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Pokemon QuestⅢ:砂漠の魔獣2~The Mystic Moonray~⑦ 【2008/01/07 00:00】
第七話:予感
>>はじめから >>前回の話

暗く寒い砂漠の中を、杖を片手にひとりの老人が歩いていた。

ぱっと見た感じでは浮浪者と勘違いしてしまいそうだが、よくよく見れば、それは物凄い力を秘めた魔道士であることがよくわかる。その湧き立つオーラから、威厳に満ちたその表情から。

しかしその力も、いつもの彼からしてみれば幾分衰えているような印象を受ける。普段はカンテラよりも眩い光を放つ魔法の杖も、今は何の輝きもなく、ただの杖と化している。魔力の温存のためもあるのだろうが、それは非常に寂しげな様子であった。彼を照らすのは空の星々と、今夜より新しく生まれ出でた細い月のみだ。そして風は、無慈悲にも、孤独な彼の心を凍えさせるかのように、冷たく吹きすさぶ。

「ああ、あの子がついていてくれたらなあ」

ふとそんな言葉を呟き、彼は苦笑した。それは、嘗て彼が読んだある物語からの引用だった。年老いたゴーリキーの猟師が、たったひとりで漁に出かけ、巨大なハンテールを釣り上げる話だ。四日にわたる死闘の末に彼はそのハンテールを仕留めるのだが、それまでの間、彼は何度も嘗ての猟師仲間であるワンリキー少年のことを思い出す――少年は老人のことが好きだったが、老人の不漁が続くので、親の言いつけで別のボートに乗り込むようになってしまったのだった。

ああ、あの子がいたらなあ。そんな台詞を吐きながらも老人は奮闘するが、今砂漠を歩くこの老人は、自分もそれと同じであるように思えたのだった。・・・いや、なにを馬鹿な。自分は今、好きでたったひとり歩いているんじゃないか。その気になれば、いつでもあの子の元へ・・・コガラシの元へ、飛んでいけるものを。

しかし、ついつい先程のような独り言を言ってしてしまうのも、自分が年をとったためであろう。やぁ、ワシはもう年をとった。いくら強い魔道士とはいえ、心までは強く持てない。いや、だからこそ世の数多の事物に、冷静な判断をもって挑んでいけるんじゃないか。・・・いや、まぁそんなことはどうでもいい。今はただ、前に進むだけだ。何も余計なことは考えなくていい。

そのとき、砂漠一面に、獣の彷徨のような声が響き渡った。

否、実際にはその声は誰の耳にも届かなかった。この魔道士のように、とくべつ感覚の優れている者だけが聞くことのできる声だ。それは、地獄の奥底から響いてくるような、恐ろしい声だった。

「魔獣め・・・」

彼は呟いた。時間が無い。敵は、今にも目覚めようとしている。彼はそれを悟ったのだった。

「貴様は、全てを滅ぼすつもりでいるに違いない・・・この混沌の砂漠を、まるで神の裁きの如き力で、まっさらな状態に戻す気でいるに違いない。しかしな、この砂漠の民は、貴様なんぞに滅ぼされていいような邪悪な存在ではないのだ。ただ寂しいだけの存在よ・・・孤独で、不器用で。ただそれだけの存在よ。ただそれだけなのに、貴様なんぞに滅ぼされる筋合いは何も無いのだ」

魔道士は深い憤りを込め、そう独り言つ。そして、こう続ける。

「・・・負けるものか、貴様なんぞに。ワシらは、負けるように造られてはいないんだ」

その目の中には、闘志の炎が強く燃えていた。


時を同じくして、魔道士がいる場所よりもはるか遠くの地にある、キノガッサ王の治めるオアシスの大国では、ある一匹の負傷したサンドパンが、何かの悪夢にうなされでもしているように、小さな診療所の一室にあるベッドの上で暴れていた。

シーツは引き裂かれ、ベッドの傍に位置していた窓のカーテンもボロボロとなり、窓ガラスにもヒビが入っている。挙句の果てには、起きた時にいつでも食べられるよう用意してあった枕もとの食事も、盆ごとひっくり返され、無残な汚れを部屋の床に残していた。

医者のニューラ、レオナは、その患者を必死に押さえつけて、止めようとしていた。

「・・・お願い、もう暴れないで!大丈夫だから・・・何も怖くないから!しっかりしてぇっ!!」

サンドパンの言葉にならない叫び声に、彼女の悲痛な声が重なる。直後、その部屋に、先程帰ったばかりの行商のニャースとヤミカラスが駆けつけてきた。

「・・・こ、これは一体・・・どういうことでござんす!?」

「・・・し、知るかそんなん!兎も角、はよう鎮めたらんとヤバイで!」

ニャース、キホーテは、すぐさまレオナに加勢するよう、ベッドへ向かった。しかし彼女が近付くと、サンドパンは手を一振り、彼女を弾き飛ばし、部屋の壁に叩きつけた。

「・・・キホーテさん!?」

ヤミカラス、コガラシは、慌てて彼女の元へ駆け寄る。彼女の口から、つーっと血が滴るのが見えた。

「だっ、大丈夫でござんすか!?」

「・・・っつう。あぁ、大丈夫や、唯ちょっと唇切ってもうただけや・・・それより、はようアイツを止めな・・・!」

と、そこへ、ハピナスのナースが大きな注射器を持ち、駆けつけてきた。

「・・・はいっ、そこの患者さん!お注射の時間ですよっ!」

その姿は、今その部屋にいる誰よりも逞しく見えた。彼女はサンドパンの元へずんずん歩いていくと、その手に間髪入れず、ぶっすりと太い針の注射を打ち込んだ。患者は一瞬、ビクンと大きく体を震わせたが、その後はまるで、風船の空気が抜けるようにとでも形容すべきか、体をベッドの中に沈みこませ、先程まで暴れていたのが嘘のように、ぐったりと眠り始めた。

「・・・精神安定剤を投与しました。効果が切れるまでの間なら、暫くは安静だと思いますが・・・」

「・・・それでいいですわ。ありがとう、ナースさん・・・」

はぁはぁと、荒い息をしながら、レオナは言った。取り敢えず何とか立ち上がり、身に着けていた白衣のヨレをパンパンと払って元に戻す。後から、トレイと雑巾を頭に乗せて、レダが部屋に入ってきた。

「あら、レダ様、ありがとう」

ナースはそう言ってトレイの上に注射器を置き、雑巾を受け取ると、床に零れた食事を片付け始めた。取り敢えずはこれにて、騒ぎは収まったようであった。

レオナは、哀しげな眼差しでベッドの中のサンドパンを見つめていた。そこへ、何とか壁から立ち上がったキホーテと、コガラシが歩み寄る。

「・・・一体、どないしたんや、コイツ・・・」

「・・・わかりませんわ。私が帰ったあと、暫くは今朝と同じように眠っていらしたのに・・・つい先程でしょうか、いきなり暴れ始めなさって」

「原因不明、でござんすか・・・」

掃除を終えたナースと、レダが、一旦部屋から出て行き、ガチャンと部屋の扉が閉まった。カーテンが無くなりヒビの入った部屋の窓からは、美しい星々と、細い月の輝きが見えた。

「・・・原因はわかりませんけれど・・・あたし、知っていますわ。前にもこんなことが・・・」

と、レオナはふとそう言いかけたが、やめた。キホーテは怪訝な表情になり、口を開く。

「前にもって・・・コイツが、前にも暴れたん言うんか?」

「・・・いえ、そういうわけじゃありませんの・・・ごめんなさい、今のはお忘れになって」

そう言われるとますます不思議だったが、キホーテは、それ以上は何も訊こうとはしなかった。やがて、再び部屋の扉が開いて、ナースとレダが顔を覗かせた。

「キホーテさん、コガラシさん。夕食の準備が出来ています。先に、お召し上がりになってください」

「おぉ、おおきに。ほな、コガラシ、行こうか」

コガラシはまだ腑に落ちない顔をしていたが、そう声をかけられ、一先ずレオナの傍から離れた。ふたりは、先に部屋から出、階下へと降りていった。後から、扉を開けたまま、ナースが入ってきて、レオナの背中を見つめた。

独り言のように、レオナは呟く。

「・・・何もかも、そっくりなのね・・・あの方と」

「・・・先生、取り敢えず先生もお食事になってください。患者の面倒は、私が看ますから」

しかし、レオナは首を横に振った。まるで、数年前に戻っているようだと、ナースは感じた。

「・・・わかりました、先生。それでは、私がお先に・・・」

そう言って、ナースは部屋を出、扉を閉めた。部屋には、こんこんと眠り続けるサンドパンと、レオナが残された。

レオナは足を折って跪くような姿勢を取ると、ベッドに手を置き、じっと患者の顔を見つめていた。

その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「今晩は、診療所に泊まることにします」

食器の片付けをしながら、ナースは笑ってそう言った。食後、食卓でそのまま新聞を読んでいたキホーテは、一度顔を上げると、口を開きこう尋ねた。

「ホンマか?じぶん・・・家族は大丈夫なんか?」

「えぇ、一応幼い娘がいますけれど、さっきちゃんとベビーシッターを送りましたから。それに、月にニ度、三度くらいは、こうした夜勤をしなければなりませんし」

「さよか」

「わぁい、お泊りだね!おっとまりぃー♪」

食後のケーキのクリームを口の端に付けたまま、レダが楽しげにそう言った。しかしキホーテは、納得したような返事をし、新聞に目を戻しながらも、何やら腑に落ちない様子であった。どうもこいつら、今晩は変や。サンドパンが暴れ出したこと自体も問題やが、それに関してか、何か言われへんような事情がありそうや・・・。

しかしそれに気付いたからといって、キホーテは一々訊ねようという気にはならなかった。何にでも秘密としておくべきことはあるものだ。無理矢理訊いて、お互い嫌な思いをするようなことがあってはいけない。そうしたことは、行商として経験を積んできた中で、重々承知している。そのつもりだった。

新聞には、昨日の戦争で、“いわポケモン”の王国が“ほのおポケモン”の王国に敗れた、というようなことが書かれてあった。それから、新しいどうぐの開発などを報ずるような記事がいくつかあったが、どれも重要そうなものは無いように思われた。何も肝心なことは書かれていない。新聞とは、まぁそういうものだ。

「死に掛けの兵士って・・・一体、何考えとんのやろうな?」

と、新聞に顔を向けたまま、キホーテは言った。それに、後片付けの手を止めるナース、まだ食事が済んでいないコガラシと、今ようやくケーキのクリームを全て嘗め尽くしたレダが、顔を向ける。

「・・・ワイも、実は全然知らんわけやないんや。昔、誰かに聞かされたことがある。確か、前の戦争のときやったろうか・・・死に掛けの兵士の中には、突然診療所の中で暴れ出すもんがおると・・・」

「キ、キホーテさん、それって・・・?」

コガラシの表情は、みるみる不安の色に染まっていった。レダは、ただきょとんとしている。ナースはまだ黙ったままで、磨き終えていない皿を、一度流し台の上に置いた。

「負傷した兵士の中にはな、誰でもというわけやないが、決まってなんにんかは突然暴れ出すもんがおるらしい。それも、皆で一斉に・・・。そうなると、いくら押さえつけて鎮めようとしても無駄や。誰が止めようとしても、見境無く暴れるんやって。名前呼んでも、気付かへんのやと・・・なしてそないなことが起こるんか、原因は全くもって不明や。噂によると、迫り来る死への恐怖がそうさせるのだとか、或いは、彼らにだけ聴こえてきた地獄からの声に反応して、パニックに陥るからやとも・・・。しかし確実に言えるんはな、そのような症状が現れたもんは、確実に死に至る、ということや」

コガラシは、さじを置いた。レダも、もはやあっけらかんとした表情はしていなかった。今にも泣き出しそうな、そんな様子だ。そしてキホーテも、新聞を閉じ、ナースに目を向けた。

「・・・なぁ、隠してへんで教えてほしいんや。つまり、そういうことなんやろ・・・あいつは、あのサンドパンの兵士の身に起こったんは、そうした死の前触れなんやろう?」

「・・・し、死ぬの!?兵士のお兄ちゃん、死んじゃうの!?」

まるで悲鳴を上げるように、レダはそう言った。コガラシは、単にパクパクと口を動かしているだけで、声にはならなかった。

「・・・落ち着いてください!」

しかし、キッと強い視線を返し、ナースはそう叫んだ。その鋭さに、キホーテも、レダも一旦、口を閉じた。

「・・・確かに、最初に見たときは、私もそれも思いました・・・けれど、我々は、あの方をお助けします!必ず命を救ってみせます!」

力強く、ナースは言った。

けれど。

そんな彼女の目にも微かに涙が浮かんでいたことは、彼女の目の前のさんにんには気付いたことであった。

・・・やはり、そういうことか。キホーテは椅子の中に身を沈めた。結局は、ただの気休めか。暗い表情をしながら、彼女は溜息を吐いた。

「・・・ええよ、そんなに無理せんでも」

そして、彼女は呟くように、そう言ったのだった。

「あいつは、元々ただの死に掛けやった。それを、たまたま通りがかったコガラシと、それからワイらが、折角やから助けたろうと思って、ここまで運んできただけや。・・・まぁ、そのときどきにトラブルに巻き込まれて、そのときたまたま目覚めたあいつに、助けられたこともあった・・・ほんと、ワイらにとって、あいつはもう立派な仲間や言うても、おかしくないやろうな。せやけど、それが今助からへん言うんなら・・・もう無理せんでえぇ。レオナにもナースにも、迷惑かけっぱなしやからな・・・」

「キホーテさん・・・?」

コガラシは、そう言ったキホーテを向き、鋭い表情を投げかけた。何て酷いことを言うんでござんすか!そう言おうとした。しかし、できなかった。状況は複雑である。もう死が確実であるという患者を、どうやって助けろと言えるのか。

「・・・いえ、お願いです・・・信じてください!」

が、ナースが再び力強い声で、そう言った。お願いです、と言った。その言葉には、キホーテの知らない、これまで看護婦と医者として働いてきた彼女たちだけにとっての、深い意味が込められていた。

「どうか、私たちにあの兵士さんを助けさせてください・・・もう、死なせるわけにはいかないんです!もう先生の前で、こんな哀しい犠牲者を作るわけにはいかないんです!」

ナースの脳裏には今、先程サンドパンの部屋に立っていたレオナの後姿が浮かんでいた。その震える方が、壊れてしまいそうな小さな体が。

今でも彼女は、泣いているのだろうか。今晩の細い月のようなきらきらした儚い涙を、また流しているのではないだろうか。

そして、ナースが手に持つ布巾にも、今、涙の染みは広がっていた。

>>第八話
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