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Pokemon QuestⅢ:砂漠の魔獣2~The Mystic Moonray~⑨ 【2008/01/09 00:00】
第九話:夜明け
>>はじめから >>前回の話

辺りは一切の闇で包まれていた。

微々たる光も差し込まぬ完全な闇、という表現がある。それと同じだと考えてもらえばよい。けれど、よくよく考えてもみれば、その表現には矛盾があることに気付くだろう。光というものが影によって際立つのと同じように、闇もまた、光の傍でしか現れないものなのだ。さもなければ、それはもう闇と呼ぶことすらもできない。何も無い場所、つまり虚無ということになってしまう。

しかし、その空間を表現するのに他の言い回しがあるものか。とにかく、一目で見てすぐそれとわかる、全き闇であった。全てを恐怖で埋め尽くした、そのような世界であった。

彼は、そこにひとり佇んでいた。一体いつからいるのか、また、どうしているのか、さっぱりわからない。ひょっとしたら彼は、元々ここで生まれ、育ってきたのかもしれない。そうだ、彼は知っていたのだ。この闇も、恐怖も、全て今までその身に馴染んできたものだ。教え込まされ、刻み込まれてきたものだ。

だが、その闇に今、新たな恐怖が加えられようとは。

それは、声だった。声は、聴こえる、というよりも、轟く、というよりも、放り投げられた、と表現するのが相応しかった。

それはまるで、先の尖った槍のように、彼の元へと飛んできた。それも、とてつもなく硬い。まるで地下深くで固められたルビーでできているかのような槍だ。彼はそれを避けることもできず、直撃を受けた。心臓が貫かれたような感覚であった。まるで体に力が入らない。その一撃が、彼の全ての体力を抉っていったかのようだった。彼の体はうつ伏せに、大きく倒れた。

しかし、声はまだ止まなかった。次から次に投げられては、彼の身に刺さってきた。

咄嗟に耳を塞ぐが、何の効果も得られなかった。声は、彼の耳からではなく、頭へと直接響いてくるようだった。恐ろしい、暴力的な声に、彼の精神は揉みくちゃにされた。その声に込められていたのは、憎しみだった。嘗て、これほどまでの憎しみを、自分は感じたことがあっただろうか?

もうやめてくれ、もうやめてくれ・・・!そう叫ぶように、彼は転げまわって、呻いた。アァァアァア・・・アアアァァアアァアアアッ!!言葉にならない悲鳴となって、それは彼の口から漏れた。しかしそうするほどに、恐怖の声は、彼の体を蝕んでいったのだった。

それは正に、地獄にいるのと等しかった。


「“SAD01”、“SAD02”、“SAD03”・・・」

番号が付けられた盾を、兵士たちは与えられた。番号は、兵士たちそのものに付けられた番号と同じであった。それが、彼らの名前であったのだ。

彼らは、生まれてから一切の愛情を受けることも無く、ただ画一的な方法で育てられてきた。朝起きてから夜眠りに付くまで、彼らに強いられてきたのはただ、戦うことだけ。それ以外のことは、一切教えられなかった。

言葉すらも、彼らには必要とされなかった。指揮官が「ギー!」と叫べば兵士たちは皆右を向き、「ガァー!」と叫べば前へと駆け出した。

食事は、敵と戦い、倒すことで初めて与えられた。彼らにとって、戦うことと食べることは等しかった。

それがその国の兵士。戦うために生きる者、また、それ以外では全く生きる意味を持たぬ者だった。

そのようにして生きてきた中で、彼ら兵士たちは、何を感じてきたのだろう。喜びや悲しみといった感情は、そこには芽生えなかった。あるのはただ、恐怖だけだ。倒さねば、生きられない。だから戦わねばならないという、重圧だけであった。

「実に頼もしい兵士たちだ」

その国の王は、そうやって兵士たちを育て上げてきた宰相に、そのような賛美の言葉を送った。

「けれど、その目を見るのは恐ろしい・・・そこに映っているものはまるで、地獄の風景のようだ」

同時に、そのような恐れの声も。

いつしか兵士たちは、皮肉を込めてこういう名前で呼ばれるようになった。“地獄の死者”、“殺戮兵器”・・・しかし最も彼らに似合うものとされる名は、これであった。

“哀しみの戦士”。

「・・・なるほど、よく言ってくれたものですな。しかし、そのような名で呼ばれることこそ、彼らには相応しいと思いまする。彼らは、“哀しみ”などという感情を持つことはありません。なぜなら、彼らの存在自体が“哀しみ”なのです。国を、王を、そして国民全てを守りぬくため、その憂いの一切を背に負って、彼らは戦います。だからこそ、彼らは讃えられるべき存在なのです」

彼らを作り上げた国の宰相は、皮肉をも味方につけ、彼らの存在をそうやって肯定した。

だが、最終的にその国は、滅びの道を辿ることとなった。敵国が雇った、たったひとりの魔道士の手によって。

兵士たちが敗れたあとは、殆ど無条件とも言っていいような状態で、国は降伏した。土地は占領され、王はその座から失脚し、宰相は国外へと追放された。

そして“哀しみの戦死”たる兵士たちは捕虜となり、今や戦勝国の牢の中で、暴れもせず、不満も言わず、寡黙に暮らしている。事情を知らない者たちには、やけに大人しい兵士たちだ、と気味悪がられたものだ。「ギー」だとか、「ガァー」だとか、擬音語のような命令を発せられない限りは動くことができないので、仕方あるまい。

彼らは今も、指揮官からの次の命令を、延々待ち続けているのだった。ただ、彼らの中の六番目の兵士、“SAD06”という名の付けられた兵士ひとりを除いては。

その兵士だけは、未だに遺体も、身につけていた武具も発見されていないのだった。


なぜ彼は逃げ出したのだろう。

仲間とは違う、このような苦しみを味わうために、一体なぜひとりだけ逃げ出す道を選んだのだろうか。

尚も地獄の声に痛めつけられながらも、彼は思い出そうとしていた。そう、思い出そうとしていたのだ。つい先程まで、自分はこの闇の中で生まれ、そこだけで育ってきたものだと思っていた筈だった。しかし、そうじゃないことに、彼は今気付こうとしていた。何かを忘れている。自分はまだ、これ以外にも何か世界を知っている。そこには、こことは違う何かが、ちゃんと存在していたのだ。恐怖だけじゃない。あれは・・・あのとき感じた、感情は・・・。

・・・感情?感情とは、何だろうか。わからない・・・けれど、確かに覚えのある、何かだ。一体それは、何だろう・・・。

「ようやく、君にもそれが芽生えてきたようだね」

ふと、彼は突き刺さる槍が途絶えたのを感じた。いや、正確には、彼の周りが何かで覆われ、守られていたのだった。それは、何かの植物の葉のようだった。しかし一枚一枚が、とてつもなく大きい。それが何枚も重なり合って、ドーム状に彼の周りを囲んでいたのだ。

「“リーフガード”・・・今、ボクの力を、君に分けているんだよ」

と、目の前に何かが現れた。体が、淡い色をしたとても柔らかそうな毛で覆われ、耳の先、尻尾の先が、葉のような形をしている。リーフィアだ。リーフィアが今、彼に語りかけているのだった。彼は、そのことに驚いて目を丸くした。

「フフッ・・・ボクが語りかけることが、キミにちゃんと理解できているのにびっくりしたのかい?」

それは、リーフィアの言う通り、とても不思議なことだった。なぜなら彼は、生まれてこの方、言葉を学んだことがなかったのだった。だから、例え何かを言われたとしても、意味がわかる筈などなかったのに。

「・・・それはね、キミに今、大切なものがちゃんと備わっているからだよ。心さ。ボクは今、直接キミの心に訴えかけている。言葉なんかじゃなくて、ありのままのキモチを、そのまま・・・」

リーフィアはそう言って、またフフッと笑った。心配していたことが無くなったときの笑みだった。

「もしキミに、心さえなければどうしようかと思ったよ・・・その時こそ、もう何も伝えられなくなっちゃうからね。よかった、本当に」

それでもまだあまりピンときていない彼に、リーフィアはこう続けた。

「それにしても、大分酷くやられちゃったようだね・・・今、治してあげるよ」

そして、小さな前足の先で、軽く彼の手に触れた。温もりが彼の体を包んだ。それでようやく、彼は気がついた。今感じているこの暖かさが、恐怖が払拭されていくようなこの感じこそが、感情というもののなせる業なのだと。

彼はリーフィアから、確かな優しさというものを、今感じ取ることができたのだった。

「さぁ、立ち上がって」

リーフィアが言うと、彼は体を起こし、何とか二本の足で立ち上がった。風前の灯、または風前のヒトカゲの尻尾ともいえるほど衰えていた彼の体力は、今元に戻ろうとしていた。

リーフィアはそんな彼を見て、優しく微笑み、再び口を開いた。

「ねぇ・・・聴こえるかい?キミを呼ぶ声が・・・あの、恐ろしい地獄の魔獣の雄叫びなんかじゃない、キミを助けようとしている、大切なポケモンたちの声が」

耳を澄ませば、確かにそれは聞こえた。今までの声とは完全に違う・・・一生懸命手を差し伸べ、彼を闇の中から助け出そうとするような声だった。

「あの声の主の元へ行ってくれないかな?ボクの代わりに、キミに支えてやって欲しいんだ」

そしてリーフィアは、そう言った。今初めて、少し寂しげな感じの表情を見せながら。

彼は、そんなリーフィアに手を差し出した。リーフィアは驚いたような顔をした。彼は、お前も一緒に来いと、そう言っているかのようであった。

「ありがとう、キミ、優しいんだね・・・。でも、ゴメン。ボクは、だめなんだ・・・ボクは、もう・・・」

次の瞬間、恐ろしいことが起こった。

地獄の槍が、彼らを守っていた葉の盾を突き破り、彼らの元へと飛んできた。しかしリーフィアが、咄嗟に彼を庇って、その身に槍を受けた。

優しい色をしたリーフィアの体が、真っ赤な血で染まった。

「・・・はっ・・・走って!」

リーフィアは、最後にそう言った。

周りの葉は、もはや盾の役割を放棄してしまったかのように、枯れ果て、茶色に変色し、溶けてなくなってしまった。彼は、急いでその場から駆け出した。

逃げねばならなかった。再び迫り来ようとしている恐怖から。いや、違う。逃げるのではない。生きるのだ。助からなくちゃならないんだ。自分を救ってくれた、あのリーフィアのためにも。

彼の目からは、涙が溢れていた。それが涙というものであると、彼は知らなかった。けれど、止め処無く次から次へと溢れてくるこれも、感情であるということを彼は知った。

哀しみを感じることのない筈だった戦士は、今や、ありとあらゆる感情を、その身に備えていた。ただ自分が気持ちいいとか、苦しいとか思うだけじゃなく、他者を想って感じる痛みも、また。

ふとそのとき、彼を助けようとする天からの声が、光に変わったのを、彼は感じた。眩いほどの光だった。それが、今まで辺りを包んでいた闇を、徐々に払いのけていった。そして光は、彼の体をふわっと包みこんだのであった。

ただがむしゃらに走っていた彼の目の前には今、道が照らし出されていた。この道を進めば、きっと助かる。さぁ、出口はもう目の前だ。

しかしそのとき、背中に鋭い何かが突き刺さった。声だった。光のほうの声ではない、闇の底から響いてくる魔獣の声が、まだ彼を動かすまいと襲い掛かってきたのである。

視界がぼやけた。すると光は、たちどころに弱まっていくようだった。目の前の道も閉ざされた。温もりも消え、足の方から凍りつくような寒さが広がっていった。感情は、憎しみに蝕まれていった。

もう、光は彼を照らしはしなかった。やはり、無理だったのだろうか。もう自分は、このまま地獄に落ちるだけなのか。完全なる袋小路に陥れられてしまったかのようだ。

けれど、彼はまだ諦めようとはしなかった。このままで、終わるわけにはいかないのだ。前へ進むその足を、決して止めることはできないのだ。

やがて、時間も動き出す。もうすぐ夜が明けようとしていた。この闇を、夜を溶かして、光が世界に溢れ出そうとしていた。朝が来るのだ。

決して世界は永遠の闇ではないことを、彼は知っていた。朝には、太陽が昇る。輝きが世界を照らすのだということを。いや、夜にだって、月というものが照らしてくれるじゃないか。

彼は、ズタボロの体のまま、足を一歩踏み出した。その一歩が、一体どれほど大切な一歩だったろう。踏み出すと同時に、世界は再び光で満ちた。もはや、どんな闇でも覆いつくすことのできない、強固な輝きである。

彼の命は、再び音を立てて燃え上がったのだ。


レオナは目を覚ました。

部屋は、蝋燭の明かりが消え、少し薄暗かった。しかし直に夜明けを向かえ、朝日がカーテンの無い窓に眩しく差し込んできた。

そこでハッとした。患者は・・・サンドパンは、一体どうなったのか。確か、薬が切れて、再び暴れ出して・・・それを皆で必死に鎮めようとしていたところまでは覚えている。それから、ちゃんと鎮められたのだろうか?それとも、無理だったのか・・・。

ふと、自分の手が、患者の手を強く握っていたことに気付いた。そこからは、死後の冷たさではない、確かな温もりが感じられた。

そしてもう一つ、驚くべきことが起きていた。

患者の目が、今にも開きそうになっている。ウゥンと、少し苦しげな声を上げながらも、彼は意識を取り戻そうとしていたのだった。

「・・・お願い、起きて」

レオナはそんな彼を包み込むような優しい声で、そう言った。その言葉が通じたのかはわからない。しかし患者は、その直後、確かに目を開いた。

そして、優しさを湛えるような、そんな瞳で、レオナを見つめたのだった。

レオナの目から、涙が溢れ出した。そのまま彼女は、小さな女の子のように、ワッと声を上げ、兵士の胸にその顔を埋めた。

兵士は、まだ傷む体を何とか動かし、彼女の頭に、そっと手を置いた。そして彼は、今自分の周りを、沢山の優しさが包んでくれているということを感じることができた。

朝日は、今その部屋全体に満ち満ちていたのだった。

>>第十話
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