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Pokemon QuestⅢ:砂漠の魔獣2~The Mystic Moonray~⑫ 【2008/02/04 21:40】
第十ニ話:隻眼の右大臣(前編)
>>はじめから >>前回の話

目の前に高く聳える城壁を睨みながら、溜息を吐く一匹の若きマグマラシの姿があった。今、めらめらと燃える炎の鬣の美しい、立派なギャロップに跨った、凛々しい顔の彼こそは、ブーバー王の治める国の軍、第二番隊の若き隊長、アッシュである。

いや、少し詳細しておく必要があろう。彼の守る国の王は、つい昨日の晩、ブーバー王から、その兄君であるゴウカザル王に代替わりしたのであった。それについては、自国民へも発表されていないばかりか、城における新国王就任式も未だ執り行なわれてはいないのだが。つまり、アッシュの国は今のところ、表向きにはブーバー王の国、実際のところはゴウカザル王の国と、なんともややこしい状況にあったのだった。

しかし、今彼が溜息を吐いたのは、当然のことながら、そんな自国の置かれている微妙な立場を憂いてのことではない。彼が溜息を吐く理由は、その目の前にあった。

その城壁の内にあるのは、ブニャット王の治める国。前王ブーバーを死に追いやった、憎きカタキであった。その国に、昨日昼頃、ポケ質(ぽけじち)を取ったこと、そしてその解放を望むのならば、賠償金と謝罪を求めるということ、そして、請求が聞き入れられない場合は、その翌日である今日に、軍事制裁を行なう覚悟でいることまでを書き記した書状を突きつけたものの、今朝昇った太陽が西へ傾きかける今の今まで、返事は一切無いままだ。

それならば、有言実行あるのみと、こうやってギャロップに跨り、軍を率いてきたのであるが、国の正門は硬く閉ざされていた。どうやら、抵抗する気ではいるらしい。それを見受け、アッシュは先程溜息を吐いたのであった。それは憂いを表すのではない。呆れた溜息というか、寧ろ怒りを表しているのに近かった。

「大砲を用意しろ!」

アッシュは、軍にそう命令を下した。事を起こす前に、一度は相手国の弁明も聞き入れるべしという、一番隊の老隊長リジィからの指示も受けてはいたが、アッシュはそのような暢気な思考は持ち合わせてはいなかった。返事無き者に対しては、寧ろそれこそ宣戦布告の態度であると見なすべし。敵には常に、攻めの姿勢で挑め。それこそがアッシュの、そしてこの二番隊の精神である。

「・・・お待ちください、隊長!」

しかし、後衛の騎馬隊が牽いて来た、恐ろしく巨大な大砲が、ガラガラと軍の先頭で構えられ、いざ打ち込まれようとする直前、軍のマグマラシのひとりがそう言って、場の流れを止めた。一体何事かと、隊長は発言した兵士をギロリと睨みつけるが、兵士はそれに怯えたような顔をしながらも言葉を続けた。

「門が・・・門が今、開こうとしております!」

「・・・ナニッ!?」

見ると、その兵士の言うとおり、先程まで硬く閉ざされていた王国の門が、ごごごごごっ、というけたたましい音を立てながら、左右に開いていった。

そしてその門の先に、一匹のポケモンが姿を現す。周りに何匹かの鎧を着た兵隊、ヤルキモノたちを従えつつも、自分は殆ど丸腰の格好で現れた彼は、左目を貝殻の眼帯で覆ったニャルマーである。

「おやおや、これはこれはブーバー王が国の軍隊さま。このように大砲を携えてお越しになるとは、些か物騒なことにございまするなぁ・・・」

ニャルマーは顔に笑みを浮かべながら、そのような台詞を吐いた。

「貴様・・・何者だ。名を名乗れ!」

そのニヤニヤ笑いを不愉快に思ったアッシュはそう叫んだが、相手の返答はこうである。

「名を名乗るのは、あなた方来客者の方からでございましょう?全く、近頃の子どもは、そのような躾もなっていないのでございまするや・・・?」

「・・・こっ、子どもだと!?貴様・・・このブーバー王の国第二番隊隊長、アッシュに向かって何たる侮辱か!?」

が、背中から勢い良く炎を噴射させつつ、そう叫ぶアッシュに向かって、隻眼のニャルマーは尚も涼しげな表情である。

「・・・おやおや、そちらが隊長殿でございましたか。ご無礼をお許しくださいませ・・・なにせ、隊長殿のお姿、私の目からは幾分幼くお見受けられましたので・・・」

・・・馬鹿にしおって!アッシュは今にでも、この無礼なニャルマーに対して発砲命令を下そうかとするところであった。

しかし何とか自分の前足で胸を締め付けつつ、感情を押さえ込もうとする。ドクン、ドクン。自分の体内で煮えたぎる怒りが、文字通り、手に取るようにわかる。冷静であれ、アッシュ。お前が感情に身を任せすぎると、ろくなことにはならないであろう。しっかりしろ、隊長。自分にそう言い聞かせると、やがて背中の炎も大人しく萎んでいった。

そんなアッシュの感情を弄び、楽しんでいるかのように、ニャルマーはまた笑みを浮かべながら、言葉を続けた。

「・・・いやぁ、失敬、失敬。私の紹介でございましたなぁ。私め、このブニャット王が国の右大臣を務める者にございます。名を、サラディンと申します。何卒、お見知りおきのほど」

右大臣・・・それを聞くと、アッシュは何やら納得したような表情になった。噂には聞いていた・・・ブニャット王が国の右大臣、サラディン。あいつはなかなか食えぬやつだ、気をつけるべし、と。

「・・・そうでございましたか。こちらこそ、ご無礼の程、申し訳ございません」

心にも思ってはいないことだったが、アッシュはそう口にする。敵が大物であれば、こちらも慎重に動かねばならない。

「では、右大臣殿。貴殿なれば、我々がどのような用件で貴国にまかり越してきたのか、説明せずともご理解戴いておることでしょうな?」

そして、少し押しの強い声でそう続けたが、サラディンは依然として平然な顔をしている。まるで目の前に置かれた大砲には、弾なんぞ込められてはいないと疑ってやまぬかのようである。

「昨日の書状についてですな・・・我々に賠償金を請求するとのお申し出でございまするが、些か、疑問に感じることがございまして・・・」

右大臣の台詞に、アッシュは目を吊り上げた。

「・・・何がです?」

「つまり、我が国の間者(かんじゃ)が、誤って目標ではないブーバー王を襲ってしまったということ、大変遺憾に思っているのは正直な気持ちでございまするが、それに対する請求額としては、あの賠償金はあまりに高額であるように思いまして」

「・・・高額であることはないでしょう。貴殿らは、それに見合った大それた過ちを犯したのです」

が、右大臣サラディンはまだいちゃもんをつけるような目つきでこう言った。

「いえ、ただ王を傷つけてしまったというだけで、1,320億ポケとおっしゃるのでございましょう?これはまるで、国一国を滅ぼしたかのような額ではございませぬか。王に回復の見込みがあるというのにこの額とは、やはり高額であるように思われます」

そして、こう付け足した。

「もっとも、王に回復の見込みが無いか、或いは既にお亡くなりになられたということであれば、また話は別でしょうが・・・」

「・・・何を馬鹿なことを!?」

アッシュは、ついそう声を荒げて返答してしまったことを、しまったと思った。ブーバー王がご逝去なされたことは、まだどこにも漏らしてはならない秘密事項である。滅多な態度を取って、怪しまれるようなことがあってはならない。

が、相手はそんなアッシュの態度を見て、それをこそ待ちわびていたというような表情をしていた。・・・くそっ、まんまとやつの策にはまってしまったということか!?

「・・・帰るぞ、皆の衆」

突然、アッシュ軍にそう命じると、手綱を引き、踵を返した。

「・・・おやおや、賠償金のことはもう宜しいのでございまするか?」

サラディンはそう言う。しかし、アッシュにはこれ以上踏み込むことはできなかった。逆上して大砲を放つ、ということもできたろうが、そうなっては益々不審な動きを見せてしまったことになる。攻めの姿勢でいることと逆上することは違うのだ。

「貴殿らには、これ以上期待はかけられないということです。賠償金を請求する価値も無い・・・ただし今後一切、我々と貴殿らの友好関係は断ち切られたということをご覚悟なさい!」

「そんな・・・さすれば、ポケ質はどうなるのですか?即刻処刑ですかな?なんと非人道的な・・・」

と、ポケ質のことなど本当はどうでもよいような口調でサラディンは返す。それは最初から意味など無かったのだ。どうせ、ただの捨て駒に過ぎなかったのだろう。

アッシュの第二番隊は、構えていた大砲の向きをいそいそと逆にすると、帰路を向いた。そんな彼らの背後から、右大臣サラディンは思い出したように、また台詞を吐いた。

「そうそう、東のニドキング王が国と、西のボスゴドラ王が国に、近頃何やら不審な動きが見られるようでございまする。貴殿らも、どうぞご用心くださいませ」

・・・こいつ、まだ何か企んでいるのか!?

しかし、それに深い意味があるのか、それともただのハッタリに過ぎぬのか、真相の程を聞くには至らなかった。今日の一件が戦だったとすれば、我々は既に負けているのだ。

帰り道、兵士のひとりが尋ねてきた。あんな無礼な輩、一思いに襲ってしまえばよかったものの・・・どうしてそれを命じられなかったのか、と。それに対して、アッシュは何も答えることはできなかった。

・・・一つの国を滅ぼすのは容易い。だが今は、その他どこに敵が潜んでいるかわからない。己が周りは全て敵であることを知るべし。それまで見越して、行動していかねばならぬ・・・それが、軍を率いるものの務めなのだ。これはもう10年も前、まだアッシュが見習い少年兵士としていた頃、一番隊隊長のリジィが、当時から隊長を志していたアッシュに教えてくれたことだった。

それが今になって、こうも胸に響いてくるとは。

「・・・ちくしょう!私は隊長失格だ!!」

アッシュは、心の底から湧きあがる涙とともに、そう叫んだ。

そして、彼が跨るギャロップも、その声を聞くや、切なげにヒヒヒンと鳴いたのであった。


「お疲れ様でございます、右大臣様!!」

城の正門をくぐり、庭を横切る右大臣ニャルマー。彼が通るたび、そこで働く庭師のサボネアたちが次々と、そう言って恭しく頭を下げていく。しかし彼、サラディンに、そういった者ひとりひとりに挨拶を返そうとするような元気は無かった。その表情は苦しげで、いつもの涼しげな顔の右大臣とは思えないような雰囲気である。くるくると螺旋状に伸びた尻尾も、今やだらりと力なく伸びている様子だ。

けれど、彼の後ろに従う兵隊らは、そんな右大臣の様子を知りながら、何も気遣うような言葉をかけることはない。それどころか、彼らは少し遠慮がちに、右大臣から離れた位置で仕えるようにしていた。彼がこんな様子のときに下手に近付いてはマズイということを、兵隊たちはしっかり心得ていたのである。

やがて城の玄関口まで差し掛かると、右大臣はそこで、兵隊らに役目を終わらせた。そして、ひとり城の中へと消えていく右大臣。それを見送った後、兵隊のヤルキモノたちはひそひそと語り始める。

・・・今日の右大臣様、やけにお疲れのご様子だったな。流石の「ねこかぶりポケモン」たる右大臣様も、やはり大分無理をしておられたのだ。なにせ国の興亡に関わる大事・・・あの大砲を前にしたときは、俺も肝を潰したわ!しかし、あの大物アッシュにあそこまで冷静に振舞われるとは、やはり右大臣様、恐るべしだな。・・・けれど、結局ポケ質は見捨てることになってしまったようだぞ?いや、それはいたし方無かろう、スパイひとりの命よりも、国の平和の方が大事である筈だ。・・・確かにそれもそうだけどよ、でも、少しぐらい助け出す道を考えてくれたって良かったんじゃねぇのか?・・・まぁ、何にせよ、あの方は血の通わぬお方だ。期待するだけ損だということだ。

従者たちがそのように語るのを知ってか知らずか、いや、例え知っていたとしても大して気にも止めなかったろうが、右大臣サラディンは疲れた顔のまま、城の中を進んでいった。

と、前方の廊下の端のほうに、左大臣ビーダルの姿が見えた。周りに侍女のオタチらをはべらせて、何やら会話を楽しんでいる様子である。サラディンはそれを無視して進もうとしたが、左大臣の方が彼に気付くと、だばだばと歩み寄って声をかけてきた。

「やぁやぁ右大臣殿、大儀であったな!これでこの国は、暫く平和であるぞ!」

・・・平和なのはお前の頭の中だけだろうが。うっかりそう口を滑らせそうになりながらも、何とか猫を被った笑みを顔に浮かべ、右大臣は返した。

「左大臣殿・・・これからは貴殿の出番にございまするぞ。今回の件、私めが何とか対処しきれたとは言っても、やはりあのように大々的に敵の兵が押し寄せてきたわけです。国民は今、不安に心を打ち震わせております。国民の不安は、左大臣殿、貴殿がそれを取り除いてやらねばなりませぬ。そこここで、浮気を楽しんでおられる場合ではございませぬぞ」

折角の称賛の言葉を説教で返され、ムッとした表情を浮かべる左大臣。

「・・・わ、わかっておるわ!ただ、侍女たちと挨拶を交わしておっただけであろうが・・・」

しかし、それ以上のことは何も言わず、ただ気分を害したようにどすどすと足音を立てながら、ビーダルはどこかへ消えていった。その場に残された侍女たちは、慌てて右大臣に会釈をすると、ビーダルが行ったのとは反対の方向にすごすごといった感じで退散していく。やれやれ、平和ボケしおってからに。サラディンは、溜息を吐いた。

この国をこれからどういった方向に導いていくか、サラディンにはまだしっかりした展望が見えているわけではなかった。兎に角、未だにあの覇権国面をしているブーバー王の国には、早いうちに消えてもらわねばならない。あの国が目の前にある限り、我らの国に天下の道は開いてはいないのである。

だが、かの国が滅びたとして、それから我が国に未来はあるのか。これから巻き返しを行なってゆくためには、まずしっかりとした後ろ盾が必要であろう。それは一体、何であるのか・・・それこそが、彼の現在の悩みの種である。

ふと、廊下の窓の外に目がいった。日が傾きかけた昼下がりの、青く晴れ渡った空に、うっすらとした細く白い月が浮かんでいた。明日には、三日月になるだろう。

・・・三日月か。そう思うと、サラディンの心には、何だか懐かしく思うような気持ちが、じんわりと広がっていくのだった。この国でも三日月祭が取り止めになって、一体どれくらいの日が経つのだろう・・・。そして、私が最後にあの祭へと赴いたのは、一体いつのことだったか。

けれど、今思い出せるのは、その最後の祭の思い出ではない・・・もっと自分が幼かった頃の思い出である。あの祭の夜こそが、今の自分にとって、最も大切な記憶であった。あの晩、私は三日月に誓ったのだ。きっと将来、この国を平和に導いていけるような、立派なニャルマーになると。10年前の戦争よりももっと遠い過去、戦によって親を亡くし、周りの友人も、皆孤児ばかりであったそのとき。そうだ、そのときである。

あのとき・・・私の近くには、誰かがいたな・・・そうだ。あの方だ。あの方こそが、私の心の支えであったのだ。私は何よりも、あの方のために今の道を・・・。

「こちらにいましたか、サラディン。探しましたよ」

ふと、背後から声をかけられた。驚いて振り向くと、

「こっ、これはこれは、奥方様っ!ご機嫌麗しゅう・・・」

ブニャット王の奥方、つまり王妃の姿が、そこにはあった。王共々にブニャットである王妃は、体も王のようにずんぐりとした体型をしていたが、その表情は柔らかく、愛らしさを湛えている。その容貌と、おっとりとした優しい性格から、宮中でも非常に持て囃されている存在であるが、王のあまりのご寵愛のため、普段は家臣たちの前にも滅多に姿を現すことがない。

しかしその王妃が今、たったひとりで右大臣の前に現れたのである。サラディンは非常に畏まった面持ちで、王妃の前に跪いた。

「サラディン、いいのですよ、そんなに畏まらなくても」

だが、そんな彼に、王妃はとても親しげに語りかける。何よりも彼女は、右大臣のことを役職名ではなく、実の名で呼んだのだ。それには彼女なりの、非常に深い意味が込められていた。

「・・・いえ、それはできませぬ、奥方様。ここは宮中・・・うっかり他の者に聞かれて、あらぬ疑いをかけられるようなことがあってはなりませぬ!」

サラディンは酷く慌てた様子でそう言ったが、王妃はそれを見てクスリと笑う。

「相変わらず、可愛いお方ですね」

言われて、顔がポッと赤く染まるのが、サラディン自身にもわかった。先程までの疲れた表情の彼も彼らしくはなかったが、今の彼もよっぽど、冷酷右大臣と呼ばれる普段の彼からは想像もできないような表情である。

「と、ともかくこのような場所で何をしておいでなのですか!?王が心配されますぞ?」

「大丈夫です。今、王はお昼寝のお時間ですから。ちゃんといつものように、私の“さいみんじゅつ”で眠らせておきましたので、それはもう、ぐっすりと」

・・・とんでもない話である。それが王家の常であると思うなら、ちょっと不安になってしまう気もする。

「ところでサラディン、あなたも、最近ちゃんとお休みは取っています?またいつものように夜更かしばかりしていては、体を壊しますよ」

「いえ・・・まぁ・・・」

痛いところを突かれたと思った。

「・・・うふふ、やはりそうでしたのね。あなたは昔っから、夜更かしが大好きでしたもの・・・私も、いつも楽しませてもらっていましたわ。あなたの冒険に」

懐かしい話であった。彼らがまだ幼い頃のことである。親もいない、住む家も無い彼らは、それでも生き延びていこうと、皆で固まり、必死に暮らしていたのだ。

そう、あの頃は自分も、王妃も、戦争孤児として暮らしていた。王宮に仕えるようになった今では、とても信じられないようなことであるけれども。

そのとき、彼らにとって一番怖いものは夜だった。夜になると、戦争で堕落した大人たちが、よく路地裏に屯していたのだ。そこにいたのは、戦後の退廃した世の中で自棄を起こし、目に映るものをところ構わず壊すような、酷く暴力的なポケモンや、他人のものにも構わず手を出し、酷い時には産まれたばかりのベビィポケモンまでを攫い、それを奴隷市に売買して姑息にポケ(金)を稼ぐような泥棒ポケモンばかり。それはもう、昼間の警察も手を出せないような有様である。けれどそんな夜にこそ、子どもたちは食糧をかき集めるため、街の中に繰り出していかねばならなかったのである。

その先陣を切ったのは、いつもサラディンであった。怯える仲間を、彼はいつもこう言って励ました。僕らが今から繰り出すのは、冒険だよ。どきどきワクワクの冒険さ!そりゃ、怖いモンスターもいっぱいうろついてるけど、きっとその先には、おいしいご馳走や金銀財宝が待っているんだ!そして、それを先に見つけたものが、本当のヒーローになれるんだぜ!なぁ、皆もヒーローになりたくないか?さぁ行こう、冒険へ!

そんな彼こそ、当時まだ彼と同じくニャルマーだった王妃にとっては、ヒーローであった。寂しいとき、怖いとき、サラディンはいつも、彼女のことを励ましてくれた。

勿論、危険な目にも何度も遭った。彼らにはいつも、危険が隣合わせだったのである。お金持ちの家に忍び込んだりして、番犬のガーディに襲われるなんてこともしょっちゅうだった。そんなとき救ってくれたのも、またサラディンだ。彼は度胸だけでなく、力の方も強かった。どんな強敵を前にしても、機敏な動きで“ねこだまし”を食らわせ、めちゃめちゃに引っ掻いて、追い返してやったのである。

「・・・でも、覚えていますか。あのお祭の晩のこと・・・。あのときは私、本当に怖かった・・・あなたも、私も、本気で死んじゃうんじゃないかって、思いましたわ・・・」

祭りの晩・・・そう、戦後の復興で、久々に三日月祭が行なわれた、あの日だ。あの晩、彼らはすっかり舞い上がっていた。やっとこの国にも平和が訪れたのだと・・・もう怖い大人はいなくなってしまったんだと、浮かれていたのだ。

そんなとき街へ繰り出したサラディンの一行から、王妃が行方不明になった。まさか、いつも駆け回っている街で、迷子になった筈は無い。だとしたら、攫われたのだろうか。

サラディンは、仲間を皆、住処へ帰すと、ひとりだけ王妃を探し出そうと、街の中を駆け回った。それはもう、死に物狂いだった。力の強かったサラディン、いつも皆を励ましていたサラディンが、あんなに取り乱したのは久し振りのことだった。

そのとき初めて、彼は怖いと思った。ひょっとすると、彼女はもう戻ってこないかもしれない。ポケモン攫いに連れて行かれたか、或いは、暴力ポケモンに殺されているのかもしれなかった。

仲間を失うということを感じたとき、サラディンは初めて、身の凍るような恐怖を感じたのだった。

やがて、彼は路地裏で、彼女の悲鳴を聞いたような気がした。急いで声のした方へ駆けつけると、そこに彼女はいた。しかし、彼女だけではなかった。彼女は自分よりも数倍体の大きなポケモン、ケッキングに捕まり、身動きがとれないような状況にあった。助けなければ。そう思って、サラディンはすぐさま敵に飛び掛かり、得意の“ねこだまし”をお見舞した。

しかし敵は、突然の彼の攻撃に怯むことはなかった。ギロリとサラディンを睨みつけると、さっきまで捕まえていた王妃をひょいと後ろへ放り投げ、彼の前に岩のように立ちはだかった。

このガキ、俺に喧嘩売ろうってのか?笑いを含んだ台詞を吐き、敵はずんずんとサラディンの前に向かってきた。

攻撃は、一瞬の出来事のようであった。サラディンにも、何が起こったかよくわからなかった。気がつくと彼の体は、空高く放り投げられていた。どこまで飛んでいくかわからない。高く高く飛ばされ、しかし最高点に達してからは、落下はすぐに始まった。

強く地面に打ち付けられるサラディンの体。バラバラになってしまうかというような衝撃が、彼を襲った。目の前にいたケッキングは、馬鹿にしたように唾を吐いた。ケッ、“ちきゅうなげ”ごときでこのザマたぁ、威勢の割りに大したことねぇな。

そして敵は、地面に伸びたサラディンを前にしてしゃがむと、面白いようなものを見る目つきで、サラディンを睨んだ。サラディンは、それに対し、怒りのこもった目で睨み返した。

「・・・フン、まだやるつもりでいんのか、コゾウ?・・・ったく、ムカツク目つきしやがって!!」

ぎゃっ、という音がした。それは悲鳴だったのか、それとも自分の体が傷ついた音だったのか、よくわからなかった。サラディンの左目からは、ぼたぼたと赤いものが零れ出した。しかしそれを捉えることができたのは、右目だけだ。当の左目は、そのときから全く機能しなくなっていた。

敵は、彼に踵を返すと、また王妃の元へ行こうかとしていた。やめろ・・・。そう言いたかったが、声が出なかった。ひょっとして、このまま死ぬのだろうかと思った。体は、感覚を失くしかけていた。引っ掻かれた左目も、燃えるように熱かった。

しかし、負けるものかと彼は、心の中で強く叫び続けた。声が出なくても、体が動かなくても、例え、自分の命が消えてなくなろうとも、仲間を助けなければならないと思った。

すると、奇跡は起こった。

何か思いもよらない衝撃波のようなものが彼の体から放出し、敵を捕らえたのだ。敵は、ぐはっと一言呻いた後、その場に崩れ落ちた。彼が最後の最後に放ったもの、それは彼自身も知ることのない力だった。彼のずっと奥で眠っていたちから、それこそまさに“ひみつのちから”である。

敵が倒れたその先に、王妃はいた。酷く怯えて、哀しげな表情を浮かべていた。そんな彼女を慰めようと、サラディンはめいいっぱいの笑顔を彼女に作った。

「もう、大丈夫だよ・・・」

そのとき、ようやく彼の口から声が出た。王妃は目から大粒の涙を零しながら、ワッと彼のほうへ駆け出してきた。

彼女に抱きかかえられながら、彼は語りかける。大丈夫かい?彼女は、うん、と答えた。・・・でも、凄く痛いことをされた。とっても、とっても苦しかった、怖かった。・・・わかった、大丈夫、もう何も言わなくていい。・・・でも、サラディンの方が、もっともっと痛い思いをしたんでしょう?目も、こんなに血だらけになって。・・・いや、大丈夫、僕は平気だから。

「ほんとう?」

涙を沢山溜めた目で、彼女は訊いた。サラディンは、うぅんと唸りながら、

「いや・・・でも、ちょっと苦しいかも・・・」

決して、ちょっとどころではなかった筈だが。

しかし、助けが来たのはその直後のことだ。孤児の仲間たちが一斉に、彼らの元へ駆けつけてきたのである。

「み、みんな!?住処に戻った筈じゃあ・・・」

「そんなわけないじゃん!サラディンが帰ってこないで、安心していられるわけがないでしょ?あんた、私たちのヒーローなんだから!」

仲間の女の子のひとりは、そう言ってプンプン怒った。一方で、男の子たちはけらけら笑う。

「でも、おい、見てみろよ。そのヒーローが、今お姫様のお膝の上で、おねんね中だぞ?」

サダディンは、恥ずかしさのあまり、体がボッと熱くなった。次の瞬間、彼は王妃の膝の上から、バッと飛びのいていた。

「おっ、おねんねなんかしてないぞ!僕は、ホラ、この通り元気さ・・・アイタッ!」

何やらグキっとマズい音がして、サラディンの体は崩れ落ちた。仲間たちは慌てて彼を支えに走ったが、そのときになって初めて、王妃は声を立てて笑った。

その様子を、皆は目を丸くして見つめていた。彼女は笑いながら、こう言った。

「サラディンって、可愛い!」

か、可愛い?そう言われて、皆の顔もだんだんとニヤケ始めた。そして笑いは、全体に伝染していった。当のサラディンも、もはや可笑しくってしょうがなかった。

そして、笑ったら笑ったで、王妃はまた泣き出した。緊張の糸が切れて、感情がおかしくなったのかもしれない。えーん、えーん。目からはまた、ウソハチのようにぽろぽろと大粒の涙が零れていた。それを、サラディンはひしと抱きしめた。今度は彼が、彼女を支えてあげる番だった。

笑ったり、泣いたり。この戦争孤児たちは、みんなそうやって、共に一生懸命生きていた。

>>第十三話
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コメント
今回はサラディンの過去の話だったんですね。
ぃゃーいい話です(゜-Å)
【2008/02/05 10:55】 URL | §ロータリー§ #-[ 編集] | page top↑
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