違いない。ひょっとしたら、砂漠の魔獣についての情報も、彼女は持っているのかもしれない。いや、そうに違い無い。そんな確信が、ンゲの心の中で芽生えた。

と、メランクサはフッと微笑み、口を開いた。

「あんたには、多くの悩みがあるようだねぇ、大魔道士ンゲ」

ンゲはそう言われて、ハッとし、些か赤面した。まるで、自分の心を読まれたかのようであった。否、読まれているに違いない。なにせ相手は、強い“じんつうりき”の持ち主なのだ。

「まぁまぁ、そう慌てることはないさ。一つ一つ、順を追って説明していこうか・・・大丈夫、時間はたっぷりある」

余裕のある表情でキュウコンは言い、テーブルの下から細長い煙管を取り出し、金色の雁首に丸めた煙草を入れ、指を弾くだけでそれに火をともした。そして、ゆったりと煙草を吸い始める。

ンゲは黙って、その様子を見つめていた。時間はたっぷりある・・・確かに、三日月が昇るまでには、あと一日の猶予があるが、それにしてもくつろぎ過ぎではあるまいか。僅かに憤りも感じずにはいられないような状況ではあったが、彼女が自分から話し始めるまでは、ンゲは何を言うこともできなかった。心が読まれている以上、こちらからは何も訊く必要が無いのだ。

すうっ、と、長い溜息を吐くように、メランクサは煙草の煙を吐き出す。吐いた煙は、バニラのような甘い香りがした。

やがて、応接室の扉が開き、ロコンのかやめが、湯気を湛えたティーポットの乗った盆を持ち、入ってきた。はい、どうぞ。ンゲの前にカップが置かれ、紅茶が注ぎ込まれると、まろやかな香りが広がる。ロコンの毛とそっくりの色をした、オレンジペコーであった。

ありがとう、一言言ってンゲがそれを飲むと、かやめは何やら、緊張した面持ちで、その様子を見守っている。

怪訝な顔をするンゲに、メランクサは言った。

「かやめの紅茶、美味しかったかい?それとも、イマイチかい?」

「・・・あ、あぁ、勿論、美味しいとも・・・」

言うと、かやめはようやく安心して、にっこりとした笑顔を作った。・・・むぅ、若いというよりもこのロコン、少し幼いような印象である。やはり、自分と異なるポケモンの歳を、外見から判断するのは難しいということか。

「メランクサさま、次は何を致しましょうか!?」

と、彼女はとても無邪気な顔で、主人に訊ねた。すると主人は、そうだねぇ、と暫く考えた後、

「そうだ、ピアノを弾いてくれないかい?」

そう言って、部屋の置くに置いてあった、グランドピアノを指し示した。

「ピ、ピアノですかぁ~っ!?そ、そんな・・・お客様の前で、恥ずかしい・・・」

「何言ってるんだい。客がいるからこそ、弾かせるんじゃないかい。ささ、日頃の練習の成果を見せておやり」

かやめを、ピアノの元へ送り出すメランクサ。かやめは、やはり使用人では無く、ただ親からに言いつけられた幼い娘のように、しぶしぶとピアノの前の黒い椅子に腰掛け、ピアノの蓋を開くと、前足を鍵盤の上に置いた。

そして、緊張した面持ちで、すぅっ、と一つ深呼吸をすると、かやめはピアノを弾き始める。ゆったりとしていて、心が澄み渡るような音楽。それは、森の中にある静かな湖の情景を思い起こさせた。

「おぉ・・・これは、これは・・・」

ンゲは、後に続く言葉が無かった。ロコンが、小さな前足を器用に使いながら、ピアノを演奏している風景は、彼にも信じられないものだった。

「・・・勿論あの子は、鍵盤には触れていないよ」

と、その信じられない光景を説明するように、メランクサは言った。

「ロコンの前足でピアノを弾くなんて、無理な話さ。だけど、“じんつうりき”の力を借りれば、何とかなる」

・・・成る程、やはりそういうことか。しかしそれにしても、幼くしてあれほど器用に“じんつうりき”を使いこなせるというのは、充分な凄さを感じられる。かやめの作り出す音は、まるで目に見えない透明な粒となって空中に浮かび上がっては、ぱっと弾けて、きらきらとした輝きをそこらに振りまくようであった。

かやめの音楽が一通り続き、一度転調して、それから再び最初の小節に戻ったころだった。ようやくメランクサは、テーブルの灰皿の上に煙草の灰を落とすと、口を開いた。いつの間にやら、かやめの持ってきたティーポットも、すっかり空になっていた。よほどンゲは、喉が渇いていたのだろう。

「預言の話、魔獣の話・・・色々訊きたいことがあるようだけど、全てを語るには、まず、そうだね。この話から始めようか」

そう言ったメランクサは、何かに思いを馳せるように、天井を仰ぎ見た。それは、大昔の追憶に浸るような、はたまた、小説にあった情景を空想するような様子であった。

「今から何千年も前の話・・・この砂漠は、海に沈んでいた」

かやめの奏でるピアノの音は、ポーンと空中に跳んでは、弾けた。灰皿から昇る煙は、徐々に細くなり、消えていった。中に紅茶の残らないティーポットからは、もう湯気は出ていなかった。長旅の末、大分疲弊した魔道士の体も、本当は早く活動を休め、眠りに落ちることを望んでいたが、しかし彼の意識はそれとは全く正反対に、とても冴え渡っていた。

そして、何百年と生きてきた里の長は、これからこの砂漠の誕生の物語を語り始める。魔道士の中で今、それらの物語を真摯に受け止める体勢が、滞りなく整っていたのであった。


かつて、この砂漠は海に沈んでいた。それは、何百年と生きてきたキュウコンが生まれるよりも、ずっと昔の話、つまり、伝説によるところの話である。

伝説によると、砂漠の誕生には、海底火山の噴火が切欠となったとされているが、もちろんそれは切欠であって、原因と呼べるほどのものではない。海底火山が噴火したところで、島が出来ることすら稀な現象なのだ。ましてや、噴火の一つで海が砂漠と化すことなど、ありえない話であった。

しかし、そのありえない話が現実のものとなった・・・海底火山の噴火を切欠として。もちろん、先程も述べたように、切欠は切欠に過ぎない。原因は、他にあった。

それこそが、魔獣の誕生にあったのだ。

魔獣は、噴火した海底火山より突如生まれ出で、その恐ろしい咆哮によって、辺りの海を一気に干上がらせたのだという。そして、海底に手を突っ込むと、まるでそこから巨大なカブでも引き抜こうとするように地面を盛り上げ、大地を作り上げたのだ。

魔獣によって作り上げられた土地は、しかし直ぐに砂漠と化したわけではない。もともとそこにあった水は、干上がると水蒸気となって空に集まり、巨大な雨雲と化した。そして、集中的な豪雨をそこに降らせると、生まれたばかりの大地を、再び水の中に沈めようとしたのである。

雨は、何日、いや、何年、何十年と、延々降り続いた。魔獣は、折角作り出した大地が再び沈められることに、憤りを覚えた。そして、戦ったのである。前に海を干上がらせたときのような咆哮を、今度は雨雲が覆う天に向かって発すると、雨雲を散らそうとした。雨雲は、直ぐには消えてくれなかった。寧ろ、徐々に膨れ上がっていこうとしているとも思われた。が、魔獣は諦めなかった。雨が何十年と降り続ける中で、魔獣もまた、延々と叫び続けたのであった。

そして、最終的にその戦いに勝利を収めたのは、魔獣である。さんさんと照りつける太陽がようやく天に現れると、雨によって一時潤った大地は、瞬く間に枯れはて、砂漠となっていったのだ。

それが、砂漠が生まれるまでの全ての流れであったが、それらの戦いによって力尽きた魔獣は、とうとう砂漠の中心で、倒れたのだという。

巨大な魔獣の骸は、時を経ると、砂に埋もれ、今は、はるか地中深くに眠っているのだ。

「・・・成る程、古文書にあった通りだな・・・」

ンゲは言った。“大地生まれしとき、それは魔獣が吠えしとき。その咆哮の後、土が地表を覆い、魔獣はその下で長年の眠りへと臥す”・・・。

「まったく・・・信じられないハナシだろう?あたしだって、信じられないさ。そんな伝説上のバケモノが、実在するなんて・・・しかも、一度死んだのに、蘇るだなんてね・・・」

キュウコンは、再び煙管の雁首に煙草を詰め、火を点けると、深く吸った。

「しかし・・・“預言者”は、それを預言したんだ。何百年も前の、あの日・・・」

煙を吐きながら、メランクサは言う。相変わらず、“じんつうりき”で直接心に伝える声で。便利なものだと、ンゲは思った。

「あんた、かやめから聴いたね。“預言者”は、この里に生まれし魔道士であったという話は」

こくりと、ンゲは頷く。キュウコンは、それからまるで、幼馴染の友人について語るように、“預言者”の話を始めた。

「とても・・・頭のいいコだった。そして、魔道士としての素質も高かった。皆の、憧れの的だった・・・」

いや、本当に幼馴染の友人なのかもしれない。メランクサは、再び天井を見た。その思考は、遥か何百年の過去のことを顧みているようである。

「・・・“預言者”はね、預言の力だけじゃあなく、他の魔道士にも無い、とくべつな力を持っていたんだ。わかるね、アンノーンと語る力だ」

成る程。ンゲは思った。“預言者”の作った古文書には、アンノーンが封じ込められていた。そして、里の壁画も・・・あれも、預言者の書いたものだと言われたが、やはり預言には、アンノーンが深く関わっているようだ。

「・・・いや、もっと厳密に言えば、アンノーンこそが“預言者”を生み出したと、そう言ってもいいね・・・」

なんだって?ンゲは、不思議な表情をせざるをえなかった。メランクサの言葉の意味が、直ぐには理解できなかった。アンノーンが“預言者”を生んだ・・・何かの比喩表現だろうか、それとも・・・。

しかし、それ以前に魔道士は、アンノーンというポケモン自体について、まだ知識が浅かった。それを酌んだメランクサは、まずその話から始めることにした。

「アンノーンは、この世界の開闢以来からずっと存在し続けているポケモンさ。その生態については、あたしたちも詳しいことはわからない。けれど言えるのは、彼らが、あたしが生まれるよりも、もっともっと前、開闢(かいびゃく)の頃に誕生し、神々の戦いを傍観してきて、それを今に伝えているということだ」

「神々の戦いを・・・傍観?」

思わず、ンゲも声を漏らす。メランクサは頷き、煙管を口に銜えた。

「さっき話した、この砂漠の誕生にまつわる伝説も、なにも妙な宗教家がでっちあげた作り話ってワケじゃない。全て、アンノーンたちが伝えてきたものなのさ。そして、“預言者”が古文書に記した、“大地生まれしとき・・・”から始まる言葉も、それは唯一、あのコの預言じゃない、アンノーンが伝えてくれた昔話のようなんだよ・・・」

メランクサの話を、全て真摯に受け止めるつもりだったンゲも、あまりに信じがたい事実に、うろたえざるを得なかった。開闢以来より生き続けるポケモン、アンノーン・・・そして、彼らの言葉を理解し、伝えたという預言者。これまで長く生き続けてきたと自分では思っていた魔道士であったが、まだまだ世界には、自分が知らないことが多いのだということを知った。やはり世界にとっては、自分ひとりの存在など、ちっぽけなチリの一つに過ぎないのだと、そう痛感せずにはいられなかった。

「・・・そしてあのコは、アンノーンたちと語っていくうちに、妙なことを口走るようになったんだ。最初は、誰もそれが預言であるとは思わなかった。アンノーンとばっかり話していて、とうとうアタマがおかしくなったんじゃないかとも思われていた・・・でも結局は、あれがあのコの発した、最初の預言だったってわけだ」

煙を吐きながら、メランクサは再び、“預言者”の話に戻った。やはり、昔を懐かしむような、そんな語り口調である。

「・・・“土の上に生まれたある一国の王が死すとき、土の上は混沌が支配する。そのとき再び魔獣目覚め、土を枯らし、世界は砂漠と化すなり”、か・・・?」

話が前後し、ややついていけなくなりそうになるンゲ。かやめの音楽も、いつの間にやらアレグロテンポの曲に変わっていた。相変わらず冷静なのは、煙草を嗜むメランクサだけのようである。

「・・・最初は、そんな具体的な預言じゃなかったよ。もっと漠然としたものさ・・・“世界が砂に沈む”。ただ、それだけさね。知っているだろう?あのコの預言は、少しずつ、少しずつ具体化されていくんだ。まるで、物語でも描くようにさ。少しずつ、少しずつ、構築されていく・・・いつも、そんな具合だったね。そして、預言の更新が行なわれるのは、なぜか決まって、月に一度、三日月の晩・・・」

だがそんなメランクサも、灰を落とすと、煙管をテーブルの上に置いた。ようやく吸い飽きたのか、それとも、それが次の展開へと移る合図のようであった。

「・・・どうして三日月の晩なのか、わかるかい?」

彼女は尋ねる。それは、“預言者”が“三日月の化身”だからではないのか?とンゲは思ったが、その理由までは考えなかった。何も答えられないでいると、メランクサは続けた。

「あたしがさっきも言ったろう・・・“預言者”は、最初から“預言者”だったわけじゃない。そして、“三日月の化身”と呼ばれるようになったのも、ずっと後のハナシさ。あのコは、生まれてから成長する間は、あたしたちと同じ、普通の魔道士だった。そして生涯、そのまんま生きていく筈だったんだ」

アンノーンが、“預言者”を生んだ・・・その言葉の意味を、メランクサは今、解き明かす。

「あのコは、一度死んだんだ。そして、生まれ変わったんだよ、“預言者”として、そして“三日月の化身”として、ね」

「一度・・・死んだ・・・?」

ポケモンが、一度死んで、別のかたちとなって生まれ変わった・・・つまりは、そういうことなのだろうか。いったい、なぜそのようなことが・・・?

「一つには、アンノーンの力だと言われている・・・アンノーンが、“預言者”として、あのコの魂を借りたんだ。勿論、実際アンノーンにそんな力があるのかはわからない。ただ、あたしたち魔道士が考えた可能性の一つを言っているに過ぎないよ」

そして、もう一つの可能性は・・・。言いかけて、彼女は一呼吸置いた。かやめは相変わらず、跳ねるような調子の曲を演奏していた。

「“月”の力さね」

・・・成る程、だから“月の化身”というわけか。ンゲは理解した。月には、不可思議な力が宿されていると考えられている。ポケモンには、月の光を浴びて体の傷を癒す者や、また、その力によって進化する者もいる。中には、そこから生まれ出でたポケモンもいるぐらいだ。ならば、一度死んだポケモンが、月の力によって、また別の姿の生き物へと形を変えることがあっても、何ら疑問ではない。

どちらの説も、なるほどと思えた。しかし今重要なのは、どちらが正しいかということではない。重要なのは、“月の化身”が、一体何者であるのかということであった。けれども、それに関しては、メランクサはこう言った。

「あのコが何者なのか・・・それは、あたしにすら答えられない疑問さね。生きている頃はまだ、あたしのよく知るコだった・・・。今、あのコがどういった理由で“月の化身”なんかになったのか、そして、どんな意志を持っているのかもわからない。ただ、月に一度預言を行なうだけ・・・ただそれだけの、機械のような存在になってしまったのさ」

・・・では、いったいどうして、その魔道士は死んだのじゃ?ンゲはそう訊ねようとしたが、そうすると、彼女は首を横に振った。なんとなく、質問を拒まれているように感じ、彼はなにも言えなかった。

「・・・ただ、言えるのは、あのコの預言が、真実であるということだ」

メランクサが、口を開く。その表情は、先程までの落ち着いた表情とは打って変わって、真剣であった。ピアノの音が、ディミヌエンドしていく。

「そして、あたしら里の魔道士は、その預言を追い求める者を導くことが、目的なんだよ。あんたのように、古文書によって選ばれた魔道士をね」

“古文書自体が、貴殿を待っていたのだ。今こそ予言が必要だというとき、そのときにあの古文書は、自分から貴殿のもとへ、現れたのだ”――今、魔道士の頭の中に蘇ったのは、ブーバー王の言葉であった。やはり、王のあの台詞は、真実であったのかと、ンゲは思った。

演奏を終えたかやめが、ピアノから立ち上がった。そして、緊張した表情のまま、メランクサに顔を向ける。それを振り返り見た主人は、両前足を高く上げて、拍手するようにパンパンと叩いてみせた。

「いい演奏だったよ、かやめ。大分上達したじゃないか」

言うと、使用人は糸が解けたような安心した表情になり、それからニッコリと微笑んだ。

「・・・お茶、また淹れてきますね」

かやめは、そしてふたりの元へ来ると、ンゲの前の空のティーポットを盆の上に置き、言った。

「あぁ、新しい客人の分も頼むよ」

と、メランクサは戸口を見ながら言う。魔道士も思わず後ろを振り返ると、いつの間にか開いていた石の扉の向こうには、新たな魔道士たちが立っている。

「長様、大変お待たせいたしました。そして大魔道士さま、お会いできて光栄です」

そこにいたのは、サーナイトと、それに寄り添うようにして立つ幼いキルリアだった。

「デイジー、お勤め、ご苦労だったね。そしてパミーも、相変わらず元気そうで、何よりだ」

「おヌシらは・・・里の魔道士たちか?」

はい、その通りでございます。礼儀正しく、サーナイトは答える。

「デイジーと、その娘のパミーだ。あんたを里へ連れてくる前から、ここへ来るよう、呼んでいたんだよ」

一体、どういう者たちなのだろう。それを問おうとすると、サーナイト本人から紹介があった。

「大魔道士様の滞在の間、我々がお世話をさせていただきます。大分、お疲れのことでしょう。私たちの家で充分お休みを取っていただき、明日の晩、我々が大魔道士様を、“預言者”様の元までご案内させていただきます」

・・・成る程、導く、というのはそういうことか。

「しかし・・・それは、かたじけない話じゃの。ワシのようなおいぼれが、わざわざ厄介をかけさせてもらえるとは」

「何をおっしゃいます!あなた様の名は、この里でも、偉大なるお方として轟いております。そんな方をお世話させていただけるなんて、我々にとっても大変名誉なことです」

ンゲの台詞に、サーナイトのデイジーは、にこやかに答える。その裾のところで、娘のキルリア、パミーは、何だか人見知りするように、もじもじとしている。しかし母親に、さぁパミー、あなたもご挨拶なさい、と言われると、彼女もンゲに向かって、スッと手を差し出した。

「おぉ、おぉ、可愛い子じゃの・・・」

ンゲも穏やかな表情になり、その手を握り返す。だがその瞬間、パミーの表情が突然、何か深い悲しみに包まれたように変化した。ンゲが何事かと思ってその手を離すと、彼女はいきなり、魂が抜けたように、その場に崩れ落ちた。

「・・・パミー!?いったい、どうしたの、パミー!?」

母親は、慌てて娘の体を支えた。突然の出来事に、ンゲも何が何やらわからない。そして、先程お茶を淹れに部屋を出ていたかやめも、戻ってくるや否や、その状況に驚いて、盆を落としてしまった。カップやティーポットが割れなかったのは幸い、熱い紅茶が盆の中に少し零れ、湯気を立てた。

「慌てなさんな、大したことじゃない。気絶しただけだよ」

その状況下においても、冷静なのはメランクサである。

「・・・い、一体、何が起きたんじゃ?ワシが、何かマズイことでも・・・」

恐らくは、騒ぎを起こした当人であろうンゲは、当惑の表情を浮かべてメランクサを見る。彼女は、しかし彼を咎めるような顔はしていなかった。相変わらずの冷静な顔で、こう答える。

「あんたは別に、何もしていない。・・・でも、マズいには、マズいね。理由は、自分で考えるんだ」

そして、再三煙管に煙草を詰め、火を点けて銜えると、こう言ったのだった。

「預言を追い求める者を導くのは、あたしら里の魔道士の仕事・・・だけど、あんたの迷える心は、自分自身で導かなくっちゃならないね」

>>第十八話
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