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Pokemon QuestⅢ:砂漠の魔獣2~The Mystic Moonray~⑪ 【2008/01/11 00:00】
第十一話:食卓(後編)
>>はじめから >>前回の話

今朝の朝食は殆どナースが調理したものだったけれど、スープだけはレオナが作ったものだった。というのも、この診療所の台所のコンロの上には、レオナの作り置きしたスープの鍋がいつも置かれていたのだ。

それは、レダの大好きなスープだった。いや、レダだけじゃない。そのスープは、診療所にやってくる患者たちにも振舞われることがあり、一度飲んだ者ならだれでも、好きになってしまう味だった。勿論、亡くなったレオナの夫も、そのスープの味が大好きだった。こんなに美味しいスープ、一体何が入っているんだい?彼がレオナに尋ねると、彼女は微笑を湛えながらこう答えるのだった。

「お塩でしょ、胡椒でしょ・・・そうですわね、特に珍しいものは入ってませんわ。まぁ、強いて言うなら、“優しさ”かしら」

そんな冗談っぽいその台詞にも、彼女の夫は充分納得してくれた。

優しさこそが、この夫婦にとって、最もたいせつなものだった。レオナの優しさがあれば、夫はどんなに仕事に疲れて帰ってきた夜も、寝不足で気分が優れない朝も、たちまち笑顔になってしまうのだった。まるでお天気の日に干した毛布のように、ほっこりと暖かく包んでくれる優しさ。それが、夫がレオナのことを最も好きな部分であった。それさえあれば、他のどんなものも必要無かった。

そう思えるほどに、たくさんの優しさに包まれた、幸せな家庭であった。けれども、もっと欲を言えば・・・レオナは一度、こんなことを夫に言ったことがあった。

「あたしたちにも・・・子どもが欲しいですわ」

家庭を持つ女性ならば、誰でも持つ望みであった。夫はそれに、そうだね、と同意の返答をしたが、レオナはそのとき、夫はもっと別の望みを抱いているのではないかということに気付いたのだった。それこそが、彼が家庭を離れ、戦場へ赴くことだったのだとわかるのは、それからすぐ後のことである。

だが、それがわかる前からも、レオナは決して夫を咎めることは無かった。彼は、自分の夢のために、ただまっすぐ生きているだけだということを知っていたから。そして、彼のそういったところが、レオナが最も好きな部分であったから・・・。

そんなことを思い出し、つうっと、涙が零れた。

それを今、掬い取るように拭く手があった。

レオナは、それでハッした。目の前のベッドには、サンドパンがいた。彼は身を起こし、レオナが運んできた朝食を食べていたが、彼女が突然流した涙に、きょとんとした表情を浮かべていた。

レオナの目から零れかけた水滴がなんなのか、その兵士は知らなかった。機械のように育てられてきた中で、完全に忘れ去られていたものだった。しかしそれが急にレオナの目から零れそうになって、彼は反射的に、それを長い爪の先でそっと掬い取ったのだった。

レオナは最初驚いたが、兵士はそれを自分の鼻の先に近付けると、くんくんと匂いを嗅ぎ始めた。その、何だか生まれたばかりの子犬、ガーディのように可愛らしい仕草をする彼を見ているうちに、レオナはつい可笑しくなってぷっと笑い出してしまった。

次にびっくりしたのは兵士の方だ。さっきまで何だか悲しそうな顔をしていたくせに、いきなり笑い出すとは・・・再び怪訝な表情を浮かべる彼に、レオナは笑いながら、ごめんなさい、と言った。

そして、笑ったら再び涙が零れた。さっきのとは違う涙だった。少しだけ、幸せな涙だった・・・。

兵士の容態は、もうすっかり良くなっているという程ではなかったが、少なくとも自分ひとりで食事が出来るくらいには回復していた。けれども問題だったのは、彼が食事の仕方を知らないということだった。ともすれば全部手掴みで食べ、また暴れた時のように料理を散らかしてしまいそうになる彼に、レオナは食器の使い方を教えてやった。

お肉はナイフとフォークで食べるんですの。木の実は、食べてから皮を吐き出すんじゃなくて、最初に皮を剥いてからですわ。そういった一つ一つのことを教えなければならないのは、まるで赤ん坊の相手をしているような気分だった。が、それは同時に、レダがもっと小さかった頃、彼の躾をしていた懐かしい記憶も蘇らされて、レオナには愉しい仕事であった。

それに、この無知な兵士は、意外に飲み込みが早いようだった。言葉を喋ることも知らずに、わたわたとやらされているようだったが、ほんの数分の間に、長い爪の生えた匙が持ちにくい手でも、ちゃんと上手にそれを使いこなすことができるようになった。

しかし、レオナ特性のスープに差し掛かったとき、それを口にした兵士は、熱さにびっくりして思わず匙を放り投げてしまった。レオナは慌てて、ごめんなさいっと謝りながら、兵士からスープの器を取る。そうだ、これも教えてあげなければなかった。

「スープはこうやって、息を吹きかけて冷ましながら飲むものなんですわ」

そう言いながら、レオナは兵士から取った器のスープに、ふーっ、ふーっと息を吹きかけ始めた。と、それを見ていた兵士、とつぜん、顔をレオナの前に近づけてきた。

またびっくりしたレオナ、思わずきゃあっと悲鳴を上げて、スープの器を手から離し、体のバランスを崩して後方に尻餅を付いた。

どっしーん!

が、自分ひとりが倒れたにしては、ちょっと大げさな音がした。振り向くと、部屋の入り口の扉が開き、外からキホーテやコガラシ、それにもうひとり、ドーブルが転がり込んできたのであった。

「・・・な、何!?何なんですの!?」

再び驚きの声を上げるレオナ。

「イテテ・・・・・・いや、アハハ!これはそのぅ、つまりやな・・・」

何だか誤魔化し笑いをしながら、しどろもどろ、キホーテが答える。が、今まで外から覗き見していたなんてことを堂々と説明できる筈が無い。

「だ、大丈夫でござんすか!?シャラクさん!!しっかり!!」

それより大変なのは、一番前にいて、コガラシとキホーテの下敷きにされたドーブル、シャラクである。彼は泡を吹きながら、それでも何事かウンウン唸っている。

「い、愛しのレオナさんが・・・サンドパンさんとキスを・・・」

どうやら彼には、さっきの光景がそう目に映ったようだった。

さて、この騒ぎの張本人のサンドパンはというと・・・。

レオナが放ったスープの器を器用にも受け取り、ふうふうと冷ましている最中である。彼がレオナに顔を近づけたのは、単にレオナの真似をしようとしてのことであったとさ・・・。


「お仕事ご苦労様!何だか、すっごく疲れてるみたいだけど・・・大丈夫?」

「あ、ハイ・・・大丈夫です、この通り、ゲンキ、ゲンキ・・・」

心配して声をかけるプクリンに、シャラクはそう言って腕に力こぶをつくってみせるような仕草をした。全く筋肉の無い腕であったが。

「ほんとう?きつかったら今日、代休取ってもいいよ?」

再びそう言われたが、シャラクはやはり、いえ、いえ、今日は重要な仕事の日ですんで、と答えた。レオナの診療所での仕事を終えて真っ直ぐ職場に赴いたこのドーブルは、本当は、酒の飲みすぎとその後の騒動のせいでマトモと呼べるような体の具合ではなかったが、今日の仕事はどうしても休めなかった。

それと言うのも、明日この国で、三日月祭が行なわれるからだ。近隣の諸国では戦争が起こっている現在、観光でやってくる者の数は月ごとにだんだんと減ってきてはいたが、それでも、今月も沢山のポケモンたちが祭りのための入国の申請していた。

勿論、申請した全てのポケモンが祭りの観光目的というわけではないだろう。物騒な世の中だけあって、中には強奪の目的で入ってこようとする輩もいるに違いないが、それでもよっぽど怪しかったり、すぐに前科者であるとわかったりするような場合を除いては、入国を規制されることはなかった。

あの陰険そうな顔つきの役人グレッグルが、入国者を規制する法案を制定すべきだと声高に叫ぶのはそのためであるが、その法案がまだ制定されぬ今は、入国管理官のシャラクやプクリンたちが、危険ポケモンの判断を行なっていかねばならなかったのだ。

シャラクは、そうしたポケモンたちの目利きにも優れていた。何か悪いことを企んでいそうなポケモンは、顔を描こうとするときにすぐわかるのだ。邪な心は、顔にすぐ表れる・・・顔一つ一つも、その者の内面を浮き出す立派な鏡である。だから、今日のその重要な仕事を、シャラクは休むことはできなかったのである。

勿論、こんな仕事でない限りは休みたかったと思う・・・いや、体調不良のためだけでは無い。問題は、診療所でのあの騒動にある・・・レオナが、サンドパンとキスするなんて!そりゃあ、必死で看病した間柄だ。愛情ぐらい、芽生えてもおかしくないだろう・・・けれど、自分が憧れる女性が、他の男性と接吻しているのを見てしまったのは、耐え難い衝撃であったのだ。

・・・これはさっきも説明したように、勿論全部シャラクの勝手な誤解であったが、結局彼は、それを誤解と知ることが無いまま、診療所を飛び出してきたのだった。そのとき折角、レオナが彼の仕事への感謝の辞を述べようとしていたのに、それも殆ど聞かぬままであった。大分失礼な態度を取ってしまったようにも思う・・・それでも、恋敵となるあのサンドパンのパスポートを作ってやるのに、何の不備も犯さなかったのは、称賛に値するだろう。いや、サンドパンを恨んでも仕方がないのだ。恨むべきは、あんな現場を覗き見してしまった自分自身なのだから・・・。

はぁ、それにしても溜息が止まらないのはなぜだろう・・・それほどまでに、自分はレオナのことを恋焦がれていたということか。こうなってしまってから、初めて気が付くとは。あぁ、恋心の何たる皮肉なものよ。

と、そんなこんなで呆けたような顔で仕事を続けるシャラクの背中を、ポンポンと叩く手があった。否、正確には前足ということになろうか、それは同僚のハヤシガメ、ナツキのものである。

「なぁ、シャラク。ちょっとあのポケモン、見てもらいたいんだけど・・・」

そう言って、ナツキの指し示す方向、国の玄関たる入国申請者の窓口があるところに立っているポケモンを見て、シャラクはさっきの悩みも一気に吹き飛んでしまうほど、ぎょっとしてしまったのであった。

そこに立っていたのは、体長40センチばかりで、体の黄色いポケモンであった。頭の上でピンと伸びた双方の耳は先が黒く、後ろに生えた尻尾はぎざぎざ。そして、両頬にピンク色の丸いのが付いていると言えば・・・誰でも、それがピカチュウであることはわかるだろう。

しかしそのポケモンは、ピカチュウと呼ぶにはどうも納得いかないような顔立ちをしていた。細長く、刃物のように尖った鋭い目。その目の上にあるのは「これでもかっ!」と唸るように太い眉毛で、下の方には、深い深い谷のように険しいクマが出来ていた。

・・・このようなピカチュウがいるのだろうか、いや、寧ろそうした顔のポケモン自体、存在するのか謎だと思える。それは正しく、絵に描いたような悪人面のポケモンであった。

「い、一体どちらさまで・・・?」

「入国申請者だよ」

いや、そんなことは、そこの窓口に立っているのだから大体予想は付くだろう。

「兎に角、シャラク、相手してやってよ・・・不審な部分あったら、即追い返しちゃっていいから」

そりゃあ、見るからに不審極まりない気もするのだが・・・。

多少へっぴり腰になりながらも、シャラクは窓口に出向いた。

「はい、お名前とご身分、それから年齢をどうぞ・・・」

一応、決まりきったことは聞いておく。目の前に立つと、相手はかなりの威圧感を持っていた。何だか、背筋に悪寒が走る。そんな恐ろしい目でシャラクを数秒睨み付けた後、相手は、顔に似合った野太い声で、こう答えた。

「ピカチュウの威音(いおん)という者だ。職業は警察。祭りの警備強化のために派遣された。年齢は、まだハタチになったばかりだ」

突っ込みドコロが多すぎて、どう返答していいやら困る回答であった。

「あのう、警察の方でしたら、警察証をお持ちで・・・?」

「ネロ署長はいないか!?もう先にこの国に着いている筈だ!!さっさと署長を呼べ!!」

もはや、シャラクの台詞を聞いてすらいない。一体、どうしよう?思わず振り返って、同僚のナツキに助けを求めようとするも、彼はわざとシャラクに目をあわそうとせず、別の仕事に打ち込むフリをしている。

・・・くそう、ナツキめ。こんな厄介な相手ばかり私に押し付けやがって。そう思って恨めしい表情をしてしまうシャラクだったが、兎も角、こんな客はとっとと追っ払うに限る。

「あのう、いくら警察の方でも、警察証がご提示いただけない場合は、入国許可を出すことが致しかねますので、一時お引取り願うという形を取らせていただきたいのですけれども・・・」

「・・・たぁっ、もう、やかましいやつだな!細々した敬語ばかり並べおってからに!私は警察だと言っておろうが!」

いやいや、やかましいのはそっちの方だろう。頼むから早く帰ってくれ・・・。

と、そのときシャラクの背後から声がした。

「やぁやぁ、威音君!遅かったじゃないか!」

「しゃーらーっくクーン!そのポケモン、警察の方だって!入国許可出してあげて!」

プクリンと、そして警察の格好をしたヌオーだった。

「あぁっ、ネロ署長!やっぱり来てたんじゃないですか!もっと早く来てくださいよ、このドーブル、さっきからうるさくって・・・」

同時に声を上げる目の前のピカチュウ。びっくり仰天とは、正にこのことである。

「わはは、威音、お前が警察証を忘れるからいけないんだろうが」

「いやいや、署長が持ってってくれるって信じていたもので・・・」

「このっ、調子イイこと言いおって!若造めが!」

何とも違和感のある内容の会話であったが、少なくともそれは、確かに身内同士のやりとりであることが感じられた。

そしてこの後、シャラクはこの恐ろしい顔のピカチュウのパスポート絵を描くことになる。邪な心は、顔にすぐ表れる・・・顔一つ一つも、その者の内面を浮き出す立派な鏡である。そしてこの顔は、明らかに邪悪な心を表しているように思えるというのに。

・・・少し、疲れているのだろうか。やはり今日、仕事休むべきだったのかと疑問に思うシャラクであった。


「今日の積荷は、たったこれだけなんでござんすか?」

レオナの診療所の前で。ロシナンテの背中に積まれた、昨日よりは明らかに少ない荷物の量に疑問を感じて、コガラシは訊ねた。

「おお、その通りや。今日回るのは、ほんの三件だけやからな」

「さ、三件!?それじゃあ、明らかに午前中で仕事終わっちゃうじゃないでござんすか!!」

驚くコガラシに、キホーテはギラリと怪しく目を光らせ、こう言った。

「へっへ~ん!昼からはまた別件や。明日の三日月祭に出す、出店のための仕入れや」

「出店!?・・・あぁ、そうか。昨日言ってた事、やっぱりやるんでござんすね・・・」

有言実行とは、まさにこのことである。

「さ~あ、稼ぐで♪コガラシ!ってなわけで、レオナ、余った荷物は、スマンけど今日の夕方まで、ここで預かっといてくれな。夜、ちゃんと取りに戻るさかい」

そう言われたレオナ、急に怪訝な表情を浮かべてしまう。

「そ、それは一向に構いませんですけれど・・・キホーテさん、今晩、診療所には帰ってこられないんですの?」

「あははっ、何言うてんねん!今晩まで世話になるわけにはいかへんがな。ワイら、もうパスポート作ってもらったんやからな」

そう言われて、レオナはハッとした。確かにその通りであったが・・・いつの間にか、キホーテたちがこの診療所に帰ってくることを、当たり前のように感じていた自分に驚いた。

「あ・・・いえ、でもサンドパンさんの完治もまだですし、キホーテさんたちも、そんなに直ぐには出て行かなくても・・・」

そして、気付いたらそう言って、彼らが出て行くことを拒むような台詞を吐いていた自分にも。

「あぁ・・・まぁ、あいつはまだ暫く面倒看てもらわなアカンかもしれん。それはほんとに、スマン。感謝するわ。せやけど、元気なワイらまでこれ以上世話かけること無い。ほんとに、今までありがとうな」

しかしそう返されると、レオナも、そうですか・・・、と言うことしかできなかった。しかしまさか、ついこの間まで彼女たちのことを不審に思っていた自分が、別れることを寂しいと感じるようになるなんて。

「・・・そんな!キホーテお姉ちゃん!また泊まってってよ!一緒に夕食食べようよぉ!」

と、今度はレダがそう言って、彼女らを止めにかかる。子どもは、正直なものである。

「レダ・・・」

「ねぇっ、レオナお姉ちゃん!キホーテお姉ちゃんったら、今朝レオナお姉ちゃんの特性スープ、寝ぼけて零しちゃったんだよぉ!」

・・・と、言わなくていいようなことまで言っている。思わずズッコケそうになるキホーテであった。

レオナは、それにうふふっと笑って、こう言った。

「大丈夫ですわ。スープは零したら、また煮込めばいいだけのことですから・・・」

そのときふと、ある記憶が蘇った。レオナが、まだ夫と暮らしていたときのことだ。食卓にて、夫が一度、レオナの特性スープを零したときがあった。そのとき、彼は酷く申し訳無さそうにしていたのだが・・・。

「うふふっ、大丈夫ですわ。スープ、まだ沢山ありますから。零れるくらい、沢山作ってるんですの」

レオナはそんな冗談を返したのだ。それに、夫は苦笑しながら、こう応えた。

「ははっ、ウチには、零れるくらいの優しさがあるってことかい?」

零れるくらいの優しさ・・・そう、確かにそうだった。優しさに溢れた、幸せな家庭だった。けれどもその優しさは、もう零れるくらいにいっぱいありすぎたのだ。

どうして自分は、彼が家庭から離れていくことを止めなかったのだろうか。もし彼が戦場に行きさえしなければ、彼は今も生きていられたのに・・・。あのとき彼を止めなかったのも、つまりは自分にあった優しさ所以のことではなかったのか。

優しさなんて、必要以上ありすぎてもいけないのかもしれない。彼のことを愛すのなら、もっと彼を縛り付けておくような気持ちも必要だったのかもしれないのだ。もし、自分にあるのがただくだらない優しさであるばかりに、彼を失ってしまったのだとしたら・・・。

「・・・どうしたの、レオナお姉ちゃん?」

ふと気が付くと、レダが心配そうな目で、こちらを見ていた。レオナは慌てて、いえ、何でもありませんわ、と言って笑ってみせた。

「そうやな・・・レオナのスープ、結構美味しかったしなぁ・・・」

と、キホーテが言った。その台詞に、レダはキラリ目を輝かせる。

「でしょ!だったら、また一緒に食べようよぉ、皆で食べる方が美味しいもん!ね、いいでしょう?」

「うーん、まぁそう言われるんやったら、言葉に甘えさせてもらうことにしようかいな?」

そんな台詞が彼女の口から出てきて、自分も思わず笑顔になってしまうレオナだった。

「すまん、レオナ。またご馳走してもらってもええか?」

レオナはまた、うふふっと笑って、こう応えた。

「勿論ですわ!その代わり、またお夕飯の材料、買ってきてくださいね」

「・・・あははっ、わかっとる、わかっとる」

そうして、キホーテらは、また昨日のように、仕事へ出かけていった。また、作ってあげなくちゃ、とレオナは思った。彼女たちのために、美味しい夕飯を。

そうだ、零れたスープは、再び器に戻すことはできない。けれど、また作り直せばいいじゃないか。壊れてしまった、あの幸せな家庭も、きっとまた作り直せるのだと思う。材料は、少し違うかもしれない。けれど、零れるくらいの優しさがあれば、また同じ味を作り出せるのだと思う。

優しさが多すぎていけないなんてことはない。零れるくらい、いっぱいあったっていい。だからこそあたしは、あたしたちは、あのとき幸せを感じることができたのだ。そしてこれからも幸せも、きっとその優しさで築いていこう。夫が最も好きだった、あたしのその優しさで、築き上げていこう。

レオナは心の中でそう呟いて、空を仰いだ。変ってしまったもの、失われてしまったものがある。その一方で、相変わらずの自分がいる。けれども、それで何も間違ったことはないのだと、空にいる彼も、言ってくれているような気がした。

また、晴れ渡った清々しい一日が、始まろうとしていた。

>>第十二話
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